番外編 それぞれの結果発表 六式使いと運転手Aの場合
エピローグ編その1で浄霊清浄社の方と日本と来世を繋ぐ会の方が対象になっております
名前がピンとこない方は恐れ入りますが二つ前の章から読み返される事をお勧めします(読んだからって時間潰しにしかならないんですけど)
そんなに引っ張れる話でもないので気楽にお読みください
では本日もよろしくお願いします
思わぬ除霊騒動に巻き込まれた後、翌日も天候不良で予定していた試験がお流れになり一週間がたった頃、浄霊清浄社 関東本部のポストに1通の封書が投函された。
宛名は『浄霊清浄社 関東本部 第一機動課課長 狐塚 秀和様』
差出人は『有限会社 シリウス』。
今時メールやらで通知をしない方が珍しい合否通知書だ。毎日のようにメールを開きSNSでエゴサをしながら一日千秋の思いで結果を待っていた通知に社内が沸き立つ。
実のところ、秀和がシリウスの採用試験を受けていたのは、チームシリウスに潜入して内偵をしあわよくば姉の葛葉を引き抜くという壮大な(言い換えれば身の程知らずな)プランの実行の為だったのだ。まぁ、社長を新入社員が引き抜くとか荒唐無稽の極みのような計画が極々整然と決行されるくらいだから清浄社の内情はかなりな火の車なんだろう。
という訳で、秀和はシリウスの番頭による指名と言う形で試験に参加し、書類審査、適性検査を経てすんなりと最終試験まで辿り着き、とそこまでは会社側の思惑通りの展開になっていたものの初回が恵比寿神の乱入で有耶無耶になり二回目は仕事が入って不参加、満を持して参加した三回目はかなりの自信があると社内では吹聴しているが、実は初回が不合格で三回目が再々試験だったなんて事は誰にも教えられない。
彼の自信の源は・・・姉との縁故である事は詳細を知らされていない社内の者でさえ勘付いているが、本人は隠し通せているつもりだったりする。
「白の六式使い様、いよいよ潜入作戦開始、ですね」
受付のマリンちゃんが眼をキラキラさせて話し掛けてくる。そう、ここでは彼はスターだ。
若くてハンサムで実力がある、となると周りが放っておかないからだ。実際他の会社から引き抜く為にハニートラップを仕掛けられたり高報酬でヘッドハンティングを仕掛けられたりと結構周囲がざわついてたことも随分あったが、それも社長の娘と半年前に結婚した事で治まっている。言って見れば次期社長内定という訳だ。
「まぁ、任せてくれよ」
女癖の悪い彼がマリンちゃんに下心丸出しのウィンクをするとマリンちゃんは顔を赤らめて席へと戻っていく。まだまだ新婚ではあるものの現在二人の同僚と不倫中でマリンちゃんも三人目の毒牙に掛けようと狙っているのは、独身の男性社員から情報が流れていて本人も知っている事を彼は知らない。
横領がバレて古巣東京晴明神社を潰され日霊連を追われた父和英の血がそうなさせるのか、彼は脇が甘かった。
除霊の腕がある程度有りチームシリウスの中心人物である姉葛葉を引き入れる可能性がある事だけが彼が課長職にある要因だという事を、彼には自覚ができていない。
ゆったりとふかふかした課長の回転イスに深く腰掛けると封筒を開封していく。
取り出した便箋を開くと赤い文字が目に入った。
『不採用』
思わずイスから滑り落ちるも何とか取り繕ってイスに座り直し、震える手でスマホを取り出し『(有)シリウス』をタップする。
――はいこちら有限会社シマウマ商事でございます――
間違いに気づき慌てて電話を切ると改めてシリウスに電話を掛ける。
――はい、喫茶シリウスっす。ご用件はなんすか?――
また間違いかと切ろうとしてシリウスの第一事業部が喫茶店だったことを思い出す。
「せ、先日そっちに行った狐塚だけどウチの姉貴いる?」
社会人としてのマナーもへったくれも無い男である。
――社長っすか?今日は朝から『習字の稽古』で忙しいってこっちには寄り付いてないっすね。
伝言でもするっすか?――
「習字の稽古って何だよ!オレは弟の和秀だ!四の五の言ってねぇでさっさと繋ぎやがれ!」
彼は『習字の稽古』がシリウスの財源の柱の一つである式符製作の隠喩である事を知らない。ついでに電話の相手が住み込みバイト中の八幡神である事も気付いていない。
――知らねぇっすよ?
