第153話 人魚、決闘する
もうすぐスギ花粉とはおさらば(北部九州では桜の花見が終わるころスギも終わります・・・花見を楽しみにした事なんて無いよ、ったく)GWまで続くヒノキ花粉にお困りの皆さん・・・ガンバ!
700年間恵比寿の下で実働部隊を率いていたディーテにポン太はどうやって勝つつもりなんでしょうか
っつう事で本日もよろしくお願いします
「これよりチームシリウス番頭杯1本勝負を始める。
両者前へ!」
踊り場の中央に丸く書かれた直径10メートルほどの円が決闘場で、その中央で人魚と化け狸が対峙している。
それ以上広くするとギャラリーが踊り場からこぼれて寿朗原まで紐なしバンジーを決行させられる可能性が出てくるから、広くする訳にはいかない。
攻撃魔法は禁止という事で、人魚は先程出していた水球を全て引っ込めている・・・アレは攻撃魔法だったって事だな、使った所を見た事は無いけど。
防具も武器も持たずに立っている人魚に対して、化け狸はと言うといつのまにやら足軽姿に変化していて鉢金を額に巻き胴丸を纏い腰には大小の刀を差し穂先の錆びた短槍を構えて仕掛ける気満々の様子だ。
防具や武器はどこからか拾ってきたかなんかだろうな。でないと攻撃力の底上げが出来る訳無いから。全部が変化によるものだったら素の狸のままだもんな。
どんな手を考えて人魚に勝てると踏んでいるんだか見ものだよ。
オッズは全員人魚に賭けて成立せず、だそうだ。こんな茶番やってないでさっさと山を下りた方が、ってどうせ決闘相手を待たなきゃならないんだから時間を潰さにゃならんのか。
という事はこれ、もしかしてポン太の嫁の演出だったりする?ポン太のバカ、こないだ浮気が発覚してひと騒動だったらしいからその可能性もあるか。
出来の悪い化け狸と気の利いた普通の狸とだったら普通の狸の方が絶対需要はあるよな。
何はともあれ試合開始だ。
お互いを見据えながらゆっくりと時計回りに移動していく。
それにしてもポン太の奴、しばらく見ない内に随分と化けるのが上手くなったな。尻尾も出て無くていっぱしの武芸者の風格すら感じられるぜ。
時折足軽(仮)が槍を繰り出して人魚の動きを牽制しようとするも、水の壁が現れて人魚までは届きそうもない。逆に人魚からは武器も持たず攻撃魔法を封じられているせいか格別に動く気配はない。
水の壁自体は防御魔法だからルール違反という訳では無いらしい。
しかし人魚はここからどう攻めていくのか・・・よっぽど自信があったんだろうなぁ。ギャラリーの評価はもちろん、これだけのハンディキャップ戦に自分を追い込むとは実はバトルジャンキーなんじゃないか疑惑発覚か?
《ポン太殿、いつの間に修業をされたのでありますか?》
《大将首を獲る為にはなんだってしてきただ!
オラは負けねぇ!オラは褒美をもらって出世するだ!》
いつもながら相手の話を聞かないポン太クオリティの会話だな。
外野で見守る受験者たちは船幽霊たちががっちりガードしているみたいだな。それにしても双方攻め手に欠ける退屈な展開なんですけどね・・・人魚さんが相手を下に見過ぎたのが原因、いや化け狸が予想以上に健闘している証拠でしょうかね。
「もうグルグル3周ぐらいしてんだけどいい加減勝負付けてくんないかな」
シャバに出てきたばかりの若者にはこの高度な駆け引きが退屈なんでしょうかねぇ・・・え?退屈な展開って誰か言ってました?さ、さぁ誰だいそんな事言ったヤツは。
「ポン太サンってポチちゃんたちのお父さんじゃなかったかしら。
これだけやれるんだったら向こうに呼んであげたらいいのに」
ある程度シリウスの内情を知っている元警官さんが余計な事を言ってくれてるよ。どんなに素質があっても周りに合わせられない奴を使える筈無いでしょ?それにアイツそんなに優秀じゃないから。
そんなこんなで更に2周ほど回った頃に、しびれを切らした足軽(仮)が水の壁に飛び込み槍を突き出した。狙いは心臓!
これ絶対殺意があるよね。
それに対して半身で躱した人魚が左のジャブで応戦する。
接近戦できるんだ。
人魚の拳が顎にクリーンヒットして、足軽(仮)が後ろによろめき尻餅をつきながら槍を取り落とす。もしかして脳でも揺らしたか?足に来てるぞ?
《某の障壁を乗り越えてきたのはポン太殿が二人目であります。
前に越えてきたのはたしか宮本武蔵とか名乗る二刀流の侍でありましたがそれ以来の事。
充分自慢できるでありますよ、で、降伏するでありますか?》
化け狸は大声を上げながら地面に転がる槍を拾い上げて振り回す。まだ立ち上がれない癖にやる気だけはまだあるか。
この往生際の悪さでオロチ戦は手こずったんだよねぇ。
《ふむ、まだ負けてないというでありますか。
行司殿、どう判断されるでありますか?》
「祟られるのはまっぴらじゃから試合続行という事で」
さいですか、じゃあ泥仕合は続くって事で・・・人魚が温情掛け過ぎなんだよな。
最初の位置まで人魚が下がって待つ事2分。眼を血走らせ肩を怒らせて化け狸が戻ってくる、と同時に槍を投げつけてきた。
人魚の真後ろには益岡老人、躱せば受験者にケガ人が出てしまう。
躱してしまえば益岡老人に危害が及び規則によって人魚の勝ちが確定する・・・しかし武人としてのプライドか、人魚はその槍を左手を差し出して受け止めた。
錆びた槍が掌を貫き黒い靄を生み出す。
《ほほぅ、これはこれは》
落ち着いた様子で自分の掌を見つめる人魚。それに向かって腰に差した太刀を抜いて襲い掛かる足軽(仮)。
驚いてその場から逃げ出す益岡老人、そして受験者たち。
明らかな殺意に対して人魚は、穏やかにかつ機敏に動いて船幽霊たちが受験者たちの安全を確保する時間を稼ぐ。
左手からは黒い靄が血のように滴り槍の柄が人魚の動きを妨げる。
それでも人魚は足軽(仮)の怒涛の攻めを紙一重の危うさながら躱し続ける、歴戦の勇者のように。
義経に八艘跳びを伝授したのがこの人魚だったとして誰も驚かないんじゃないか?
そんな華麗なまでの体捌きで足軽(仮)を翻弄し続ける事30分。
カランと言う音と共に槍が地面に転がる。
宮本武蔵とやり合った事があったとはディーテさんったら武闘派なんだから
とはいえ戦闘シーンなんてやるもんじゃないよな・・・・どう足掻いても迫力とか出りゃしねぇ
などとぼやきつつまた来週




