第107話 温泉の女神、立つ
今日は七夕、だからと言って物語には関係ありませんが・・・12月ぐらいの話ですから
「お初に・・・お目に・・掛かります。・・・もしかして・・お諏訪様の・・妹と・・・いう事は・・八坂刀売命様・・・ですか?」
僕の呼びかけに、血走らせた目をギラつかせながらまるで山姥のように髪を振り乱して天女の羽衣を身に纏った女神?が、ディーテに羽交い絞めされたまま僕に向かって唾を吐く。
【わたくしに気軽に声を掛けるとは無礼先般!わたくしの使いに食い散らさせてくれるわ!大蛇丸おいでませい!】
えっ?オロチ様ってお諏訪様関係なの?
今だ本名不詳の女神に呼ばれてその使いの大蛇丸が姿を現す。体長10メートルもありそうな細めの電柱と言った太さの黒い大蛇だった。
【我が妹よ!早まった事をしてはならんぞ!
先生!我が妹の無礼をお許しください!
朧丸、お前の番の大蛇丸を鎮めてはくれぬか】
・・・神様に土下座をさせちまったよ、おい・・・それにお諏訪様の使いの白い大蛇ってあの黒大蛇と番だったのか・・・やっぱ、八坂刀売命なんじゃねぇの?
【背よ!なぜこのようなみずぼらしき者に平伏すのじゃ!
抑々此度の御神渡に通うて来られなんだそもじがわたくしに謝らずに彼の者になさるとは何たる無礼!大方そこにいる女性の手練手管に・・・弁財天殿?】
弁天様の言う所の『猪女』が漸く止まったみたいだね。
でもお諏訪様ったら案の定デートすっぽかして怒らせてたのか・・・あの八坂刀売命様、ええい面倒だヤサカ様でいいや、ヤサカ様の様子がどうにも既視感を感じちゃってチラッと葛葉嬢の方を見ちゃいましたよ。
・・・誰がウィンクを返せと言ったか?全く所構わず色気づくんだからさ!
時間が無いとは言え、この場を放置する訳にもいかず、僕たちはお諏訪様の妻、ヤサカ様の話を聞く羽目になった。
それによると、一年程前からお諏訪様が頻繁に出張するようになった、それもヤサカ様には内緒で。(丁度、僕と知り合った頃の事かな?)
不審に思いヤサカ様が自分の使い大蛇丸とお諏訪様の使い朧丸が番である事からお諏訪様の様子を探ってみた。朧丸は、遠くから僕たちやお諏訪様の事を見守ってくれてたみたいだからね。
すると若作りしたお諏訪様(小学生姿だから間違いは無いな)が狐目の大女(葛葉嬢だろうね)と談笑している絵が見えてきたらしい。自分の使いが夫の朧丸の目に映るものを転送しているだけだから音も何もないらしいから会話の内容は解らなかったらしい。もちろんその絵には僕もしっかりと映り込んでいたけど嫉妬の炎に燃えたヤサカ様の眼には何も映っていなかったそうだ。存在感がありませんからねぇ。
多分、葛葉嬢の横にいる僕に向かってお諏訪様が一生懸命おべんちゃらを言ってた時の事だろうね。だって葛葉嬢は僕を褒めてれば、大抵いつでもご機嫌だからさ。
そしてヤサカ様は、葛葉嬢をお諏訪様の浮気相手だと勘違いしたまま嫉妬の炎に身を焦がす羽目になったとさ。
ヤサカ様は、裏切り者のお諏訪様と浮気相手の葛葉嬢を陥れるつもりで色々と画策するけど中々うまくいかない。
決定的な証拠を掴もうにもお諏訪様が葛葉嬢と二人きりにならないわ(僕とは結構二人きりになってたりするんだけどね)、恵比寿様を唆してみれば恵比寿様は堕神となって行方知れずになるわ、御神渡りでお諏訪様が通ってこないわ・・・そりゃあブチ切れるわな。
悪神なります?
ところでオロチ様はどこに行った?
「それで・・・オロチ様とは【そのような事よりいつの間にこのような場所に温泉が湧いておるのじゃ?わたくしが下諏訪の温泉を司る女神じゃと言うのにこのような所はついぞ知らなんだわ。弁財天殿は水神ではあれど温泉は司ってはおらなんだ筈。さすればここはわたくしが・・・】お言葉では・・御座いますが・・そのような事で・・片付けられる・・ような・・事では・・ありませんので【あいや待たれい!!お諏訪殿の細君殿!この場は嘗て我が名から採った“毘沙門台”なる湯治場!我輩が差配するのでお引き取り頂きたい!】・・・もういいです」
中国風の鎧で身を固めた中年男性が乱入してきたよ。言ってる事からすると毘沙門天様って事かね。
ようは枯れてた温泉が復活してきたから一枚かませろって言いたいんだよね。
弁天様は温泉から出てくる積りは無いみたいだし、ヤサカ様は権能は我に有りってな感じで噛み付く気満々だし、お諏訪様は間に挟まってオロオロしてるばっかだし・・・カオスだよね。これに恵比寿様やらオロチ様まで加わったら怪獣大戦争だよ、全く。
これに関わってたらオロチ様退治が出来なくなっちまうだろ?情報は欲しかったけど時間の方が大事だよな。
仕方ない出発するか。因果を含ませたポン太にオロチ様と交信させて取りあえずの情報戦を頑張って行きますか、戦場へ。
僕が腰を上げると、葛葉嬢が不満げに僕の袖を掴む。
「旦那さま、この場を治めないので御座いますか?」
嫌に決まってるじゃないの、神様が何柱集まってきてると思ってんのよ。それもお諏訪様除けば初めての神様ばっかだよ?
と言いたいところだけど、葛葉嬢の不満げな顔を見ていると弁天様がさっき言いかけてた『悪神になりかけの九尾の狐』ってのが気にかかってくるじゃないの。前世もその前もそのまた前も九尾の狐だったんだから葛葉嬢も九尾の狐だって言われると否定する根拠に乏しいか。
となると、僕が生きてる間は人身御供になって抑えないといけないんだろうねぇ・・・
僕は、葛葉嬢の肩を軽く叩いて微笑みかける・・・らしくねぇ・・・
「姫様に心配させるようじゃダメですね。ここは後顧の憂いを絶ってから出陣にしましょうか」
葛葉嬢が蕩けるような笑顔で頷く。カオルン少年も諦め顔で頷いてくれた。
さて、いつになったら前に進めるんだろうね。
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