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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
閑話 その11

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閑話 驕れる教会は久しからず

世間はお休み、自分はお仕事


何とか予約が間に合いました


それでは本日もよろしくお願いします

 チームシリウスが性懲りもなく何度目かの新人募集の試験を開いていた頃、横浜の古ぼけた教会では追い出された一人のホームレスが梅雨空に向かって大声でわめき散らしていた。


 その酷くつたない日本語と怒気をはらんだ隣国語は日本人ではとてもじゃないが聞き取れないようなものであったが、聞き取れなかった人間はそのことを感謝すべきだろう。なんせ、その言葉のすべてが日本の国日本の人に対する侮蔑であり、自己と自民族、ひいては母国の優秀さをひけらかす物であり、今の自分をおとしいれた者に対する呪詛じゅそたぐいであったからだ。


 ボロボロの一張羅を着て虚勢を張っているこの背が低くでっぷりと肥えまばらな髪がぼさぼさになっている男の名はキム。つい半年前までは会長と呼ばれて羽振りの良かった男である。


 何の会長であったかと言うと“世界救世教会”通称“教会”というとある業者のオーナー会長であり、“日本昇天遂行連合会”という団体の会長でもあった。


 そのとある業者がいた業界とは除霊業界。


 自分たちで名乗る時は気取って霊能業界などと呼称しているが、除霊以外の仕事など何もできはしない連中の集まりだ。その唯一の取り柄の除霊も難易度が高くなるとなんやかんやと理由を付けていつの間にかいなくなるわ、楽な仕事だとワザと見習連中を使って失敗して見せ案件の等級を上げていくなどと悪辣な手法を用いて依頼人から金を搾り取るわと世間に悪評の元をばら撒いてきた。


 その中でも取り分け世界救世教会はと言えば、金払いがよさそうな仕事には請け負う他の業者を罠にめたり暴力に訴えたり詐欺で引っ掛けたりと妨害の限りを尽くして横取りし業界トップにのし上がってきた下種げす中の下種、キングオブ下種だ。もちろんそれを主導してきたキムがどんな人間であるかは先程からの言動を見ていても予想が付くだろう。


「アのトキ、アのハケ(はげ)さえイナカたラ(いなかったら)


 この男が悔いているのは、1年半ほど前に起こった霊峰の麓にある大きな湖の畔にある町で起こった神殺し騒ぎの一件だ。


 当時、業界のトップの一角にあった“大日本調伏同盟”通称“同盟”という業者が壊滅寸前の状態となりそのとどめを刺そうと丁度その街に発生した神にかこつけてちょっかいを出して逆襲を受けたのだ。

 その神が同盟関係者の生霊から発生した事を理由に業界からの完全排除を目論んだ所、関係が無かった筈の八百万の神々から反発を受け、所属する内、上位の霊能者の霊能を全て封印されるという事態になってしまったのだ。


 その時、八百万の神と同盟側の窓口として登場したのがアのハケこと、たまたまその街を訪れていたちびデブ禿とキムと印象のかぶる事で個人的に不利益を被っていた“チームシリウスの番頭”であった。


 教会側からすると理不尽な扱いの結果、その直後に解散した系統の違う同盟の霊能者を雇い入れ(調伏の名前がある様に同盟は修験道の流れを汲み、教会はエクソシストが除霊をする)、在野の霊能者を登用してその場をしのぐ事態になったのだが、帳尻合わせの為に雇った同盟出身の優秀な霊能者がかつて教会の実力者であった元霊能者に追放される非常事態が去年の秋に発生しそれと呼応するかのように新規で採用した連中までもが逃散ちょうさん、体面を保とうと請け負った案件を下請けに回してまで実績を守ろうとしても常日頃の高圧的な契約姿勢が災いしてそっぽを向かれ、最終的にデフォルトとなって今年初めには夜逃げ同然に今ここに至っているという訳だ。


 その根本の原因が呪詛の対象である業界準大手ながら未だ野良の“チームシリウス”の“番頭”氏にあるとキムは逆恨みしているのだが、彼に関わってきた人間たちは口を揃えて、人材を大事にせずに贅沢の限りを尽くし、研鑽を積まずに謀略で利益をかすめ取ってきたツケが回ってきたのだとしか言わない事だろう。


