第167話 狸、寝取られる
夏は暑いものだと知っています、知っていますけど自分はアイスクリームの化身だったんじゃないかと錯覚させてくれる暑さが堪んないんですけど誰かどうにかして!
それは置いといて弁天様は葛葉嬢に何をしてるのか?
という事で本日もよろしくお願いします
【手土産ついでにご挨拶をと来たまででおじゃるよ】
手土産って手ぶらじゃん、などというガキのような突っ込みは我慢して邪魔な牛を跨ぎながら白塗りお歯黒に愛想笑いをして見せる。
「こいから仕事けん、うてあいきえんとばってんどげんすっですか?」
なんせ弁天様のハニートラップから葛葉嬢を救い出すという重要なミッションが控えてるんだからね。とりとめのない白塗りお歯黒の戯言の相手とかしてらんないんだからさ。
【いやそれとでおじゃる、ちょいと報告せねばならん事があって話をしたいのでおじゃるよ】
「出勤前ん忙しか時間にそいもまだ朝飯でん喰っとらんとにおまけに婚約者ん窮状ば見捨ててまで聞かんといかんごたっ話とね?」
いかん、苛立ちから言葉に棘が出てるよ。この神様と知り合ってから訛りが戻んなくてみんなとコミュニケーションが取りづらくなってんのに時間まで取るってどんな罰ゲームだよ。
突然白塗りお歯黒が手に持つ扇子を腰に差すと、右手を水平に突き出しながら眉を顰めて下顎を突き出してくる。
「ア〇ーンじゃなかくさ」
おバカな神様を無視して、跨ぎ終わった牛の尻尾を引っ張って外に出すという無駄な努力をちょっとしてから葛葉嬢の部屋へと向かう僕。
その後ろを慌てて追いかけてくる牛と白塗りお歯黒。
マンションと言うにはささやかな僕たちの社員寮の最上階を占める葛葉嬢の部屋を訪ねると争っている気配が。弁天様が寝込みを襲っていたんだからそれも当然か。
後ろの方では、エレベーターに乗れなかった牛が非常階段の踊り場で自分の身体が引っ掛かって立往生をしている。牛が引っ掛からないほどの幅を確保してたら非常階段じゃないとは思うけど。
葛葉嬢の部屋の扉を数回ノックしインターホンを鳴らしても争う気配が止む気配がない。
不躾ながら合鍵を取り出して開錠をすると中からキャーキャーという嬌声が耳に飛び込んできた。
何をやっているのかと中を覗いても掃除の行き届いた廊下は暗いままで、奥の部屋からの嬌声以外に手掛かりは無い。
意を決して声が聞こえる部屋の扉をノックする・・・嬌声が止む気配はない・・・いよいよ緊急事態か?サラスバティが両刀使いとかって話は寡聞にして知らないが否定できる根拠も無し。
僕の優柔不断に流石の葛葉嬢もしびれを切らしたとか・・・だとしたらここで引き返した方が・・・千々に乱れる心が躊躇いを呼び扉の前で動け無くなってしまった。
そこに追い付いてきた白塗りお歯黒、動く障害物がとうとう動けなくなって放置してきたらしい。
【ほほほっ、これはお盛んなようでおじゃるな。
どないされたでおじゃるか夫君?中に入らぬでおじゃるか?】
お盛んな所にのこのこやってくる間抜けな亭主になれって言いたいのかね、潰れ大福は!
【なんや、まだこないなトコにおるんか。
タマちゃんの旦那さん、いや元旦那さんかいな?
ちゃっちゃと入って決着付けんかい!】
だからデリカシーの無いばばあは嫌いなんだよ!どっから湧いてきたんだこのおばはんは!
【なんや、ワテがここにおる事が気に入らんちゅうんかい。
あの飯屋はワテら八百万の神々の共同神域なんや。アレを中心に5町四方(1辺が約550メートルの四角の範囲)ならアンタらと縁のある神々は顕現でけるんや】
はぁ?共同神域?そんな事初めて聞きましたけど?いつからなの?僕たちの知らない所で勝手にしないでくれよ!