じゃあちょっと待ってくだせぇ――
待たせる事5分、漸く内線が切り替わり姉葛葉が電話に出てくる。
――はい、お待たせしたので御座います。ひでちゃん、どうしたので御座いますか?――
「どうしたのじゃねぇよ、なんで俺が不採用なんだよ!」
さすがに大声は出せずに小声で抗議をする秀和。
――だってひでちゃんが抜けたら清浄社さん倒産するかも知れないじゃ御座いません?――
「はあ?そんなの姉貴が心配しなくてもいいじゃねぇの!」
――それに体力なさすぎで御座いますし、周りとの和も築けそうに御座いませんから――
「そんな事ァ俺が実力出しゃどうにでもなる事だろうが!」
――・・・一人で妖怪を倒した事あるので御座いますか?――
「うちじゃそんな仕事請け負わねぇから有る訳ァねぇだろ!」
――ここの一番下のポチちゃんとポンのすけちゃんだって妖怪初級を倒しているのにそれでは実力出す出さないの問題ではなくなっているので御座いますが――
「なんだいそのポチとポンのすけって奴は」
――旦那さまの眷属の生後1歳の化け狸の双子で御座いますよ?――
ここでやっと秀和は双子の化け狸以下だと姉から宣告された事に気付いた。
「いやいや、それでも俺には清浄社で培った課長としてのリーダーシップとノーハウがある!」
――技術も実力も伴わないリーダーシップって誰も付いて来ないと思わないので御座いますか?――
姉からの戦力外通知に秀和は課長の椅子に座ったまま真っ白な灰になってしまった・・・
やがてシリウスでの不採用と採用試験での数々の失態が清浄社の上層部にバレ、更に不倫も16強の外に情報が洩れ妻は実家に戻り、あわれ狐塚秀和は父和英と共に自宅蟄居の身となったのだった。
一方、奈良にある“日本と来世を繋ぐ会”本部では、(有)シリウス人事部長の宇佐木 チカが受付で言い争っていた。
「なんや、“同盟の裏番”がうちに何の用や!」
「おやおや、いきなり喧嘩腰とは穏やかじゃないわね。門番の分際で態度がでかいわね。
親分を出しなさいよ」
「親分っちゃなんやねん!うちの会長は反社やないわ!それにワシは営業部長の虻川やて何回言うたら分かるんや!」
激高しているのは繋ぐ会の営業部長で過去に宇佐木と遺恨があるらしい。
「営業部長に人事権があんの、アンタの会社?無いんだったら有る人を呼んでよ」
「ワシを無視すんな言うとるんやないかぁ!」
「なんやアブ、誰か来とんのかいな」
「お久しぶりです、南風崎親分」
騒ぎを聞きつけて表に顔を出したのは繋ぐ会会長の南風崎。ヤクザ顔負けのその顔は宇佐木を見た途端、強張り蒼白になっていく。
「こ、これは宇佐木サン。急なお出ましは何でっしゃろか」
過去に色々あった事を垣間見させるその対応に自分の優位を確認して宇佐木が微笑む。それを見て虻川と南風崎が挙動不審になっていく。
まさに蛇に睨まれた蛙だ。
「おたくの関東支部にいる同盟であたしの仲間だった井上くんですけど・・・ご存知ですよね?」
言葉も無くヘッドバンキングする二人。
「どういう扱いをされて今どうしているか・・・あたし知ってるんですけど」
井上はその昔“大日本調伏同盟”で宇佐木と一緒に仕事をした仲間であり、先日のシリウスの採用試験に参加し内の一人だ。
現在は繋ぐ会で車両係という名の何でも屋を強要されており、採用試験に参加した事が原因で軟禁状態にあるらしい。
虻川も南風崎もその事を知っている、と言うより軟禁の指示を出したのはこの二人だったりする。
「だったら彼、ウチに貰っていい?」
再び二人がヘッドバンキングを始め、晴れて井上はシリウスの一員になる事が決まった。
「ところで、彼、今どこ?」
二人は大慌てであちらこちらに電話を掛け、本人の無事を確かめ涙を浮かべながらそれを報告する。
「じゃ、ウチの第一事業部に二日後に彼を来させてくれるかな。
ちゃんと退職金渡してね」
二人は大仰に頷きながら平身低頭で宇佐木を送り出す、股間に失禁のシミを作りながら。
「誰だよ、裏番はこっちに戻ってこないなんて言ったのはよぉ」
「・・・会長やないですか・・・」
テンプレートって何ですか?
毎回必死こいて書いてたら妙な文字が目に入ってきました・・・これは誰かの陰謀や!
まぁどうせみんな読み飛ばしてるんだろうし・・・悔しかないぞ~!!
妙に敗北感に苛まれながらまた明日




