第158話 人魚、祓う
4月最後の投稿です
大人しいのに武闘派のディーテさんの晴れ姿、見てやってくださいな
つうか、本日もよろしくお願いします
《憑りついてやろうと思っていたが気が変わった・・・殺す!》
カタカタと音がしてその方を見てみると、地べたに転がる例の槍が小刻みに震えている。
どうやら悪霊の本体は槍に潜んでいるのか?
そうすると最早ポン太が戻ってこれる場所は残されていないのか?
化け狸の家族と交流のある人魚にとっては、負けたらもちろんの事勝っても彼らに合わせる顔が無いって事にならないだろうかね。
鬼火がひときわ大きく燃え上がると足軽、いや七臥野 権兵衛が太刀を抜き放ち上段に振りかざす。その位置は人魚を挟んで槍と反対側で何やら思惑がある様子だな。
その位置を嫌って人魚はスッと祭壇に近寄るや置いてある紙コップを手に取る。そして素早く中身を口に含むと、振り向きざまに槍に向かって霧吹きの要領で吹き付ける。
清めの酒のしぶきを浴びた槍は暴れるかのように激しく跳ね、足軽本体は胸を掻きむしって蹲る。
その隙を見て人魚は御幣を拾い上げると振りかざし、朗々と祝詞を上げた。
《畏み畏み申す。
我、北の山中より南のおわす尊き万精の主とその番にして百獣を司る麗しき九尾の女御に願い奉るものなり。
祓い給へ、浄め給へ。祓い給へ、浄め給へ。願わくばみちのくの山中にて現れし戦の亡者の御魂を黄泉の国へと還らせ給へ。
七福神温泉郷の毘沙門台より寿朗原へと至る山道にて神に連なる者に争いを仕掛けたる化け狸に憑りつきし亡者を鎮め給へ。
黄泉の国より迎へが来ざらば元なる器をも砕き給へ。
伏して伏して僕なる我が願い叶え給へ。
救わざるはわが命捧げるものなり、田貫光司と狐塚葛葉よ、我が名は海風のディーテなり。努々違う事なかれ》
次の瞬間、湖からの妖気の流れが奔流となって槍へと注ぎこまれ、呪われた槍は木っ端みじんに砕け散った。
・・・恵比寿様が神の地位を剥奪されてたとは言え、こっちは神様でも無いのになんで呪いを祓えるんだよ・・・なんかちょっと疲れた気がしなくもないけどさ。
・・・解せん。
きっと葛葉嬢の力が効いてるんだろう、そうじゃないと辻褄が合わない。
当然ながら、本体の槍が砕け散ったお陰で悪霊“名無しの権兵衛”は依り代を失い祓われちまった。
そしてそこに残されたのはボロボロになった化け狸1匹。
人魚が名無しの権兵衛がかつていた証の錆びた槍の穂先の欠片を空にした紙コップに引っ掛けて拾い上げ、息も絶え絶えの化け狸を抱えて上の温泉に向かって上り始めるとすぐに人魚に拍手と喝さいが浴びせられる。
《なんでこんなところに溜まっているでありますか?
某の指示は『毘沙門台の湯で待て』だった筈でありますが?》
バツの悪そうな集団の中から言い訳めいたつぶやきが聞こえてくる。
「登ろうとはしていたのですが道が塞がれてましてやむなくここで待機していたのです。
わたくし個人としましては早くここから逃げ出したかったのですけど」
いくら能力が封印されているからってこんな時に『逃げる』は禁句じゃないの?ここは指示を実行したかったとか何とか言いようってのがあるでしょうに。
深くなりつつある霧を透かして見ると一団の一番上の位置には、ほぼ危篤状態と言ってもいいような道幅一杯に倒れこんで通行の邪魔しかしていない某団体のエースの姿があった。
なんでみんなで踊り場で休憩していたか思い出したわ。
ぶっちゃけ存在忘れてたよ、ったく。
体力無さすぎじゃねぇの?楽な事ばっかやってっとこうなるからみんな文句を言わずに働くんだぞ?