それにしても、どや顔のおばはんがとってもムカつく。5町四方と言わず周囲の5町内の稲荷の祠を全部撤去してやる!
【なんやその眼は・・・はっ!なんや不穏な事考えてやへんやろうな?】
「ごそーぞーにおまかせします」
ウーちゃんを一睨みして気分を落ち着かせると覚悟を決めてドアを開く・・・へっ?
そこには寝間着を着てテレビゲームに興じる葛葉嬢と弁天様とアンジェがいた。
「・・・そろそろ朝食っちゅう時に寝間着ば着てなんばしよっとね」
【いっ、いくら旦那さまとは言えいきなり嫁入り前の淑女の部屋に乱入されるなど失礼では御座いませんか?】
おぅ、この期に及んで開き直りますか。
「こいから朝食ば作りに行こうてしたぎんたすごか声の聞こえてきて同衾がどがんのこがんのって言いよるじゃなかね。
そいのすぐにべんてんしゃんの声っちゃわかいましたし葛葉しゃんの所じゃち気付いたけん心配してきたとばってん?
ちゃんと何度っちゃ呼び鈴は鳴らしたしノックもしとる。
もちろんこん部屋に入る前にでんノックぐらいはしといます。
ばってん知性のある言葉の返ってこんやったしぇん心配して踏み込んだとたい」
どうやら意味が通じたらしく真っ赤な顔して葛葉嬢が睨み付ける。威圧なんて怖くないんですが?
《ターさん♡たらそんなに言わなくってもいいじゃないの。
ちょっとした恋愛相談から女同士の話になってついでにゲームで盛り上がっちゃっただけなんだからさぁ》
恋愛相談からガールズトークになって、までは理解できるがなんでそれからゲームで盛り上がる様になるんだ!
世間じゃ花金なのかも知れんけど週末の地獄の除霊祭りが始まるんだからな?
プラスの年末進行ってヤツで正月の商売を邪魔させないってだけのせいでいつもの月より案件が5割り増しなんだぞ?
「で、何時から起きとっとね?」
1匹と2柱・・・面倒だから3人は咄嗟に沈黙する。さてはこいつら徹夜しやがったな?
「体調不良で除霊失敗とかしよったぎんた自炊して貰うけんね」
料理が出来ない葛葉嬢は顔を引き攣らせて嫌々をしてくる。
なんせ、砂糖と塩・ソースと醤油を取り違えたなんて初級編に留まらず、ゆで卵を爆発させたり、どう贔屓目に見てもどうにか手で千切っただけ程度のを千切りだと主張してみたり、軽く炙るだけでいい筈のするめを炭にしたり、炊飯器に米だけを入れて破壊してみたりと武勇伝に事欠かない女だから自炊は絶食を意味する。生魚を自分で仕留めれば済むアンジェと危機意識が違うのだ。
「当然、外食とかせんよね」
条件反射で頷いて最後の望みが失われた事に気付いた葛葉嬢が、真っ青な顔で盛大に慌てだす。
普段から僕の話に無条件で頷いている報いですよ、少しは自分で考える事を覚えてくださいよ。神様なんだし。
【神ころがしって奥方も例外では無いのか・・・恐ろしいおのこじゃ】
元凶が何を言う。あんたが何に興奮して同衾だ何だって口走ったかは知らないが徹夜してこんな大騒ぎを起こして仕事に支障が出たら名指しで訴えるからね?マジで!
3人の前にあるテレビには、とある配管工とその仲間が競う合うレーシングゲームが映し出されていた事を最後に報告しておこう。
NTRが大嫌いなものでどうしてもこういう形になってしまいました
もし期待していた方がいらしたらすいません
嫌なものは嫌なものなので勘弁してください
この広がらない話をどうしていこうか・・・1週間で続きが出来るか
自分でもハラハラしながらまた来週




