第115話 狸、お姫様になる
頭の禿げかけたお姫様なんて見たくも無いわい
「それにしても今日くらい定期巡回が有り難かった事はありませんでしたよ、烏丸さん」
はにかみながら笑顔を返してくれるこの婦警さんは・・・今は女性警官って言わなきゃならないんだよね・・・僕が女性が苦手だという事を(きっと)加味して巡回のローテイションに入れられてしまった不運な警官で流石に半年も顔が合うと僕も普通に話ができるようになっている。
えくぼが可愛い2年目のお嬢さんはキャリアアップの為に志願して巡回に来ているとか。彼氏とも仲睦まじくやっているらしいと常連客が血の涙を流していたのが印象的だったけどそれ以上の事は知らない。
彼女にとって僕は路傍の石でしかないんだから。
【けっ!誰が来たかと思ったら烏魔の小娘じゃねぇか、けっ!
兄貴もこんな青臭ぇ小娘の色香に惑わされる暇があったら玉藻様のケツの一つや二つ撫でて差し上げるのがスジってもんじゃねぇんすか、けっ!】
そう言って店が跳ねた訳でも無いのに八幡様が鳩の大群と帰って行った・・・なんで機嫌が悪いんだろうね?雌ゴリラにディスられたのを根に持ったとか?・・・普段そのくらいじゃへらへらしてやり過ごしてるのにねぇ・・・烏丸さんの事を烏魔って呼んでたみたいな気がするし・・・まぁいいか騒がしいのがいなくなって落ち着いて仕事ができるよ。
そうこうしている間にクリスマス用に仕込んだ鮭の燻製を騒がせたお詫びに僕の自腹で残ってくれてた客と烏丸さんに振舞って今日の営業は終わりにしよう・・・カオルン少年、時間だから終わるよね?
余計な邪魔が入ったからってアディショナルタイムは勘弁して欲しいなぁ。ほら、僕って元々客商売じゃなくて研究員だから化学者だから、ね?
「でもなんでクリスマスに鮭なんだよ。チキンとかターキーじゃねぇのかよ」
僕は仏教徒だからクリスマスの事は解りません知りません関係ないんです!恋人がどうこうとか売れ残りのケーキが半額になるのを待って買ってたとかそう言うのはどうでもいいんです!
クリスマスには鮭を喰え!以上で御座います。
だってオロチ様の成功報酬で冷凍倉庫を借りなきゃならないくらい鮭を貰っちゃったんだもん。倉庫代の請求を見てカオルン少年が涙目になってたのは・・・僕は見てません、見てませんとも!
「それにしても13回忌はいつなんで御座いますか?」
「年明けて1月末ぐらいかな。寺には連絡も入れてるし宿も予約取ったから」
《《《「「「宿?」」」》》》
どうして全従業員と眷属が驚くのよ。故郷の長崎の田舎にある寺の檀家なんだから向こうで日帰りで法事とか無理じゃない。
「番頭さん、その時は店や仕事はどうするんですか?」
「根津くん、僕の法事だから他のみんなはこっちにいるんだから少し減らすかも知れないけど仕事はできると思うよ」
《《《「「「いやいやいやいや!」」」》》》
みんな息が合ってるね、仕事の時もそんな感じで頑張ろうね。
「でも番頭さんトコの法事って事はさっきのチミモウリョウも付いてくるって事ですよね」
人の姉をバケモノみたいに・・・まぁ、認識は合ってるけどアレは人類の範疇を無理やり広げて存在し続ける存在なんだから・・・諦めてるんだよ。
「私は心配なので御座います!正妻として同伴をする次第で御座います!」
「アレと一緒でおっちゃんが無事でいられるとはねぇ・・・壊れちまいそうでやだな、やっぱ付いて行こう(ボソッ)」
「おじさま、ボディーガードに立候補します!」
《ターさん♡を守るのは眷属の権利よ!》
《おとーさんといつもいっしょなの》
《及ばずながら某もお守りするのであります》
「有休を取ってきますから個人的に警護をさせてください!」
・・・へっ?モブ2号んトコは家族がいるから付いてくるとは言わないかも知れないけどなんで烏丸さんが警護したがんの?有休取って特別手当なんて付かないだろうし意味が解んないよ。もしかして警視総監辺りからの命令とか?
