第87話 狸、引導を渡す
「一応確認取っときたいんだけどさ、宇宙人のバカ嫁を見つけられなかったらチームシリウスが教会の下に入るって事は、見つけられたら当然教会がチームシリウスの下部組織になるって事よね」
それって誰得なんだよ。すかさず僕が上から被せる。
「教会が・解散するって・選択肢・だって・・あります・からね」
「わ、私の一存では何も言えな・・・私はその件については何も提案した記憶が無いわ!」
そう、一方的にチームシリウスが損をするような取り決めだけして追い込もうとしていたのは千里眼だ。
「アンタさ、教会クビになってるって言ってたでしょ?」
「・・・」
ちんちくりんが突き付けたクビになっていた話を認めると宇宙人の嫁を出汁にした今度の提携話(?)の根拠が無くなるし、認めなかったら最初から騙しに掛かっていた事を実証してしまう。攻め手を間違えたな、千里眼さんよ。
大方、ちんちくりんが出てくる前に話を詰めたくて店に付く前に追い込もうとしたんだろうけど、僕の眷属通信網が逐一みんなに情報を流していた事から目論見が外れたんだろうよ。
「それでマナミたんはどこなんですかね?」
お前もぶれねぇな、宇宙人よ。
「伊達くんさ、さっきのお稲荷様やらお諏訪様やらの話を聞いてどう思った?」
「マナミたんの事じゃなかったから聞いてませんでした・・・」
珍しく真面な返事が来たと思ったらこの程度・・・ホントに国立大出たんだよな?
「千里眼があけっぴろげに色々仕掛けてきてるのにそんなんじゃ早死にするよ?
いいか?お稲荷様たちからの情報はこうだよ。
まず、神隠しは現実に発生している。その後、お稲荷様たちが千里眼に追い返されたからどこの神様がやったのかは不明。千里眼はお稲荷様たちに罪を擦り付けようとしてるけど他の神様には出来ない事なのか?
次にお諏訪様が言った事。お稲荷様の精度や八幡様の情報量には負けるけど情報網は持っている。ただ、海外の事になると解らない。
この事から、お諏訪様の持つ情報網ではフォローしきれない海外にお前さんのお嫁さんはいるらしいって事が推測できる」
「なんで教えてくれないんですか日本の神様は?僕のマナミたんを返してくださいよ」
だから自分の脳みそを使えって言ってるだろ?
「テリトリーの外だから他所の神様に遠慮した。もしくは人界への過干渉を避けたかったってところじゃないのかい?」
「だからって僕のマナミたんを見殺しにしなくてもいいじゃないですか!」
「お前さんの信心が足りてないのに神様が動ける訳無いだろう」
所詮、世間はギブアンドテイク、都合のいい要求ばっかりしてても相手にして貰えない事があるって事をその豆腐頭に叩き込んどけ。ウーちゃんを怒らせといて何を言うのかこの口は。取りあえずは感謝する事から全ては始まるってもんだ。
「ついでに言うならテリトリーの外だから力が減衰するんじゃないのか?」
言っちゃあなんだけど、神道ってのはアニミズムに基づく極めてローカルな宗教だからな。統一した経典は無いわ、始めたのが誰か解らないわで世界的に流布している一神教からは下に見られることが多い宗教だからな。
自然発生的な素朴なものだから人為的ないかにも作りこんだ一神教からは原始的に見えるんだろう。そのせいか日本を出ると建立してある神社とその神域以外ではかなり力が限定されるらしい。行使できる実力も調査できる範囲も限られたところでお諏訪様の調査は多分限界ぎりぎりまでしてくれたんだと思う。
宇宙人が一言感謝の言葉を言っていればすべて提供できるようにね。
そんな事も解らずに突っぱねやがって・・・後でお諏訪様にお神酒でもお供えしとこう、納豆を添えて。
【カハッ、先生に献じて頂くのは光栄の至りではありますが納豆を肴にですか・・・もうちぃと生臭な焼き魚であるとかの方が酒がすすむのですが・・・】
納豆を夕飯のメニューに入れろと泣いて頼んだのはお諏訪様でしたよね。最大限の妥協をして提供する僕の身にもなってくれたらありがたいんですけどね。
「チームシリウスの頭脳二人で出した答えは、犯人は亜神どもではなく我が教会であると言いたい訳ですか?名誉棄損もいいところですわ。
その上、神隠しにあった本人は日本にはいなくて海外にいるですって。当然その海外って言うのもどこか確定してらっしゃるんでしょ?後学の為にも是非高説を伺わせて頂きたいものですわ」
おやおや、千里眼の顔色が青白いを通り越して土気色になっているじゃないか。気丈に振舞っているとはいえぎりぎりの所に来ているという訳か?
