閑話 バルハラに勇者は集う
何となく陽炎会の事が書いてみたくなりました。1~3話ぐらいに出てくる狸オヤジの同僚のお話です。
話は月って名前の女の子のニュースを見た事から思いついたものでもしかしたら後で削除するかもです。
田貫がブラック企業『銀河開発』をリストラされて3ヶ月が過ぎ、梅雨明けが宣言される頃。
そして14人の勇者が銀河開発に反旗を翻し立ち上がった。その名も『ミッドスターミラージュ』。最初に勢いで“陽炎会”と名乗っていたのをかっこよさげに改名したのだ。何をやってる会社か一見さんには到底わからないだろうが。
そしてその決起集会が地獄門が目印の馴染みの飲み屋“冥土喫茶 晴瑠晴良”で行われようとしていた。
馴染みと言うには通い始めて3月ほどでしかないので烏滸がましい気もするが、この対女性コミュ障軍団には他の店に行く度胸なんぞ持ち合わせている筈も無いので結果として足しげく通う事になっている。決してゾンビが好きだとか吸血鬼に襲われたいだとかそういう趣味が有る訳ではない、と思いたいが。
MSMの代表を押し付けられた一ノ瀬を始め14人全員が晴瑠晴良の女性従業員の一人を指名するのは、元々は他の女性店員には声を掛けられないコミュ障独特の事情があったのだが、最近は聊か方向性が変わってきているようだ。
それはさておき、取りあえず恐る恐る店に入った14人だったが、生憎と目指す女性店員が1階のフロアでは見かける事が出来ず入り口を塞ぐような形で固まってしまう。
この辺は、一人で来た時も大勢で来た時も未だに改善できない点で、店に対して営業妨害をしている罪悪感は各々持ってはいるものの、肝心の体が言う事を聞いてくれないから周囲にやたらへこへこ頭を下げる妙な集団が形成される事になる。
はっきり言って邪魔でしかない。
店側も常連と言っていい客ではあるし、他の客からの見栄えも悪い事から、いつの間にやら彼ら専属にされてしまった女性従業員をいつものように呼び出して対応させるようにする。
MSMがこの店を初めて訪れ“陽炎会”などと名乗った時に、最初に相手をしてくれたあの『木乃伊』さんだ。
今日は中々連絡が付かず10分以上間の悪い営業妨害をしていたが、漸く奥から女木乃伊が出てくると当人たちは元より従業員や他の客からも安堵の溜息があちらこちらから漏れ出てくる。
要するに毎度おなじみの展開だという事だ。
店側としては金離れはいいし、酔って暴れると言った迷惑行為も無い、更には商談に店を利用してくれる奇特な客で、連れてきた客もリピーター率が高くこれくらいの妨害は店の風物詩として受け入れて気にもしていないらしい。おどろおどろしい店構えではあるが彼らにとっても居心地のいいところなんだろう。
コミュ障軍団がとある個室に通される。最初に入った個室だ。この辺りにコミュ障のコミュ障らしい拘りと言うか変化を好まない気質を窺わせる。
そこには、14人分の膳と二人の子供が待っていた。
二人は、女木乃伊こと百田 月さん22歳の子供で上が蒼星くん5歳、下が紅星ちゃん3歳。父親は二人の子供を認知していないそうだ。
名前のキラキラ具合からも分かるようにるなさん自身の教育レベルは高くないらしいが、二人の子供を育てる為必死で頑張っているらしい。
平均年齢40代後半の社畜道一筋だったこのコミュ障軍団に女性と付き合った事がある者など、ほぼいない。
そしてこの純粋培養の魔法使いどもは、この娘ほど年の離れた木乃伊の波乱万丈の人生にいたく衝撃を受けた。
事もあろうに、赤の他人である百田親子の援助をする事を本人の意思など気にもせずに勝手に決めたのだった。
今日は、その決意表明の日でもあるのだ。彼らにその善意が拒否される可能性があるなどとは思ってもいない。
唯一の20代、四方山を除いて彼らの気持ちの中ではるなは娘であり、さふぁいあとるびいは孫だからだ。最年長の二宮に至っては既にるなが孫のポジションですらある。
「おーい、さーくん、るーちゃん。じいじたちのトコへ来てくれんか?」
大酒のみで飲みだしたら子供たちと触れ合うチャンスの無い三島が、元々小さい目が無くなるほどの満面の笑顔で二人を呼び寄せる。
店が併設する託児所でいつも暇を持て余している子供たちは、三島を始めとする好々爺の中へ喜びの声を上げながら飛び込んでいく。
「いつもすいません。子供たちが我儘で御迷惑をお掛けしてしまうのに」
学校教育は碌に受けていないとはいえ、実社会で揉まれてきたるなはそれ相応の接客をしてくれる。
女慣れしていない魔法使いどもにとっては、妙に媚びたりしない彼女の対応が心地いいのだ。キラキラな名前なのは、親のせいであり当人には何の責任も無い。ただ、自分の子供の名前までキラキラさせたのには責任があるとは思うが。
「ミィさん、今日こうして会社設立の集会をこうしてやれるのは貴女のおかげだと思っています」
るなだとるびいと被りそうなのでMSMのおじさんたちは、るなの事を木乃伊から採ってミィと呼んでいるし、本人も受け入れている。
「私は何もしてません。だって皆さん知ってる通り高校中退して子供まで産んだ水商売の女に何かを成し遂げられる筈が無いじゃないですか」
一ノ瀬が苦笑しながら否定をしようとするるなを制する。
「貴女とちびちゃんたちが一生懸命生きようとしている姿を見て、僕らは前に進む決意を持てたんです。
僕らがもし結婚が出来て子供が出来ていたら丁度貴女ぐらいになっていたんじゃないかってみんなで夢想する時があるんですよ。あぁ、二宮さんからならミィさんでも孫になっちゃうかな?
