閑話 ちんちくりんは求め訴える
「おじさま、チームシリウスが既に除霊なんぞをやっている時代では無いんです!これからは妖怪退治です!
ゲゲゲの〇太郎じゃなくてポポポンの狸親父で行きましょう!」
「藪から棒にいきなり何を言ってるんだい。宇佐木さんらしくもないじゃない、それに褒められてる気もしないよ」
おじさまは、突然のあたしの意見を聞かされて目を白黒なさってます。仕方ありません、魂の叫びがつい迸ってしまったんだもの。
元々、チームシリウスに正式加盟する以前からのあたしの持論で、シリウスは除霊に留まらずより社会的に貢献度の高い妖怪退治にシフトしていくべきだと思うの。
これは、自称霊能業界(実態は除霊屋の集合体)の軛からチームシリウスを、と言うよりおじさまを解放して差し上げたかったからなんです。今のように16強から便利屋のように扱き使われて無駄にすり減らされてしまうよりもっと高みを目指して欲しいと思ったからなんですよね。
それにおじさまはテイマーとして猫又、風の精霊、人魚と3人の眷属を従えられる稀有の方。あたしたちみたいにチームを組まないと妖怪どころか除霊すらも怪しい面々とは一線を画する存在なんです。
大体考えても見てよ。“圧壊の魔王”とまで異名を取る日本のと言うより世界のトップに君臨する姫様一人に任せたら文字通り霊障物件を全壊させちゃったじゃないの。陰陽師として式神でもなんでも使えて捜索でも除霊でも一人でできる筈なのによ?
“蹂躙する拳王”なんて恐ろしい二つ名で16強を震え上がらせてる若頭にしたって手の届く範囲以外の霊は見つけられなくて、天井に張り付いていた奴をおじさまにおびき出して貰わなくちゃ何もできなかったじゃないの。
若頭にくっついて来ちゃった元部下に至っちゃ捜索以外何も出来ないのは確定だし・・・まさかこんな所で一緒になるとはあたしも思っていなかったけどさ。
「何を言いだすかと思えばまたその話で御座いますか?旦那さまに直談判なさる前に私たちに根回しの相談をなさるべきじゃないのかしら」
姫様はそう言うけど、言ったら言ったで『旦那さまを惑わす訳には参りません』とか言って門前払いに却下するだけじゃないの。
「2度神様ぶっ潰して1度神様廃業させてんだからチカねぇの言いたい事も解んだけどさぁ・・・除霊辞めたら喰えなくなるぜ(ボソッ)」
リアリストの若頭は一番若いのに一番保守的なのよね。そこはほら、若いんだから冒険しないと。それに今は喫茶店も黒字になってるじゃないの・・・八幡大菩薩様の給料を考えなかったらの話ですけどね。
「主任、本音は幽霊が見たくないんでしょ?
それにネーミングがダサすぎ・・アタッ!」
あたしは、無言でデリカシーの無いねずみ男の尻を蹴り飛ばした。悪かったわね、お化けが怖くて!
あたしの事情はともかくとして、今のままじゃ仕事に潰されかねないでしょ?
16強を見て御覧なさいよ。1位の“教会”は去年の“クトゥルフの猫”討伐で味噌漬けて八幡大菩薩様に主力を封殺されちゃった挙句、その代わりに“同盟”から引き抜いた宇宙人をエースに仕立ててその場を凌いでたけど頼みの宇宙人に逃げられて半身不随状態。性懲りもなく他の団体からエースを引き抜こうとして今や針の筵でハルマゲドンのカウントダウン中よ?元4位の“連合”はスキャンダルをでっちあげられて解散、8位の“光の会”は霊能詐欺の容疑で事実上活動停止、14位の“怨調”は水増し請求や内部告発やらで崩壊の危機、15位の我が“同盟”は“シリウスの落ち武者”に主力をほぼ全部潰された後“クトゥルフの猫”討伐で最後の意地を見せた後解散・・・
あと一つ減ったらベスト10かなんかに名前変えるんじゃないかしら?
とにかくそのしわ寄せはどこに来ると思う?
当然のように明朗会計、迅速討伐、成功率十割の我がチームシリウスに依頼が殺到してるのよね・・・うち等ってさ、16強がメジャーならマイナーの“野良”って言われるカテゴリーに属してるのにね。
まぁ依頼者を困らせる訳には行かないっておじさまが言うからさ、散々16強が見栄はって受けた案件を代行してやったりしてあげたんだけどさ、代行してあげたらあげるだけ調子に乗ってヤバい案件請け負うのよあの馬鹿どもはさ。
うち等を打ち出の小槌かなんかと勘違いしてる訳。だから奴らと距離を置くためにも妖怪退治の看板を上げたらどうかって言ってる訳なんだけどさ。
「現実問題として妖怪絡みの案件なんて存在するのかね?」
おじさま?あたしは、アンジェが以前街路樹数十本薙ぎ倒したって報告を受けてるんですけどね。
アンジェ、そこで気配消してないでおじさまに言う事あるでしょ?
《けっ生意気なウサ公め・・・
ターさん♥、ウチや海坊主のディーテの事を思い出してみたら?
世の中、需要が表立ってないだけだと思わない?》
ウシッ最低限の仕事はしたな。それにしてもその嫌そうな棒読みのセリフはどうにかしてよね。
おじさまはじっと目を閉じて考え込んでいたけど、フッと息を吐いて姫様を説得する。この人が首縦に振んなきゃこのチームは絶対動かないからねぇ。その姫様はと言うと、おじさまの言う事なら死ねって言われたら死に方のリクエストを受け付けてから死にかねないくらい盲従する人なんだけどさ。
「姫様、正直言って今の状況は異常だと思いませんか?先月に千里眼や宇宙人がうちに来ようとした時から今日まで何日休みましたか?
姫様は仕事ができて楽しかったかもしれませんけどね・・・休みなしは無いと思いませんか?
僕は前の会社で残業300時間超ってのを30年くらいやってましたけど、さすがに月に一度ぐらいは休み貰えてましたよ?
いっそのことこうしませんか?妖怪退治の合間に都合が良ければ霊障案件の解消も頑張る。週に一度ぐらいは店も除霊も何もない日を作って自分に充電をする時間にするってね」
喫茶店を休む事に若頭が抗議の声を上げたようだけど、おじさまに上手くあしらわれて治まっちゃいましたね。
【じゃあ、受ける案件はどうやって絞るんすか?】
・・・八幡大菩薩様・・・イメージが壊れちゃいますんでできるだけ発言は控えて頂いた方が・・・
「そうですね・・・いつもウーちゃんにばっかり頼ってるんじゃ気の毒ですから【んなこたぁあらへんでぇ!】ちっ!外野がうるさいですね。
それじゃあ、偶数月にする仕事は稲荷神社、奇数月にする仕事は八幡神社を窓口にするってのはどうです?」
【異議あり!先生、我を忘れられてはおられませんか?】
お諏訪様まで乱入する事態になってきましたけど、これで妖怪退治も仕事に正式にするようになったという事でいいよね?
・・・これで幽霊に会う回数が減るよね、きっと・・・




