第154話 人魚、裸になる
新生活が始まった皆々様、環境にはもう慣れてきたんでしょうか?
個人的には世間の荒波に揉まれておりますがそれはそれとしてしばしの気分転換にでもなれば幸いです
いつになく堅い出だしですが拙い戦闘シーンで御座います・・・できるだけ脳内で増幅してご覧いただければ何とか読める・・・かもしれない(自信なんて震度1レベルですんで頑張ってください)
とにかく本日もよろしくお願いします
槍が地面に転がるのと同時に人魚と足軽(仮)の動きが止まる。
左の腕の肘から先を失いなおも黒い靄を滴らせている人魚と息を荒げもせずにギラギラした殺意を漲らせた足軽(仮)。
よく見ると人魚の額には大粒の汗が浮かび、足軽(仮)の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいる。
でも実力は人魚の方が圧倒的に上の筈。
《どうやらポン太殿は喰われてしまったようでありますな》
《どうしてそう思う、手負いの八百比丘尼殿よ》
人魚の眼が一瞬カッと見開いた。八百比丘尼って人魚肉を食って不老長寿になった尼さんだったよな。800歳で若狭で死んだっていう奴だよね。
《某に向かって八百比丘尼を引き合いに出すほどポン太殿は知識の引き出しは無いのであります。
それにポン太殿にはにわかにそれほどの武術を収めるほどの器量も無いのであります。
更に言うなら、
貴殿の背後には鬼火が湧いているでありますし、人魚に『呪』を仕掛ける化け狸などこれまで存在していないのであります》
足軽(仮)が歯をむき出しにして醜く顔を歪めて笑う。たしかにそれまでの化け狸ではありえない表情だな。
《それではワレが初めての化け狸になるという訳か?
光栄では無いか、そしてお前は狸如きに負ける初めての人魚と言う所だな》
耳障りな笑い声をあげながら足軽(仮)が太刀を振りかぶる。静かに人魚は肘から先が消えうせた左腕を足軽に向ける。
《ガハハハッ!今更命乞いか?八百比丘尼よ。
せめてもの慈悲だ、一思いに殺して進ぜよう!》
《なんの足軽程度に討ち取られる大将首とお思い召さるなであります。
さてご老人、この円からは抜け出されたでありますか?》
人魚が庇っていた益岡老人は、這う這うの体でようやく決闘場の枠から逃げ出せたみたいだ。
「海坊主殿のおかげで何とか出はしたがお前さんそれでも大丈夫なのかのう?」
《ジジイなんぞに勿体付けても詮あるまいに、この愚か者が!
太刀の一つも待たずしてワレに勝てるとでも思っているとは笑止千万!
その思い上がりにとどめを刺して進ぜようぞ!》
足軽が一気に人魚を切り伏せようと踏み込むと、人魚の左腕が弾けて黒い霧が足軽を包む。
《なんと!攻撃魔法は反則であろうが、この卑怯者!》
纏わりつく黒い霧を太刀を振るって払いのけようとする足軽。
でもまるでべったりと纏わり付くように霧は足軽から離れようとせず逆に束縛するかのように纏まろうとしていく。
《卑怯でありますか、某が?
弱者の戦術とは言え、審判に危害を加えようとしたり『呪』を仕掛けようとしたりした御仁のお言葉とは思えないでありますな。
所詮は武人ではない、足軽風情だったと言う事でありますよ》
《おのれ言わせておけば片輪者の分際で猪口才な!
やい行司!こ奴の負けは明らかであろうが、ちゃんと判定を下さぬか!》
自由が失われながらも眼を剝き唾を飛ばして罵る足軽に、益岡老人が静かに呟く。
「残念ながらこれは攻撃魔法では無いようじゃ。
これは『呪い返し』じゃよ、ポン太殿とやらに憑りついた悪霊殿よ。
不老長寿の者の腕をも食い千切るほどの『呪』がもしも破られれば掛けた者に倍返しで降りかかるは必定と言うものじゃよ。
儂は恵比寿様より力を分け与えられた身じゃで、彼の神が力を失った今ではもう何の施しもできそうにもないが経験と知識は健在のようじゃ・・・そなたの負けじゃよ」
《なんと益岡殿は、我が先主と縁のある方でありましたか。
なんとも縁とは奇なるものでありますな・・・先主を追い落とした某とそれによって力を失われてしまった益岡殿と・・・》
人魚が感慨深げに益岡老人の方を見やると、老人は肩を竦めて見せた。
「人生万事塞翁が馬と言うではないか、のう海坊主殿。
これまでは自分の知見の及ぶ範囲でしか見る事が出来なかったものをこうやって俯瞰で見る眼を養わせてもろうたでのう。悪い事ばかりではないという事さね。
さてこれはどうなされるかな?」
老人が、顎でしゃくって太刀を振りかぶったままほぼ全身を黒い重油のようになった『呪』で縛られて唸り声をあげる足軽こと悪霊に憑かれた化け狸の事を尋ねると人魚は左手を顎に当てて思案する。
《さてどうしたものでありますか。
これほどの『呪』を仕掛ける事が出来る上でその『返し』を貰った憑き物を落とした事は無いでありますからな》
「うむ、結びつきが強固過ぎて無理に引き剥がせば生身は持つまいのう・・・海坊主殿、その手はどうなされた」
弾け飛んだ筈の左腕が元通りに生えているのを見て、益岡老人の眼が零れ落ちそうなほど見開かれる。
《はは、まさか我が先主との絆と引き換えに『呪』を破れたなど思ってもいなかったでありますよ》
老人が空とぼけた人魚の言い草に戸惑っていると船幽霊たちの様子が変わったのか避難していた他の受験者たちが戻ってくる。と、元警官が脱兎のごとく駆け寄って慌てて自分の上着を人魚に着せる。
《どうしたでありますか、烏丸殿?》
「貴女、今、丸見えよ!」
そう言われて人魚は自分が2本の足で立っている事に気が付いた・・・烏丸嬢の上着ってビニール製のレインコートじゃないの。
全裸にビニールをかぶせても何も隠せないでしょ?
人魚姿の時は気にもならなかった格好が尾が足に変わった途端、羞恥心とは復活するものなのかね?
元人魚は慌てて蹲り裸体を隠そうとする。
魚の尾の時は恥ずかしくなかった癖・・・胸だって出しっぱなしだった癖に・・・乙女心(?)はよう解らん。
「オレは全然見てねぇかんな!」
若者よ、赤い顔して力説しても誰も信用はしてくれないぞ?ほれ、元警官のあの冷たい眼差しをどうするのよ、ほれほれ。
よっぽど黙って赤い顔を横に向けてタオルを差し出す道場主の方が好感度は上がってるだろうよ。
受け取ったタオルをどこに巻くか悩んだ挙句、胸を隠す事にして下半身を魚に戻した人魚が大きい声を上げる。
《とっ、とにかく試合は終了という事で構いませんね、益岡殿。
でっ、では遅れている狐塚殿が追い付き次第、下へ向かいますので!》
まだ一件落着じゃないんじゃないのかい?
はい、公然わいせつ物陳列罪成立致しました
でもまだ続きますんでよろしく
何は無くともまた来週




