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狸なおじさんと霊的な事情  作者: BANG☆
双頭の鮭と迷える狸編

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第104話 狸、同類をいじめる

《やっとオラを眷属にする気になっただな!》


 こいつのポジティブさはどこから出てるのか・・・あきれてものが言えんわ。


 堂々と僕の眷属になってオロチ様に情報を流すとか言ってのけるかと思えば、眷属にならなけりゃ持ってる情報は僕たちに流さないとか言ってくれて人を舐めるにもほどがあるだろう。


 さてさてそれじゃあ、田貫と狸の大勝負と行きましょうか。


「眷属にしてもいいけどあっちに情報垂れ流されたらさ、きっとお前さん生き残れないよ」


 眷属になるとするなら最終決戦で僕と枕を並べて死ぬ覚悟をして貰わなきゃね。


 案の定、化け狸はピキッと音がしそうなくらいに固まっちまった。


「眷属になるからには僕たちと生死を共にするって事だから死ぬ準備もちゃんとしとかなきゃな」


《オ、オラ、そったら事ぁ初めて聞くだ!何かの間違いだでちゃんと確認してくんろ?》


 眷属が主人の言いつけにそむけるとか思って無いだろうね。


「だって一緒にオロチ様に特攻するんだからお前さんだけが生き残れる筈ないだろ?」


《だってオラはみんなより弱いって、あん時オラに言ってただ。

 そったらオラだけ別個でもええんでねぇか?》


「そうかい、いいよ。

 じゃあ、そうしたいんならまず真っ先にお前さんにオロチ様と戦ってもらって残りのみんなにオロチ様の情報やら弱点やらを探って貰うのが定石じゃないかな。

 そうしたら僕たちみんなが勝ち残れる可能性が少しは上昇するよな。よしそれで行こう!」


 自分だけ生き残れるとかそんな甘い事は考えさせないよ。僕たちを舐めてると痛い目に会うからね。例え地獄への旅だったとしてきっちり道連れにしてやるから自身で体験するこったな。


《い、いや、いやぁ神様ったらそったら冗談でオラを脅かそうとか人がわりぃてもんだべさ!》


「ちっとも冗談じゃないさ、もし眷属が主人のお供が出来ずに生き残りでもしたらそりゃあもう地獄の責め苦を一生受け続けなきゃならないんだよ。

 『あいつは主人を見殺しにしておめおめと生き残ってるんだよ』とか、『根性無しが死にも切れずにまだ生きてるよ』とか言われながらね。

 そしたら先に死なせてあげるのが主人としての優しさじゃないのかな?

 それから一つ言っておくね、僕はまだ神様になっていない」


《生き残って主人の偉業を後の世に伝えていくのも眷属の務めじゃねぇですかい、な?》


 お前の事だから生き残ったら自分が頑張ったからだって言うだけだろうが。


「はっはっはっ、どこの世界に死に損ねた眷属の言葉に耳を傾ける奴がいるんだよ。

 だってそうじゃないか?

 眷属なのにそこに残っているって事は主人を裏切って逃げ出したか、怖気おじけ付いて戦いに参加しなかったか、眷属だったってのが最初からウソだったかのどれかじゃないか。

 真面な奴がそんな奴の言う事なんか聞く筈が無いじゃないか、当たり前だろ?」


《だども、オラ、眷属になってオロチ様に神様の事を全部教えなきゃならねぇだ。

 そうしないとオラのトコのみんながオロチ様に喰われちまうだ》


 お前はそういう所は馬鹿正直だからムカつくんだよ。僕には狸の一族に忖度しなきゃならない理由は無い、というより自分の仲間を優先したいだけだ。


「だから、お前さんが僕たちの事を洗いざらいオロチ様にチクってそれから戦う訳なんだからお前さんも含めて僕たちは全滅するしかないんだよな。

 でもその後、お前さんの一族は無事だと思ってるのかい?」


 奇妙な静寂が毘沙門台の温泉の上を流れていく。あまりしゃべるのが得意じゃない僕にとってはたまらなく嫌な時間だ。


《無事でねぇだか?》


「おめでたい奴だね、お前さんは。

 死人に口なしって言葉を聞いた事が無いかな?死んじまったらどんなに自分が正しくても生き残った奴らに都合よく話を捻じ曲げられて、あった事も無かった事にされちまうって事だよ。

 当のお前さんが死んだ後にオロチ様は、お前さんの一族にきっとこう言うだろうね。

 『お前の仲間は裏切ってオロチ様に喧嘩を売った。喧嘩には勝ったが裏切り者には罰をやらなきゃならん。だからあいつのやった罪の分でお前たちを皆殺しにする』

 ってね。

 どこでお前さんが僕たちを売ってオロチ様を勝たせたみたいな話が漏れるか判らない。漏れたらオロチ様の権威に傷が付くからね、正々堂々としないでだまし討ちにしたってね。

 どうせ、お前さんの事だ、自分の一族には今度の任務の事は話してたんだろ?

 ふっ、やっぱりな。

 それじゃあ口封じに狸一族はこの世から姿を消すのは決定だな」


 安っぽい三文オペラみたいな単純な話だけど化け狸には効いたみたいだな。


《・・・そったら、オラどうしたらええだ?》


 やっとだよ、頑固者の化け狸を三日かけて堕としたよ。聞く耳持たない単細胞に散々有る事無い事吹き込んで、ようやくオロチ様に対する猜疑心を撃ち込めたよ。


 ここまで途中で雪休みがあったにしろ、三日半とは最長記録だよね。ホントに梃子ずらせてくれちゃって戦う前から草臥くたびれちまったよ。


「いくつか方法はあるさ。

 まずはこのままお前さんがこの場を去って逃げる。この時に自分の一族の方に逃げたらだめだよ。

 だって普通に考えてもオロチ様がお前さんを疑ってお前さんの一族を見張ってるか人質に取ってるかしている筈だ。黙って他の所に3年は隠れてなきゃだめだよ。そうすればお前さんだけは助かる」


《じっちゃやばっちゃ、そいからおっかやちびたちはどうなるだか?》


「僕たちが負けたら皆殺しは間違いないね。僕たちが勝っても監禁でもされているんなら流れ弾で御陀仏だろうな」


 化け狸が落胆の表情を見せる。という事はこいつの一族は人質として湖の近くに閉じ込められてる可能性が高いのか。


「じゃあ次は僕の眷属になってオロチ様に何も教えないってのどうかな?」


《そうすっとじっちゃやばっちゃやおっかやおっとぅは助かるだか?》


「まさか、お前さんは生き残れるだろうけど、お前さんの一族は裏切り者の見せしめに僕たちがオロチ様を倒す前に皆殺しだろうね」


《そったらどうやってもオラの身内は生き残れねぇじゃねぇだか!》


 こうやって追い込んでいくのは、自分が悪人だって自覚を呼び覚ますから嫌いなんだよね・・・


 手こずらされた意趣返しもこのくらいにしときましょうか。このままじゃ僕は地獄行きだろうからね。

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