いくら慣れてきた連中ばっかりとは言えみんな女なんだよ?僕の精神的な負担はどこに行くんだよ。この流れだと全員分の宿を抑えなきゃなんないのにこの年の瀬にそんな暇あると思ってるのかい?
僕の無言の抵抗もみんなの鉄の意志に阻まれこの旅は2泊3日で上の姉親子、下の姉夫妻と二人の子供、僕たちチームシリウスの4人の人間10妖怪2精霊1の大人数での移動となる事になる。因みに烏丸さんは有休を使い切っていて泣く泣く参加を取りやめたのだった。他に警察関係で参加の意思を示した奴はいなかったから烏丸さんの暴走だったのだろう。きっと旅行がしたかったんだろうな、彼氏に連れてってもらったらよかったのに・・・もしかして彼氏も給料が少なくて連れてけないとか泣き付かれてたりしてね。
まぁ、最終的に居残るのはモブ2号とポン太の子たちだけになったから当然店は臨時休業になる。そう決めた時のカオルン少年の無念の塊のような表情は、そんじょそこいらの悪霊には出せない迫力があったのはホントの事だ。・・・とここで終わる筈だったのに稲荷狐が臨時休業の長崎行をモブ2号の嫁さんにばらしやがったがせいで急遽根津夫人こと美沙江さんと娘さんの香ちゃんも追加だ。毒も喰らわば皿までだ、もうヤケだジャンジャン追加を持ってきやがれ!どうせ費用は僕が持つんだ!矢でも鉄砲でもなんでもこいだ!
【それにしてもなんやな。なんや知らん間に旦那さんモテモテやあらへんか】
ニタニタ顔が目に浮かぶ声はそうウーちゃんだ。どうせ近場の祠から出張して寺で遊ぶんでしょ?付き合わされる稲荷狐には同情するよ、よの16番は除くけどね。
一言言っとくけど根津の香ちゃんはまだ4歳なんだから絶対守備範囲外だかんね!姪っ子もだ!血も繋がってるし余計なもんが付いてくんのが解ってんのに手ェ出すとかありえないでしょ?ゴリラの娘は気が強そうでおっかないし、カマキリの娘は親そっくりの鼻つまみもんだし・・・絶ッ対無理!
かくして年は明け、綿密な計画をちんちくりんと共に立て実行していく。
法事に掛かる費用、全員の旅費、宿泊代は全て僕が出した。お布施はカマキリ女の夫である僕の次ぐらいに不幸な人がこそこそと隠れて持って来た。
見つかったら使い込まれて終わりだって事はよくわかってますもんね。
現地での遊興費等に関しては自腹だとカオルン少年に釘を刺して貰った。横暴だとか何とかカオルン少年の向こうで吠えるバケモノが2匹いたけど小柄なカオルン少年が壁になって僕を守ってくれた。
二日に一遍以上やってくる怪物の襲来は、まるで測ったかのように巡回に現れる烏丸さんのおかげで実害は・・・あまり無い。気の弱い常連客がけいれんを起こしたり、客単価が少し減ったり・・・そのくらいだしこっちが除霊で留守にしている時もあるし・・・もちろんこっちがいない時は泥棒されないように完全ブロックしてるよ。
いつだったか油断して掴み掛かられた時はアンジェとピュアが追い払ってくれるし、まるで僕がお姫様みたいに守られてるのが何とも情けない。
何とか7月を乗り切りました
何とかお盆までは(九州は旧盆ですんで)続けられたらいいな ネタが・・・
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