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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
喫茶シリウスと荒ぶる少年(仮)編
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第18話 狐、世界の終焉を決意する

「なぜお判りになったのですか?」


 膝枕をされてる身で上から葛葉嬢に覗き込まれると目が怖くてジタバタしたくなるけど、頭をがっちりホールドされてて逃げ場がない。


「なぜって・・・勘・・かな・・?」


「それは嘘で御座いましょう。旦那さまが私の全てを御存じない筈は御座いませんから」


 そう思うんだったら最初から聞かないで欲しいよ。


「・・・僕は・・・与えられた・・情報・・でしか・・・判断・・・できないんだ」


「旦那さまはいつも私と眼を合わせて頂けません。そんなに私がお嫌いなのですか?」


 好きとか嫌いとかじゃなくて女性全体が恐ろしいのと切れ長の目が恐ろしいだけなんです。


 僕にとっての『女』の原体験は母親と二人の姉です。


 異様なまでに僕に厳しく体罰を繰り返す母と田貫家の跡継ぎだからとか適当な理由を付けて会社まで押しかけてきて金を無心し続けてきた姉たち。姉達からは、小さい時から奴隷の様に殴打されののしられ理不尽な命令を数限りなく受けて実行させられてきました。


 この3人の共通点と言えば、自分の不満を僕にぶつけて発散する事なのだろう。うだつの上がらない夫への不満なのか、満たされない虚栄心に対する不満なのか、外見を装うストレスを発散したいだけなのか、その辺の心理は僕には解らないと言うか理解したくもない。



 あの気のいいおばはん(ウーちゃん)にしたって配下の狐たちには結構冷淡だし、葛葉嬢に至ってはなぜか僕に対する独占欲が底なしで息苦しいし、アンジェは気安いと言うよりも僕で遊んでいる気配が濃厚だし『今すぐにでも逃げたい』ってのが本音だったりするんだ。



 僕の四六のガマよろしく、がっちり抑え込まれてどっと噴き出す脂汗に何を思ったのか葛葉嬢がさめざめと泣きだした。


「私が至らないばかりにとうとう旦那さまに嫌われてしまいました。もうこの期に及んでは致し方御座いません、もう私にこの世に未練など残されておりませんわ。

 いさぎよく黄泉の国へとおもむきこの世の全てを無かった事に【ちょっ、ちょっと待ってぇなタマちゃん!そない早まったことしたらアカンて!伊邪那美命いざなみのみことはんまで巻き込んで何やらかそううのん!

 よう考えてみぃ?旦那だんさんは、タマちゃんとちごうて自分と知りうとったんは7つも前の前世なんやで?その上、今の生きざまときたら親兄弟から知り合いに至るまでことごとく女にえらい目に遭わされて女性不信どころの騒ぎやあらへんやった事は散々説明してきたやないの。

 自分はそんな旦那だんさんを優しゅう包み込んで心をほぐしてようやっとスタートラインに立てるんやってうて聞かせたやないの】・・・でも、私がこれほど尽くしておりますのに旦那さまは私になついていただけません・・・」


 懐く懐かないって、僕はペットじゃないだろ。葛葉嬢の拘束が緩んだ所で、僕は膝枕を抜け出してベンチに腰掛ける。


 眼に入るのは道の向こう側にある朽ち果てかけた様な稲荷のほこら、ははーん、あそこからウーちゃん飛んできたんだな。


 それにしても7つ前の前世とか初めて聞いたぞ?


 神様を前になんだけど、輪廻転生って元々仏教の方から来た考え方だよね。


 神道の方だったら黄泉の国へ行ってお仕舞いみたいな感じじゃなかったっけ?


【タマちゃんの旦那だんさん、魂()うんは器になる身体が果てた後はバラバラに散ってもうたり新しゅう生まれる命の元になったり怨讐に捕らわれて悪霊になったりと色々化けていくさかい、一概に天に召されるやら生まれ変われるやらなんて決めつけられへんのや。

 あんさんの場合は、ひとえにタマちゃんに引きずられて巡り合えるように転生を繰り返してるんやけどな】


 心の中の独白を読み取って返事するのは勘弁してくれませんか。もしかして今までおばはん呼ばわりしていたこともお分かりで?


【当たり前やないかホンマ。事あるごとにワテの事をおばはんおばはんって呼びくさりよって『乙女心』がボロボロやわ】


 傷ついた振りしてるけどこの神様(ウーちゃん)は結構図太いから怒ってる訳じゃないと思う・・・大丈夫だよね?


【やかぁしいわ!ホンマにワテは繊細なんやからな!ホンマやで!ホンマなんやど。信じてぇな!】


 僕がウーちゃんと茶番を演じている間、葛葉嬢は思いつめた様子で|俯≪うつむ≫いている。


 もしかしたら、葛葉嬢って頑張りすぎて空回りするタイプなのかも知れないな。


 そんな風に葛葉嬢を見ていたら、祠の向こうの少し離れた場所から妙な気配が流れ込んできた。


「・・・あれ・・?」


「あ、やはりお気付きになられましたのですね」


「あの・・気配は・・・?」


「今回私が独自で受けた除霊の物件がこの近くに有るので御座います。

 もしよろしければ現場をのぞいて行かれませんか?」


「ずぶの・素人がいたら・・君に・・危険が・・・及びません・・かね?」


《あれなら、タマちゃんが本気出せばすぐに終わっちゃうんじゃない?》


 稲荷社の神域の向こうから漂ってくるほどの気配に、随分と気楽に構えてるねぇ君たち・・・


「今日は現場の下見ですから危険は無いと思いますよ」


「養成所で・・そう・・・習ったんで・・?」


「いえ、養成所では正しい杖の構え方で御座いますとか見栄えする十字架の掲げ方で御座いますとか美しい梵字の並べ方で御座いますとかは入念に教えて頂きましたが、心得と致しましては関係者以外の立ち入りの禁止、除霊の様子の撮影禁止などを座学で教わっておりました」


「僕は・・関係者では・・・あ「旦那さまは旦那さまなので御座います!私の関係者なので御座いますから、関係者で間違いは無いので御座います!」・・・そう・・・ですか・・・」


 横でウーちゃんが溜息を|吐≪つ≫き、アンジェが欠伸をする。


 要するにウーちゃんの忠告を聞いても葛葉嬢の暴走は収まらないし、いつもの事だからアンジェはあきれているって事なんだよな。


 それにしても養成所ってそんなんでよく金取っていたな・・・実践とか鍛錬とかは無かったのか?


「でも・・・仮免なのに・・よく・・仕事・・・取れました・ね・・」


「ええ、父の御友人のお知り合いの方が喫茶店を開きたいけど霊障のせいで仕事ができないとかで父にご相談に来られていたんですが、父の方ではご相談に乗ってあげられないという事で気を落とされていらっしゃいましたので、腕に覚えがある身として一肌脱いで差し上げる事に致しました」


《はぁ~、さすがはタマちゃん“義を見てせざるは勇無きなり”よね》


 多分仮免の半人前が手を出すには、ヤバそうな気配がするんだけどね・・・


 適当にアンジェは調子を合わせているけど、神域を飛び越えてやってくる瘴気からすると意外と大物なのかも知れないんだけどな。


「じゃあ・・・正規の・・・料金で・・やるの・・・かな?」


「とんでも御座いません。父の御友人のお知り合いなのですからお友達価格として正規の半額でやる様にしておりますよ」


 友達の知り合いの時点で友達じゃないだろう・・・それも父親のだろう?


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