念のために以前からの癖で目を細めて首筋を見つめてしまった。前ならこれで霊能力の有無や強さが読めたんだけどね・・・やってしまって思わず後悔を・・・・・・見えた。見えてしまった。生首がくっきりとだ。
「霊能力の封印が解けかかっているのかと半信半疑で今までいたんですけど・・・まだ解けてなかったんだな、千里眼。
二度と戻ってこない能力のあだ名でこれからも一生を過ごすしかなんて憐れでしかないよ、全く」
「いきなり何を言いだすの?
私はシリウスを手土産に教会に戻って能力を復活して頂くのよ!所詮辺境の亜神どもの結界だもの、この功績を以って戻ればバチカンでもどこへでも行って封印なんて無かったものにして貰えるんだから!」
【ウーちゃん様の封印ほど手を抜いてやっている訳じゃないんだから、バチカン如きに解く事が出来る訳は無いだろうが。
神自らが施した本気の封印を神の名を借りた術で破るなど、いかな彼の教団が強大で神に集まる力が大きかろうと理に反するというものだ】
顕現を止めているので声だけしか聞こえないがお諏訪様の言葉が千里眼の精神を揺さぶっている。壊すと後が面倒だから程々にね、それからそれ以上話すと絶対やらかすからお諏訪様はここでは発言禁止という事で。
「行った先もお稲荷様は絞り込んでいたみたいだけどね。
伊達くん、お前さんさっきお稲荷様から怒られた時何処に行けって言われたか覚えてるかい?」
「え?何だっけ・・・ワイハァがどうとか言ってたかな?」
「そうか、それじゃもう一つ聞いてもいいかい?
質問はお前さんの愛妻マナミたんは〇流ドラマが好きだって言ってたけど〇流スターの方はどうだったんだい?」
「ハァッ、マナミたんの数少ない悪いとこの一つでね。流行りものに弱いんだ」
「この間、日本で公演をやってたBBQ?だったっけ?もかい?」
「BGMじゃないかな?マナミたんは東京公演に行きたがってたけど僕の仕事が終わらなくて行けてないと思う」
「そのBBCのコンサートの時はお前さんは横浜に戻っていなかったのかい?」
注:世界救世教会の本拠地は横浜で宇宙人はそこに居を構えている。
「ちょうどその日に帰ってきて『疲れた 探さないで』っていう書き置きをリビングにあるイ〇アで買ったウン万円したお気に入りのテーブルで見つけたんだよ」
無駄に詳しい状況説明をありがとう。お前さんの嫌がられてるのはそういうプチ自慢が多くて人の話を無視するところなんだからな。
「わかった、ありがとう。
宇佐木さん、BQFの次の公演先って解るかい?」
「ちょっとお待ちください・・・B〇Sの次の講演先は三日後のハワイですね」
「ありがとう。
伊達くん、お前さんの嫁さんはハワイにいると思うよ。早い話がグループの追っかけだ。
僕の若いころからそういう事をする連中は山のようにいたから・・・まぁつまりはそういう事だ。
見つけて連れ戻すかい?そのまま諦めるかい?それとも・・・」
呆然と立ち尽くす宇宙人の姿に罪悪感を感じていると千里眼が髪を振り乱し訳の分からない事を口走りながら暴れ出した。どうやら事ここに至って逃げ道が断たれたという事がダメージになって最後の一線を越えちまったらしい。
後味が悪いが事ここに至っては僕たちとしては手の施しようがない。警察やらに連絡を取ってあげるだけはしてあげるけどこれ以上迷惑は掛けないでくれよ。




