閑話 積年の刑は大晦日にあり
いよいよ今年も最後となりまして最終投稿で御座います
無いネタを絞っての突貫工事になりましたがどうにか仕上げました
この話の設定としては大晦日に合わせましたので本来の時間の流れからは少々先になりその年の年末という事でご了承して頂ければ
後々話の流れで使えない設定が出てきたらこっちは削除するしかありませんが・・・
本日もよろしくお願いします
【・・・はぁ、んで?】
この世の不幸を全部背負わされたような顔をして目の前に跪く男を見据えて、白狐に跨る美女は溜息を一つ吐く。
明日は元日、一年で一番の掻き入れ時を前に何が嬉しゅうてこんな貧相なモノの相手をしなくてはならないのか。
「んでぇと申されましてもわたくし個人と致しましてはもう倉稲魂命様の御慈悲に縋る事しか残された道が残っておりませんので・・・」
困った時の神頼みとはよく言われる話だが・・・
【なんで明日からの準備に追われとらなあかん時に、こないけったいな奴を救わなならんのかがワテには理解できひんのやがな。
もっと暇そうなトコじゃあかんかったんか、恵比寿んトコとか東京晴明とか】
にべもない女神の一言に衝撃を受け、全ての希望を打ち砕かれたかのような表情でその場に崩れ落ちる男。
はっきり言って邪魔である。
「実家からは縁を切られ、仲間内からも追放され、更には留置所ではゴミのように扱われ、そして判決では全財産を没収され控訴する金も用意できず、家族は離散。
もう行く宛などこの世に残されていないのに倉稲魂命様にまで見捨てられるとなればこの場で首を括る以外に残された方法など御座いません!」
どうにも芝居がかった胡散臭い物言いだが年の瀬に神社で首を括られると年明けの営業に差し障る。そこまで計算しての発言なのだろう。どこまでもあざとさと狡賢さがちらつき計算高さが垣間見られる、とてもじゃないがお近づきにはなりたくないタイプだ。
【因果応報、やったかな?自分でやらかした事をちゃんと反省する気も無いヤツを救うのは本人の為どころか世間の為にもならへんがな。
ここで首括ったところでワテらはゴミを東京晴明にでもポイして仕舞いや。
いや、あそこはもう廃業して廃墟になっとんのかいな?今宮戎やら住吉大社もまだやっとったかのう?まぁそんな事はどうでもええがな。横領やら詐欺やらの方は結審して罰金仰山払わされるんやろ?
そやけどその他諸々はまだ白黒ついとらん筈やないかい。やのに何でここにおんねん?
まさか、保釈じゃあるまいに】
保釈金を積むだけの金も残っていない筈だから倉稲魂命の疑問はもっともだ。
女神の問い掛けに瞳を泳がせる男。どこぞのともかく臭い男の脱獄に便乗してここまで来たとは口が裂けても言えないだろう・・・お前OUTね。
「そこはそれ、蛇の道は何とやらとましてあれやこれやと伝手を手繰ってここまで辿り着いた訳でございまして・・・」
それ以上は嘘を吐かざるを得ない、そうなると忽ち女神の逆鱗に触れてここまでの苦労が泡になってしまう。
そんな男の苦悩を知ってか知らずか女神はさっさと話を進める。
【胡散臭いんも芸の内なんやな。どうせ真っ当な手を使うとる訳は無いんやから特別に聞く事も無いやろ。聞いたところでワテの耳が腐れるだけや。
んで、オドレは何を望んどるんや?】
女神の眼が男の心の奥底を見透かすかの如く細められる、と同時に周囲の雰囲気がガラリと変わった。
それまでの年末独特の焦燥感や明日の準備に張り切る巫女たちの掛け声などから切り離され、氷で覆われた小部屋に刑の執行者と閉じ込められたかのような緊張感と切迫感が男の胃を締め付ける。
「・・・平穏無事?」
【やる事やって、償うもん償って、周りが許してくれるようになってからそないな冗談はゆうもんや!】
人には厳しく自分に激甘で生きてきた男には、女神の言葉は死刑の宣告のようであった。