仕事しかできない僕らからしたら、子供を産んで育てるなんて大事業を成し遂げているとしか言いようがありませんよ」
とんでもないと卑下するるなに五木がウィンクをする。ホントか嘘か、この男だけには学生時代に女性と付き合った記憶があるらしい。
「俺らの会社って野郎ばっかじゃない。だからミィちゃんもウチにさぁ」
るなが泣きながら頭を下げる。
「そんないい加減な事をして会社が成り立つ訳が無いじゃありませんか!」
「五木!お前の言い方はミィちゃんを会社で囲うなんぞと誤解されても仕方ない事じゃぞ!
ここは、代表の一ノ瀬に任せるに限るぞ・・・おぉおぉるーちゃんや、にーじいのトコにも来てくれたか」
・・・最後は締まらなかったが、二宮の言葉にるなは安心する。子連れ女が一人で渡るには、世間は冷たすぎるのだろう。
「うまくは言えませんけど僕らの総意としては、貴女にはこの店を辞めて欲しくはないというか続けてくなければ僕たちの行き先が無くなってしまう。
でも貴女との関係は構築したい、という訳で我が社の社外取締役になって欲しいんですよ、百田月さん」
突然の提案に理解が進まず呆然とするるなだったが、飲み始めて子供が側からいなくなった三島の言葉にハッとした。
「難しく考える事ぁねぇよ。子供育てるんだって片親じゃあ何かと大変じゃねぇか。俺らじいじが一緒に助けてやりてぇだけなんだからよ」
「でもこの子たちは父親からは・・・」
「認知されてねぇてんだろ?そんなもんどうって事あるかってんだ。証明しろってんなら俺ら14名全員が父親になってやる。大学出るまでぐらいだったら俺らに任せろや。
俺ら家族を作れなかった連中にとって、お前さんらは最高の家族なんだぜ?何しろクソッ可愛い娘とメチャクソッ可愛い孫が出来るんだ、俺らにとっちゃそんなもんなんだよ。
頼むから俺らの家族になってくれぇ」
言いたいだけ言ってさっさと寝た大酒呑みの三島だった。因みに一升瓶で焼酎3本、清酒3本、ウイスキー2本が今日の彼の成績である。
「でも私高校中退なんですよ?」
「ここに最初に来ることを決めてくれた田貫さんだって大学中退して『銀河開発』に入ったんだよ?
小学校中退じゃないんだから誰も気にしないよ」
その言葉に驚いて、るなが声の主七尾を見る。
「『銀河開発』?」
「そう、俺達は銀河開発を辞めてみっどすたあ・・・なんだっけ?まぁそれを始めるんだけどな?」
「あの子たちの実の父は・・・カネダ マサオキ、銀河開発の次期社長です・・・」
にぎやかだった部屋に突然の沈黙が訪れた。
「あぁ、田貫さんを追い出したバカ息子か。でも、認知していないんでしょ?だったら親はミィさんだけ、そして僕たち14人って事ですよ。何も気にする事はない、前を向いて歩くだけですよ」
カッコ良く一ノ瀬がその場を纏め、なし崩しにMSMに百田親子も取り込まれて行く事になった。
そして明日は・・・明日の風が吹く事であろう。
新章は月水金の更新になっております。読んで頂いてありがとうございます。




