第151話 人魚、戦場を設定する
全国的にはどうかは知りませんが、九州北部はスギ花粉が舞い踊り黄砂と共にやってくるPMナンチャラのおかげでコロナでなくてもマスクを手放せない今日この頃、お元気ですか?
意外と血の気が多い人魚さんと鬱憤が爆発中の白の六式使いが激突しそうな雰囲気。
決着は如何に!
では本日もよろしくお願い致します
《某、我が君に仕える前は長年恵比寿の元で海の取り締まりを行っていた者、そうやすやすとは倒せぬモノと心得られよ》
自らを“海坊主”と名乗った人魚の闘気が陽炎のように沸き立ち、周囲を圧倒する。
対する狐塚弟の周囲からは他の受験者たちが離れ、闘う場を作る。益岡老人辺りは露骨に難を逃れようとする気配を隠そうとはしていないが建前としてはそんな感じだ。
《大漁丸、開洋丸。ソチたちはこれより戦場を拵えるであります。
そうでありますな、闘いは神事に繋がるものでありますからこの七福神温泉郷の祀られているいずれかの祠の前に設えるのが吉でありますな。
吉祥丸、そうでありますな、別荘がある方は縁起が悪いでありますからダムの近くの寿朗原の祠と奥にある福禄谷の祠に伺いを立てるでありますよ。そのどちらかよりいい返事をした方に大漁丸と開洋丸を向かわせるであります。
そう、ソチの裁量でどちらがいい返事をくれたか判断しても構わないであります。
ソチら3人もそろそろ独り立ちしてもよい頃でありますから任せるであります》
どこからともなく現れた体中に濡れた包帯を纏った木乃伊かゾンビのような異形の者たちが、人魚に向かって恭しく頭を下げその内の一人が霧となって姿を消した。
その姿を見て受験者の反応は二つに分かれる。平然と見守る者と騒然と身構える者にだ。
前者は元警官の烏丸、後者はそれ以外。そして異形の者たちの正体は人魚の手下の船幽霊だった。
なぜ烏丸が平然としていられたのかと言えば警官時代に喫茶シリウスが見回りのコースに入っていて閉店後の片付けなどで船幽霊たちが働いていたのを見ていたから。見た目がゾンビに酷似しているとはいえその動きは機敏で、底を抜いた柄杓を渡された時以外は有能なのを知っていたからだ。
実際この有限会社シリウス直営の温泉は、人魚設計の竜宮城を模した建物を化け狸の嫁が取り仕切り、営繕や清掃などは船幽霊たちが交代で担当している。自分たちの容姿が人間からどう思われているかは自覚があるから人目に付かない様にやっているのだ。
すわ妖怪と色めきだった受験者たちは、烏丸のとりなしで落ち着きを取り戻そうとしている。
人魚に喧嘩を受けて立たれた狐塚弟を除いてはだがね。・・・顔色悪いねぇ、色男。お楽しみはこれからだよ?
「海坊主サン、今別荘の方が縁起が悪いとか言ってましたよね?
何かあったんですか?」
《それに対してのご返答はシリウスに採用された方にのみさせて頂くのであります。
場を鎮めて頂いた烏丸殿には失礼をするでありますが、内規には逆らえないのであります故》
別荘は双頭のオロチが事件を起こした場所の一つで未だに穢れが残っているのと同時に地名が未だに蛭子口のままである事から恵比寿を裏切った形でシリウスにやって来た人魚にとっては居心地があまりよく無いのだろう。正直その辺りを忖度して欲しい所だが情報を探す元警官に遠慮は無いね。さすがは元プロと言った所かな?
人魚としては、だから方便として内規を持ち出して質問を拒絶したんだ。もしかしたらこれは元警官からの揺さぶりなのかも、本人が恵比寿の下で働いていたと言ってもいるし地名ぐらいなら誰でも検索できる、むしろ調べていない方が危機管理が出来ていないだろうな。
人魚は烏丸にプラス査定をする事にしたみたいだな。と同時に(シリウス的には)たいした実力も無く騒ぎ立てる狐塚弟にはマイナス評価をしていたようだ。あれだけ言われてもプライドを捨てきれない男は組織にとっては弱点にしかなり得ない。例え仲間内では高いと評される実力でもここに入れば最下位は確実なんだから無駄なプライドは邪魔でしかないんだ。
驕りは慢心を呼びひいては身を滅ぼす、自分もその周囲も巻き込んでね。
ただこれからする決闘で隠し玉でも用意できているのならそれくらいの評価は反転できるだろうね。
でもそれだけの実力が現在あるかと言えば、気配から察する限りは無い。ウチの営業部主任よりも素養はあると思うけど多分格下と楽で安全なミッションしかしてこなかったんじゃないのかな?本人が思うほどずば抜けたものは無いみたいだ。
まぁ、それでも遥か格上の人魚に立ち向かう手が無いわけじゃないけどね。
きっと人魚の方もここで化けてくれる事を期待してのこの展開だと思うんだけど・・・
小一時間ほどして温泉の湯気の中から霧が湧きたち、その中から船幽霊の吉祥丸が現れた。
吉祥丸は人魚に向かって跪き低く唸る。
それに対して人魚が頷くと今度は別の船幽霊たちが霧になって姿を消す。きっと大漁丸と開洋丸、そしてその部下たちなんだろう。
《聞いての通り、これより湖より下った寿朗原の寿老人の祠より許可を貰えたのでそちらに向かうのであります》
その言葉にその場にいた人間たちは固まってしまう。
「ワシの耳が遠いせいか何も聞こえとらんのだが?」
《・・・それは済まない事をしたであります。
船幽霊の声は某以外には聞こえない事を忘れていたであります》
赤面しながら謝罪する人魚に対して狐塚弟が声を尖らせる。
「人外の分際で人の上に立とうなんて考えるからこの程度の事も気付かねぇんだよ。
ムカつくけど行かねぇと終わんねぇんだろ?
さっさと終わらせてやるから案内しろや」
こんなんで部下たちはついて行くのかね・・・ともかく船幽霊の一人が案内する形で高台の毘沙門台からダムの下の寿朗原に向かう山道を全員で下っていく。
全員来いとは誰も言ってないんだけどね?
決着は・・・次回に持ち越し!
それにしても狐塚弟の素行の悪さに書いてて呆れちゃうんですけど・・・初期設定では性格決めてなかったもんなぁ
まぁそれはそれとして無理やり話を引っ張りながらまた来週