基本として彼は自分は優遇されるのが当然、それは世間の義務であると考える類の人間で多少の違法行為も自分なら許されると考えるような輩である。
昨今の自分の身に起きている凶事も運が悪かった、どころか不当逮捕だとさえ思っている節がある。
やる事やって・・・女を囲って子作りに励め?、償うもん償って・・・慰謝料をこちらが貰いたいぐらいなんだが!、ぐらいにしか思っていないのが現状である。
そんなのを救うとか八百万の神を舐め過ぎだろう。
「わたくしには守らねばならない家族がいるのです!その為にも救われねばならないのです!」
【家族は離散したんじゃなかったんかい。ええ加減な事ばっかゆうとらんでさっさと刑に服さんかい】
「救うのが神じゃないんですか?縋る者を足蹴にするのが神だとは言わないんじゃないんですか?」
【無辜の民の願いにこたえるのがワテらの務めや。
オドレのようなまっくろくろすけに甘い顔しとったら恵比寿の二の舞になってまうわい】
取り付く島もない女神の様子に業を煮やした男が懐からナイフを取り出した。
「わたくしの覚悟の程を見て頂きたい!」
そう言い放つとナイフを自分の首筋に当て女神を睨みつける。
「この場で悪霊となって日本を世界を祟って見せましょう!」
そのまま男は動こうとしない。暫く待っても反応が無い女神に男は睨み付けながら歯噛みをする。
【なんや、それで終わりなんかオドレの復讐は】
女神は男にフッと息を吹きかけると突風が巻き起こり男の手からナイフを吹き飛ばした、そのついでにナイフで首筋に切り傷がついたようだが。
「ギャァァァァァァ!!!!」
【何を大仰な。頸動脈に当ててもおらんナイフで多少ケガしたところで死ぬわけないやんか。
死ぬ覚悟があるんやったらサッサと死んでまえばめんどくそうはならんのに面妖なやっちゃ】
大した傷でも無いのに大袈裟にのたうち回る男を冷めた目で見ながら女神はこう告げた。
【オドレ程度の小悪党が死のうが生きようがワテには何の痛痒もあらへん。
ただ、オドレの係わった人間の中にワテらと縁の深いモンがおった事が運の尽きやったな。
ワテが大事に思うとるモンの中にタマちゃんっちゅうおなごがおる。そのおなごのイロにオドレはちょっかいを出しとんのや。
ワテがもしここで見逃してやってもタマちゃんは許さへんやろなぁ。
そやからワテはオドレを見逃すなんて事はせぇへん。
恨むんなら過去の自分を恨むんやな】
「そんな事はした覚えがありません!どうか、どうかご慈悲を!」
血塗れになりながら縋ろうとする男を払いのけ女神は男を冷たく見据える。
【オドレが給料ピンハネして休みもようやらんと働かせとった“狸小路”を覚えとらんのか?
あの汚れの“タナカコウタ”の罪までおっ被せて警察に突き出した小柄なハゲの事や。
あの一件でワテがどんだけタマちゃんから睨まれた事やら。
オドレが今罪を問われとるんはその時にやらかした事が原因や。
それだけやったらすぐに娑婆に出てくるさかい余罪を調べてみたら恐喝、詐欺、重婚、万引きその他諸々が出るは出るは。
極めつけは会社を興した資金なんて銀行強盗で作っとるやないけ。
そやから最近仲のええ警官通してオドレの罪をチクってオドレは捕まっとんのやないけ】
「まっ、まさか!俺はオレをチクった奴のトコに命乞いに来ちまったのか?」
【『天網恢恢疎にして漏らさず』、悪事を晒して世の中を明かるうするのも神の務めよ。
積年の刑は大晦日にありや。クドウ、さっさと捕まってこいや】
いつの間にか元クドウコーポレーション社長 クドウの目の前には警察署が聳え立っていた。
ウーちゃん無双編最終回はいかがだったでしょうか
もっともアクションシーンは年寄ですから一切ありませんので無双なのかどうかという問題をはらんでいますが
終盤が近い筈なのにゴールが見えてこない不安を抱きつつも読んでくだっさった皆様が来年は良い年でありますようにと祈念しつつ今年は終わりです
間違っても年初だから連投しますとか言いませんからね?