霧の中、それこそどこを見ても真っ白な山道を風の精霊を先頭に命綱でお互いを結びあって下りの倍の時間を掛けて辿り着く。まさに五里霧中を実感しての帰還だな。
実際霧は晴れず夕方になってしまったので今日は当毘沙門台の湯に全員が宿泊となった。
夕食の宴席では翌日にずれ込んだ試験の事を考えているのか誰もが浮かない顔をしている。
それを見て化け狸の嫁が食事が美味しくないのかと早合点して右往左往しているのが微笑ましい。
【どないするんや、試験まだするんかいな】
「いえ、ポン太のおかげでいろんなものが見えてきましたのでここいらで決めさせてもらいますよ。
社長もそれでいいですか?」
【私は旦那さまの仰る通りで構わないので御座いますが】
葛葉嬢ったら、主体性は持ちましょうよ。
ここはかつて葛葉嬢と衝撃の出会いをした“冥土茶屋 晴瑠晴良”。
実は、現在の実質的な経営者である僕の古巣とも言うべきMSMにお願いして用意して貰った個室で葛葉嬢と二人試験会場を観察していたんだ。横にべったりくっつかれてるけど仕事以外は何もしていないからな?だって横におばはんが浮いてんだぜ?
どうやって見ていたかって?前に毘沙門台で対決した事のあるお諏訪様の眷属“大蛇丸”とヤサカ様の眷属“朧丸”の夫婦に絵を音は僕と眷属たちとの絆で聞こえているのを葛葉嬢に教えながら見てたんだよ。
【それにしてもポンちゃんは大丈夫なので御座いましょうか】
アレにちゃん付けはもったいないでしょ?アレはそんなに可愛くない!
「そうですねぇ・・・悪霊に支配されてた時間が長かったからどうだろう」
【時間よりも深さやな。
ありゃ、相当恨みつらみ溜め込んどったようやさかい根深う繋がっとった筈や】
【・・・では、もう?・・・】
葛葉嬢は僕とウーちゃんの表情から最悪の事を覚悟したみたいだね。
「死ぬ事は無いにしても化ける能力は失ったって見るべきかな?」
【せやな・・・ああいう自己評価の無駄に高い奴によくあることやが・・・高転びに転びおったわな】
それ安国寺恵瓊が織田信長の未来を予見した時の言葉じゃない、アレにはもったいないでしょ。
「ところで今日は図らずもって感じでみんなの実戦を見せて貰ったじゃないですか。
アレを見て採用枠を僕は・・・こうしたいと思うんですが」
【旦那さまのご意見に反対は御座いませんわ】
【・・・タマちゃん、ここは丸投げしたらあかんわ。もうちぃと自分で考えてみぃひんか?】
口やかましいオブザーバーを交えて議論は夜遅くまで続くのだった。もちろんその後に世間一般にお楽しみな事は何も無かった事はハッキリしておきたい。
僕は葛葉嬢の父親と同い年なんだよ?
自分が一人称だった種明かしをしてこの章は終了であります(ディーテの真似じゃねぇぞ!ケロ〇軍曹のが移っただけだい!)
なんとこのタイミングで掲載200回であります(ケ〇ロじゃない、つうに!)
最初は他所で(カク〇ムとか言わないで)出してた奴をそのまま持って来たんで週3でやってて途中で行き詰って78回で一旦終了させたものを半年寝かせて再開・・・したのはいいんだけど書くペースが掲載に追い付かなくなって去年の10月から週1にしてようやく続けている状態です
しょっぱなから神殺しをやらかしたせいで相手をどうするか悩み続けて200回。
まだまだゴールは見えませんが生暖かい目で見て頂くとありがたい今日この頃。
何は無くともまた明日、であります(〇ロロはやばいんだって!)