第128話 仏神、狸に忘れられる
内部抗争やらチクりやら結構ダークな面が出てます
信心深い方は飛ばした方が吉かも
【まぁええ、今から日霊連に踏み込んで不正をたださにゃならんのう。フッフッフッ】
【待て、稲荷神!今はそのような些末な(ちょっとした)問題などどうでもよいではないか!
今は新たなる悪神にいかに当たる事こそが大事ぞ!とにかくそ奴を差し向けねば被害がどこまで広がるか想像もできぬわ!】
あくまでもタダ働きさせる気満々だよね、不動妙王の奴。
「さっきから言っていますようにタダ働きはまっぴらごめん蒙りますが僕が言ってる事は理解できてますか?」
【なんと浅ましき(品性下劣で嘆かわしい)下郎(クソ野郎)か!
目の前の金銭などに捕らわれて事の大事に気付かぬとは!】
「気付いてますよ。生き残らなければ金銭を払わずに済むのになんて考えてるのを美談にすり替えようとしてる事ぐらい。
それくらいお金に困ってるんですよ、うちは」
守銭奴と言われようとモブ2号の家族だって食わさにゃならんのだ。4歳の娘を路頭に迷わす訳にはいかんでしょ?喫茶店の経営だって経費を考えれば楽じゃない事ぐらいそっちにタッチしてなくても解ってるんだよ。
【・・・仕方ない。毘沙門天、全救連に連絡をせい。霊障己級の指名依頼を狐塚党に出せとな】
・・・はっ?霊障己級の為にこの店を埋め尽くす神様が動員されたの?悪神認定が己級?結局ケチってたのはおめぇじゃねぇか!
「ウーちゃん、指名依頼は拒否してもいいんだよね」
【・・・せやな】
【下賤(身分が卑しい、下等な)なる下郎の分際で予に歯向かうとは良い度胸だ!
目にもの見せてくれようぞ!毘沙門天!】
【・・・】
【何をしておる毘沙門天!これなる蛆虫を捻り潰すのだ!】
【・・・】
毘沙門様が下を向いて何かに耐えている様子でじっと立っている。来るなら来てよ、生殺しになるくらいならさっさと殺された方がまだましだよ。ここにいない葛葉嬢の事を想うとチクッと心に刺さるものがあるけどもうこうなったら仕方がない。無理無駄無茶はみっともない、潔く死んでやるさ。
【明王様・・・死地に赴く者に嘘を吐いてまで追い立てるのは反対です】
【!!】
毘沙門様、ご乱心ですか?せっかく覚悟決めてるのに生殺しは止めて欲しいんですけど。僕の中で不動明王が真っ黒なのは確定ですから気にしなくていいんですよ。
【毘沙門天殿、それはどないな意味かいな】
人のミスは蜜の味、あの陰険な稲荷狐どもの主人らしいウーちゃんのギラギラした目が不動明王を射抜く。
【・・・実は【毘沙門天、いや多聞天。それ以上は部外者には口外するでない】・・・!!】
上司の言葉が強制力になって無理矢理口を閉じさせられたってところか?
【部外者やと?なぁ毘沙門天殿、同じ七福神の身内では無いかワテらは、なぁ】
恵比寿様が闇落ちした後の七福神に暫定復帰しているウーちゃんの隠し玉炸裂、か。部外者だけど仲間ってのは中々な搦手で断りづらいよね。
【・・・日霊連に伝えたのは妖怪初級としてでした。これは唯一神を名乗るあっちにもその旨を連絡してあります】
僕たちが討伐した“オロチ様”こと“双頭のオロチ”を最初に対外的に確認したのが16強で仏教系の“怨調”こと“全日本怨霊調伏委員会”でその後を引き継いで被害を大きくしたのが同じく16強キリスト教系の“北”こと“北の大地を救う会”だった。それから更に16強の陰陽師系の“清浄社”こと“浄霊清浄社”のワンタッチがあった末に僕たち野良の“チームシリウス”への窓口のお諏訪様、ウーちゃんといった八百万の神々に妖怪退治の依頼として回ってきたのは初級だった。もしかして神道系を陥れる為にグルになって亜神討伐をさせて失敗しても構わないとでも思っていたのか?
【要はおのれらはおのれのメンツを保つ為、被害が大きゅうなっても構わんと過小評価をして次に次にとたらい回しにしとった訳や。
そないな事しよっても現場の力は付かへんで?研鑚もせんと実力が付く訳なんかあらへんやないの。
片っぽじゃその尻拭いを過小評価した挙句の頭金だけで熟して力をドンドン付けて来よるんや。
楽してズルして上達せぇへんのはワテらのそいからオドレらの指導がなってないからやないんかいな。
そしたらワテらはみんなで人間をダメにしとるんやないんか】
らしくないウーちゃんの正論に店を埋め尽くす神々(主に仏神)がポツリポツリと引き上げていく。それぞれウーちゃんや僕たちに頭を下げ反省をしているみたいだ。
「お、おじさま・・・あたし修験道に目覚めてこの方こないに仰山の神様を見るのも人間に頭下げるのを見るのも初めてです」
ちんちくりんが興奮して訛りが出ているね。仏教系のかつての“同盟”で修行をしてたんだから平時だったら好きなアイドルにあったみたいに有頂天になれたかも知れないのに、何の因果か敵対しその果てに謝罪を受けるだなんて理解の域を超えかけているのかも知れないね。
不動明王は除くけど。
【うぬらがそんな弱腰でどうするのだ!
我等は仏に仕える身ぞ!惚けた人間どもを飼いならし仏に仕える様仕向けるのが使命であろう!
このような煤けた蛆虫に頭を下げてうぬらの矜持(プライド)はどこへ行った?輝ける西方浄土へ誘い我らが手足となって働く事を至上の喜びと説いていないのか?】
なんかトンデモない事言いだしてるよ、コイツ。どっかのカルトのが乗り移ってるんじゃねぇのか?
《ターさん♡、カッコつけてても一皮むけばこんなものですよ。
こんなのが上にいるとなるとちょっと危ないんじゃない?》
なんかアンジェが悟りを開いちゃってるんですけど?
【さてこないなアホはホカしてワテは日霊連に襲撃を掛けたろやないか】
神様がどこぞの武装集団みたいな事を言わないで欲しいんですけど。
「ウーちゃん、水を差すようでアレなんだけどこの時間だと誰もいないと思うよ」
白狐から滑り落ちるウーちゃん・・・受けようと思ってお尻から落っこちて蹲っちゃって。ホントに痛いの?
【あほんだら!落ちりゃ痛いに決まっとるやないか!】
「そうか、じゃあハゲタヒコはホントに気絶でもしたのかな?」
【自分が何柱葬っとる思うとんのや、ボケェ。
あんなジジィいっくらでもぶっ潰せるだけの力を持っとんのをゆめゆめ忘れたらあかんで】
そんな事言ったって実際に物理攻撃したのはハゲタヒコが初めてだったんだから知らないよ。
【予を無視するなど100万年早いわ!そこになおれぇ!予が直々に成敗してくれるわ!】
あっ、まだいたんだカルト野郎。
ウーちゃんが狐塚父の首を絞めに行けるのはいつの事やら




