第146話 兎、無双する
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「元々心臓が良くなかったんだ・・・それをシリウスに入れるからって無理しやがって・・・」
急に重くなった場の空気を無視するように宇佐木が問い詰める。
「まるであたしらが悪者みたいな言い方ね、ホントはどうだか。
で、その現場は?死体はあるの?
誰か益岡さんの死んだ場所とか死体とかを確認に行けないかしら。烏丸ちゃん、会社に連絡が取れる?むの774番サン、ウーちゃん様と話が出来るかな?・・じゃ、お願い。
あたしはアンタの言い分を100パーセント信じるつもりは無いのよね。だって臭いんだもの、どこから異能で騙されているんだか分かったもんじゃないんだから当然よね。
アンタのウソで固めた人生を否定も肯定もする気は無いわ。だって全部の責任はそうしてきたアンタの物だからこっちには関係ないもの。
ただ、もしアンタを仲間に引き入れて連帯責任しょい込まされるような事だけはまっぴら御免だから、アンタの入社は100パー無しね」
子供のような見た目と違う有能な宇佐木のてきぱきとした指示で周囲が動き出し、隙を狙っていたタナカの動きは完全に封じられてしまった。それどころか挙動不審ぶりが表に出ているんじゃないのか?
「あんなジジィ一人の為になんでそんなに大騒ぎしてんだよ、ホームレスの野垂れ死になんてよくある事じゃねぇか」
どう見ても虚勢を張っている様にしか見えないタナカを宇佐木が鼻息で吹き飛ばす。
「ここに来るまでの隠れ蓑に随分と冷たいじゃない?烏丸ちゃん、よぉく確かめるように上に言っといてよ。
御座なりな事やってるとホトケは霊能者だったんだからばっちり霊障が降りかかるからってね」
「チームシリウス一のチキンハートのお言葉、しっかり伝えときますね」
烏丸に揶揄われるまでも無く宇佐木が霊のような実体の伴わない代物に極端に弱い事は、霊能業界では常識の域に達しているが本人は個性だからの一言で済ますつもりの様だ。実際霊障を仕掛けて返り討ちに遭った霊能者は枚挙の暇が無いが宇佐木が被害に会った事は一度も無いのも事実だ。
「臆病だから十分に調査して綿密に計画して確実に行動するんじゃない、勇猛果敢は犬死の第一歩だって事を覚えておくことね」
座右の銘が『女は度胸、石橋は叩き壊して踏みつぶせ』なのは誰なんだろうね。
「まぁ取りあえず今回の採用試験は終了という事でいいわね」
続けて飛び出した宇佐木のセリフに不当逮捕を訴えるタナカは勿論、他の受験者は元より協力してひどい目に遭った稲荷狐からも抗議の声が上がる。
「これで5回続けて全員不採用じゃないですか!もっとちゃんと検討してくださいよ!」
「アンジェとジュリアと一緒に暮らせないんだよ」
「もう道場が持たないんだよ、何とか補欠でもインターンでもいいから使ってくれへんか?」
「何でもするから雇ってくれよ・・・オツトメは終わったんだからもういいだろ?」
「有休がもう無いんです、あたしに平穏を下さい!」
「どうでもいいからアネキに会わせてくれ!」
「くずはしゃんに会わせろ!」
何人か目標が入社とかでない奴らがちらほら・・・狐塚弟は姉と会ってないのか?
「レベルを落としてまで採用する必要は無いの」
宇佐木の端的な総評にその場の空気が凍り付く。
「堕ちた神を捕らえたのは誰?うちの根津よね?井上くんや伊達くんは根津の実力がどうだったかは覚えている筈よね?
井上くんは同等、伊達くんからしたら格下もいい所だったでしょ?
で、君たちは何してたの?
それからもう一つ出していた課題に誰がトライしたの?5人がかりで取り囲んで何をしたって言うの?
気を付けろって言ったにも拘らず二人も操られて・・・足利さんには昔世話になってたし、河間くんに至っちゃ更生できるチャンスだったのに何やってんのさ。
狐塚くんなんて浄霊清浄社のエースだって触れ込みから期待してたのに何にもしないし、その癖アネキに会わせろだぁ?寝言は寝てからにして欲しいもんよね。
一番の期待外れは烏丸ちゃんよ。物凄いポテンシャルを持ってんのにやった事は気を付けろって声掛けだけなんて。
これでどうやって合格者を出せって言うの。
ええ加減に寝惚けんのも大概にせぇや!」
叱責にも等しい宇佐木の分析で静まり返った試験会場にタナカの声が響き渡る。
「ええ加減にせぇゆうんはお前の方じゃ、ボケェ!くずはしゃんに会いに来ただけなのに人を素巻にしやがって、許さねぇぞ!」
「会いに来ただけ?成りすまして潜り込んどいてウチの社長を『捕まえる』なんてほざいたのはどこのどいつや!
ほんの何分か前の事を忘れたとか言わさへんで!
あたしらは業界の最終防衛ラインなんやって事を忘れたらあかんのや!
やのに臭いのに騙されるとかそないな事やっとったら信用があっという間にゼロどころかマイナスなってまうやないか!
アンタらは今までに自力で実績を積み上げてきた、そんじゃ無けりゃこれから化ける見込みのある連中や。
そないなもんを選んでウチの専務は採用試験をやっとんのやさかい、それに見合うだけの成果が無いと採れる訳無いやないの。
既にウチに対する世間の要望っちゅうんはウチの処理能力を超えるレベルになっとるの。
質を落とすか量を減らすかの限界の鬩ぎ合いの中であたしら自身がぶっ壊れるすれすれのラインをウロウロしてるんやからその事を頭に叩き込んどいてくれへんか?
八百万の神々にしたって弥勒菩薩にしたって何とかいう大天使にしたって、言ってくるのは質は落とすな量を増やせや。持てる者が持たざる者を救うのは義務やなんて抜かしてな。
それもこれも碌々除霊も出来ひん癖してボッタくる事しか考えてへん業界のせいや。
あたしらがこのまんま過労死でもしようもんなら九尾の狐どころの騒ぎじゃ終わらせへんからな!」
随分と宇佐木がエキサイトしてきたみたいだな、本音駄々洩れだよ。
慌てて根津が間に割って入り、今日の所の試験が終了した事を告げる。
「3日後に改めて追試を行います。都合がお付きになる方はまたの参加をお待ちしています。
午前9時に弊社経営の喫茶シリウス前に集合でお願いします。
では解散という事で稲荷狐の皆さん、参加の方々をお送りいただけますか?その生ゴミは警察に投棄と言う事で。
本日は皆さんお参加ありがとうございました。それから帰りしなに少ないですが今日の日当をお渡ししますのでお忘れなく」
暴発する宇佐木の補佐を長年している根津のおかげで、何とか今回も無事に終われたようだ。それにしても人材の確保はなかなか難しいのが現状のようだな。
ちょい短めではありますがタナカ退場という事でリクルート編の前編は終了です
おっさんが出てこないという事で地文の書き方をちょこっと変えてますがこれはもうしばらく続きますんで我慢してください




