第136話 亜神、告白する
おっさん目線でお送りします
ついさっきまで一人で大騒ぎしていた白髭ハゲが急に静かになったな・・・気絶してやがる。
って事は新たな亜神がついに来たようだな。
その割には僕たちチームシリウスには動揺がまるでない。もう少しおたおたした方が可愛げがあっていいとどこぞの狐に跨る女神さんは言うだろうけど、なぜか僕たちには怖いという感覚が無いんだ。どっちかと言うと慣れ親しんでいる雰囲気に似ているんだけど?
公園の入り口の方にいた神々が左右に分かれてその間を一人の人物が姿を現す。
「姫様、こんな夜更けにどうしたんですか?
お肌の曲がり角がどうとかよく気にしていたでしょうに」
【旦那さま、それにみんな。私はみんなに大事な事を告げなくてはならないので御座います】
僕の渾身のジョークをスルーして葛葉嬢が話しかけてくる。頭に白い大きな獣の耳を付けてこんな夜更けにコスプレとは葛葉嬢もどうかしたのかな?
【タマちゃん、自分何でここに来たん?】
横から口を挟むウーちゃんに小首を傾げながら葛葉嬢が呟く。
【父の車で御座いますけど?】
・・・いかん、葛葉嬢ったら静かにパニくってるよ。ここは何に乗って来たかじゃなくて何をしに来たかでしょ?
【ちゅう事は日霊連の狐塚が来とるゆう事やな?】
【はい、私の後ろにほら?】
そこには真っ暗闇な空間だけがあった。そう、葛葉嬢の後ろには誰もいなかったんだ。
【お、お父様?】
葛葉嬢は箱入り娘だから家でもそんなお上品な呼び方をするんだな・・・あのくそ親父、逃げたか?
「ピュア、この辺りに僕たち以外で人間がいないか探してくれないかい?」
《・・・あ、はい、おとーさん。ちょっとまってね》
子供だから寝てたか。起こしちゃってごめんな、明日一緒に遊ぼうな。
《・・・おとーさん。わかったよ。みんなのおうちのちかくにひとりいるよ・・・ねてるのかなぁうごいてないよ?》
「・・・姫様、もしかして威圧をぶちかましませんでした?」
【え?いえ、あの、その・・・ちょっと興奮しちゃいまして・・・】
大方ここに来る途中で店の辺りで僕に会う会わないでちょっと騒いじまったんだろうな、自分の娘の威圧に当てられて気絶でもしちまったんだろうけど、葛葉嬢もここに届くまでに親がぶっ倒れてる事に気付かないって・・・よっぽどこの結界の中の事が気になってたんだろうな。
「ウーちゃん、敵が逃げてなくてよかったね」
【ふん!多少逃げたかてワテの情報網があればそうやすやすと取り逃がしたりはせんわ!】
まぁ僕も見つけられたからアンジェが眷属になった訳だもんな。
「そうですねぇ・・・あっそうだ、眠いだろ?無理に起こしてごめんな。それからありがとね。ピュアはもう寝なさい。明日また遊ぼうね。
そうだ、姫様、大事な事って何ですか?」
忘れちゃったらきっとこのヒト拗ねるに決まってるからちゃんと聞いてあげないとね。
【・・・旦那さまは私を見て何も思われないので御座いますか?】
・・・眼が怖い、とかはダメだよね。コスプレに気が付いてあげるべきだろうか、いやいや、これはこれで罠の匂いがする。
「いつもより声の響きがいいな、とは思いますけど?」
多分こっちなら地雷は無い筈。ここで間違うとまた逃げられちゃうからな。いると残念だけどいないと寂しいんだよな。寂しいだけだからな、変に気を回すんじゃないぞ!
【この耳とか気にはならないので御座いますか?】
やっぱりそっちは地雷だったか。用心しといてよかったよ。さてどう返事するべきかな?
「毎日アンジェやピュアたちと一緒にいると多少のおまけは気にならなくなるんですけどね。それにどんな格好をしてても姫様は姫様ですし関係ありませんよ」
僕の返事を聞くと葛葉嬢の眼から涙が溢れ出る。しくじったか?慌てて近づこうと走り出すと透明な壁に衝突して僕は無様にひっくり返った。肩に留まっていたピュアがせっかく寝かかっていたのに目覚めてしまった。ゴメン、マジで。
「こんなトコに結界とか勘弁してくださいよ」恥ずかしいんだからね?
【ごめんなさい。勝手に急に近づいてくるものに対して自動防衛システムが立ち上がるみたいで自分では止めようがないので御座います】
【今まで何度も討伐されとるさかい魂レベルで自己防衛してまうんやろうな・・・タマちゃん?
ワテが誰か解っとるかいな?】
【ウーちゃんで御座いますね?こんななりになってしまいましたが今までお世話になっている方を忘れる筈が無いでは御座いませんか】
葛葉嬢の言葉にウーちゃんの肩から力が抜ける。・・・あんなおばはんでも緊張する事があるんだな。
【こら、オドレ、なんや失礼な事考えとるやろ!顔に出とるで】
「ハッハッハッ!バレてるなら仕方ないか【嘘でも敬わんかい!】神様の前でウソを吐いちゃバチが当たるでしょうが」
【人間が相手やったら右往左往する癖しよってワテらに対してその不遜な態度・・・覚えとれよ】
【あ、あのぅ・・・本筋に戻してもよいで御座いますか?時間が経つと必死な思いでここまで来た覚悟が揺らぎそうなので御座いますが】
僕たち、そうチームシリウスの面々はおろかその場に居合わせた神々や仏神たちまで姿勢を正して葛葉嬢の言葉を待つ。例外もいるが・・・
【よくものこのことこの場に姿を現しよったな!予が直々に成敗してくれる!】
いらんことしいの不動明王が姑息にも葛葉嬢の背後から斬りかかる。予想通り葛葉嬢の結界が発動して持っていた剣が根元からぽっきりと折れる・・・大事な宝剣じゃないの?あれ。
【予の、予の俱利伽羅剣が・・・予の俱利伽羅・・・】
あまりの異常事態に不動明王の奴、白目を剝いてひっくり返っちまったよ。いいざまだと言っていいのか悪いのか・・・今までの経緯から言ってもいいよな、うん。
無様な闖入者は戻ってきた取り巻きたちに引きずられて退場となり、夜更けの公園は静けさを取り戻す。ただ、主役の一言を待って固唾を飲んでいるモブの熱気はその中でも徐々に高まっていく。
ひりひりする程の緊張が最高潮に達した時、徐に葛葉嬢が口を開いた。
【私は人である事を辞め・・・九尾の妖狐に戻ってしまったので御座います】
次の瞬間、深夜のうらぶれたかつての公園はまるで大スターのコンサート会場であるかの如く雄叫びと歓声に沸き返ったのだった。
カミングアウトって盛り上がるのはなぜでしょう




