第140話 狐の神様、昔語りをする
いよいよ九尾の狐伝説の説明・・・始まります
本日もよろしくお願いします
【結構長い話になるで、覚悟しぃや】
年寄りの長話は覚悟を決めないと聞いていられない。とは言え、この緊急時に僕たちがドタバタしても何もできる訳がない。すべてはウーちゃんの胸先三寸って事さ。
話が長くなりそうだと察してディーテの部下の船幽霊たちが、どこからか長椅子やらテーブルやらを持ち出してセッティングしていく。稲荷狐には出来ない気配りだな。なぜかウーちゃんの機嫌が悪くなる・・・揉めるのは帰ってからにしてね。
茶菓子と飲み物を綺麗に船幽霊たちが配ってくれたところでウーちゃんがが話を始める。聞き手はチームシリウス全員だ。(ピュアとポンのすけ、ポチは寝ているから除外)
【あれはこの国で武家の時代が始まる頃ゆうか、公家どもが落ちぶれていく頃の事や。
時の上皇は鳥羽院、でそん時の今上帝は崇徳天皇や。今からざっと900年前に生まれた男や。
歴史で習うたかも知れへんけどそん頃は院政ゆうて天皇には何の権限も有らへんで上皇が天下って時代やな。数えの5歳で即位23で上皇から退位させられるだけの何の力も無い天皇やったなぁ。
そんな天皇かて人の子や。色気づいて無い権力を振りかざしてでもものにしたい思うおなごが現れたんや。
その頃は短歌をやり取りして品定めをしたり相手の気持ちを確かめたりしてたもんやで。知っとるか?百人一首に讃岐院、あっこれは崇徳天皇の別名やで?その百人一首に讃岐院は1句選ばれとるさかいな。
その讃岐院が気ぃ引こ思うて一句ひねり出して付け文したんが2つ上の鳥羽上皇のトコに下働きで出入りしとった藻女っちゅう下級貴族の娘やったんや。
付け文が功を奏して藻女の気を引けた讃岐院は藻女を父親の後宮から引き抜こうとしたんやがそれに鳥羽院(鳥羽上皇)が気付きよった。そこですったもんだをやらかした挙句鳥羽院は藻女の流出を阻止、ついでに下働きから女御に昇進させて自分の寵姫にしよった。
唾を付けた下働きを出し渋った挙句自分のもんにしよった鳥羽院に讃岐院は当たり前やが面白うない、いくら権力があるからゆうて人の道に逸れたらいくら天皇や上皇やゆうたかて後ろ指を指されるっちゅうもんや。旦那さんも気ぃつけぇや。
さらに続けて鳥羽院は、自分トコの女に手を出そう思うた讃岐院に見せしめにしたろ思うて自分トコに天皇を呼びつけるんや。権力はどっちにあるんやか周りに周知させたかったんやろうけど讃岐院からしたら屈辱やで?実の親子で何やっとんのかて思わへんか?思うやろ?
そして何をした思う?藻女を中宮に昇進させて名前を付けたんや。『玉藻の前』ってな。
それから月日が流れ、玉藻の前は鳥羽院の寵愛を一身に受けて子を孕むんや。一人目、二人目とおなごが続き三人目に珠のような男の子を生む。ヒトデナシの鳥羽院は大喜びや。
そしてその男の子が3歳になった時、鳥羽院は讃岐院に命令するんや『天皇降りてこの子に譲れ』てな。
力のある上皇であり父親でもある鳥羽院の命令は絶対や。
でも権力はあっても玉藻の前に入れ込んでから病気がちになった鳥羽院の後に自分が院政を敷く事が出来る。これだけがもちべーしょん?を保つたった一つの方法やったんやろうな。
ところがや、いざ天皇から退く段に鳥羽院から出された勅書を見て讃岐院はびっくり仰天魂が抜けたようになってまうんや。
何や思う?
新たに天皇になる異母弟、母親は玉藻の前や、これは自分の皇太子として即位するんやのうて皇太弟として即位するんやと知ったからや】
ここまで一気に話したウーちゃんは一息ついて茶を啜る。
《タマちゃんに讃岐院が惚れてた事は判ったけどそれが今度の復活になんか関係あるの?》
「それもだけど新しい天皇って異母弟?あぁ腹違いって奴か。で皇太子じゃなくてこうたいてい?で驚くとか意味が全然解んねぇ・・・オレも眠くなってきたぜ(ボソッ)」
確かにカオルン少年の眼は半分閉じ掛かっているね。夜更けだしドロドロした話が嫌いだから相乗効果が覿面って事か。
一方、葛葉嬢は自分の前世と祟り神崇徳天皇に因縁があった事に戸惑っているみたいだ。僕の前世はこの時点では絡んでこないみたいだし、時の権力者には逆らえずに生きていた当時の前世に思いを馳せているのかも。
【皇太子やないゆうんはこの話の流れの中じゃ重要な事やで?
抑々院政ゆうんはどないして成り立ってるんか解ってんか?若女将は大方学校に寝に行っとったんやろ?
眠いのにすまんなこないなつまらん話聞かせてなぁ。
さて、院政ゆうんは、先に引退した天皇が上皇やら法皇やらになって次の若い天皇の治世を手助けするゆうんが建前なんや。未熟な子を親が支えるゆうてな。
そやから弟でも譲位する時は養子にしてから明け渡すゆうんがしきたりやった訳や。もちろん讃岐院も弟の近衛帝を養子にしてから退いたんや。そやけど譲位した先が弟に戻っとるゆうたらクソ親父が逝ってもうても次は自分の天下や思うたところで順番が回ってこんちゅう事になる。
さんざっぱら好き放題やられた挙句の仕打ちや、根に持たん筈は無いやろ?】
陰湿な公家政治の闇を見させられてる気分だよ。菅原道真も非藤原氏だったから藤原氏から散々な目に会ってたらしいし・・・そりゃあ祟るわな。
【でも養子にしたのに弟になっていたなんて妙では御座いませんか?】
「そこらへんに鳥羽院と讃岐院の確執があるゆうんや。
讃岐院は鳥羽院の中宮の長男や。後を継がせた近衛帝はその中宮を追い出して皇后に据えた玉藻の前の子供や。
それにや、讃岐院は玉藻の前に懸想しとったっちゅう因縁がある。
そやから近衛帝を讃岐院の養子にして後継者やゆう事で気ぃ抜いたトコでこっそり籍を戻して実権の無い上皇に追いやるゆう意趣返しを思いついたんやろな】
「なんかややこしいんだけどさ、鳥羽院の子供は讃岐院と近衛帝、だっけ?なんで他の二人は“院”なのに近衛だけ“帝”なのさ・・・ドロドロしてて聞きたくねぇけどさ(ボソッ)」
ウーちゃんが凄みのある悪い笑みを浮かべてカオルン少年の方を見る。
【それはやな、近衛は上皇になっとらへんからや。“院政”やから天皇を引退して上皇にならんとそれも親として子が天皇になれへんと張り子の虎と同じやからな。
近衛は上皇にはなっとらん。17で死んでもうたからな。そやから院やのうて帝のままや】
その死因ってもしかして崇徳天皇からの祟りなのか?思わず晩春の深夜の夜風に震え上がる僕だった。
本当の伝説は鳥羽院の時だけで完結するんですが、この話の都合上平治の乱まで繋がっていきます
見た目も釣り合わない葛葉嬢とおっさんがなぜくっ付いているのかを自分なりに納得できる形にする為色々と考えたんですよ?
まぁその答え合わせみたいな話ですのでまだまだ終わりません 悪しからず