【さすがのヤハ〇ェもコヤツの手助けはする気が無いようやな。もっともヤ〇ウェの奴はふんぞり返っとるだけでいつも何もせぇへんのやけどな】


 そんなキムを下卑た笑いを浮かべながら少し離れた路地の脇に建てられた古びた小屋から見つめる不審な人影がある。ボロボロになった狩衣かりぎぬに糸の切れた釣竿を抱えた小太りな男、堕神 恵比寿だ。

 現在唯一の信者タナカ コウタのチームシリウスへの侵入を手伝ってはみたものの見事に返り討ちに遭い拘束された先の稲荷社に詰める稲荷狐をたばかってようやく逃げ出し、次の信者を探してここまで辿たどり着いてきたらしい。


 それにしても日本人でも無い異教徒にどうやって取り入るつもりなのやら。


 なおも追い出された教会に向かって毒を吐くキムに音も無く近づくと、恵比寿が満面の胡散うさん臭すぎる笑みを浮かべながら話しかける。


【ちょっとええかいな、あんさん、“教会”でブイブイ言わせとったキムさんやないか。

 ごっつぅ久しぶりやないか、ワイの事は覚えとるかいな】

「なンタ、オマえは!にポンチン(日本人)コと()なンカオポ()エテるハすカ(筈が)ナイタろガ(無いだろうが)カァと(下等)ミンそク(民族)ノくせしテキや(気安)ハナしかルシャなイ(話しかけるんじゃない)ケラわシイ(汚らわしい)

 ワしハ神にアされタ(愛された)ナたかラナ(なんだからな)!」


 稼いだ金を豪遊と賄賂と祖国への送金につぎ込んで部下たちをかえりみなかった男が神に愛されているとは、と恵比寿も思ったかもしれないが胡散臭い笑顔に全てを隠しキムを丸め込む。


【ワイはの神からこの地を治めるように仰せつかった地方駐在員とでも思ってくれたらええがな。

 何やらかしたか知らんけど彼の神はどうやらあんさんを見捨てたらしいで?

 ホンマやったらワイも回れ右してあんさんを見捨てるんがスジなんやけどそれじゃああんまりにも夢見が悪いっちゅうもんや】


 キムは三白眼をひん剥いて恵比寿に食って掛かる。口が臭い上に飛ばす唾が多すぎる。


パカ(馬鹿)め!主がワしヲ見捨テるハスなト(筈など)無イてハナいカ(ではないか)

 そレニソのすカタ(姿)ナタ(何だ)トいナカ(ド田舎)ミンそクいソ(民族衣装)ナんソヲきオテ(着おって)、まルテアのピんポカみトモ(貧乏神ども)ヨテはナイか(ようではないか)

 ワしハタマさレソ(騙されんぞ)!」


 恵比寿は、どんな時でも傍若無人で頑なな上にマウントを取る事を忘れないキムに自分たちの存在をけなされてムカつくのと同時にその不屈のメンタルに共感を持つ。


【(それくらいやあらへんとあのタヌキどもに一泡吹かせる事なんぞ出来ひんさかい丁度ええか)・・・さすがは時代の寵児と呼ばれた男は見る所が違うやないか!

 実は、これはこっちで自由に動けるように自分なりに工夫した結果や、気にせんといてんか。

 何やかやゆうたとこでこの国ではこっちじゃこの格好の方が信用されるさかい、営業用に着とるだけやからな。

 実際のトコ、教会にクリスマスと結婚式以外にこの国の連中がやってくる事なんかあらへんやないか。せやからワイはこないな恰好をしてあっちゃこっちゃに入り込んでイロイロやって来とんのやないか、解ってぇなぁ】


 自分が汚いせいか、キムは恵比寿の薄汚れた格好が気にならずにその言葉で納得し顎で先を促す。


 こうなれば恵比寿のしめたものでその日が暮れる頃にはすっかり迎合する乞食二人の姿が港が見える公園で目撃されていた。


 二人の目標は一つ、シリウスの番頭を(おとし)める事。そこには敬虔なキリスト教徒の姿ではなく憐れな乞食の神と信者が存在していたのだった。

おっさんのドッペルゲンガー闇落ちの回・・・元から落ちてるとか言わないでくださいませ(心が折れてしまうから)


次回から新章です

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