第85話 狐の神様、バックれる
「これで説明は済みましたけど早くマナミたんを出してくれませんか、稲荷神さん」
ふふんと鼻を鳴らして宇宙人を見下ろすウーちゃんと、あいつらしからぬ決死の形相で睨み返す伊達。
正直こんな展開は予想もしてなかったけど、八幡様やお諏訪様はどう見てるんだろう。
【ウーちゃん様、悪役似合いすぎっス】
【まさかこんな展開が待っているとは!】
単なる通りすがりの一般神だったようです。昔から天網恢恢疎にして漏らさずって言うじゃないですか、お二方の情報網には何も引っ掛からなかったの?
【兄貴ぃ、一般神はあんまりっス】
【申し訳ない、我の情報網はウーちゃん様ほどの精度や八幡様の情報量を持っている訳ではなく、その上海外となると・・・】
・・・海外?今の流れで海外って話ありました?
ふとウーちゃんの方を見るとお諏訪様の方を苦々しく見てますねぇ・・・
「お諏訪様?何か隠してますね?」
正直者で隠し事が下手で一言多い事で(僕の周囲で)有名な神様は、がっくりと膝を落として僕に告げた。
【その男の連れ合いは確かに神隠しに遭うております】
「はっ!仮にも辺境とは言え神の分際で、私たちの優秀な人材の業務を妨げる為に犯罪を犯すなど以ての外です!」
我が意を得たりと胸を張る千里眼に違和感を感じるのは、僕だけかな?元々お前は能力を封印された原因に何も反省してないだろう。
【何でこいつらは口に出す前に考えきれへんのや・・・ダァホ・・・】
アンタがそれを言いますか。
「神の身でありながら人倫にも劣る犯罪に手を染めるとは、全くよくそれで“クトゥルフの猫”を悪神などと罵れたものです!」
ホントこいつらって揚げ足を取り出すと嵩に懸かって攻めたてやがるよな。でもそろそろそれくらいにしとかねぇと話がひっくり返りでもしたら目も当てられんようになるよ。
「それに引き換え我が主上は、広く世界を見渡し各々の心根を汲んで遍く正義と平和を私たちに恵んでくださるありがたい存在なのです」
【だったらそっちに自分の窮状をさらけ出してお願いでもなんでもしたらええやないか。
『田舎の神やと侮って封印喰らいましたぁ』ってな】
ウーちゃんの尤もな指摘に、千里眼は狼狽える事なくこう切り返した。
「私の悩みなど主上にとっては些細な事なのです。主上の眼はもっと広く深くきめ細やかに物事を捉えられているのです。
私の小事など主上の手を煩わせる事なく路傍の亜神に片付けさせる事が適当であると判断されたのでしょう」
こいつらのメンタルは、都合の悪い事はすべて転嫁して周りを貶める事で保たれているらしい。
【言いたい事はそれだけやな?
そうか、丁度ワテらも顕現出来る限度が来たみたいや。もう二度と会う事も無いやろさけ残念やけど仕方がない。
ほな、さいなら】
はらわたが煮えくり返っているらしいウーちゃんが真顔でそう言うと、八百万三人衆は同時に顕現を止めた。
結局、千里眼は何をしたかったのか。ウーちゃんたちのマウントを取りたかっただけなのか、それに託けて自分の能力を復活させたかったのか、それとも真に宇宙人の愛妻マナミたんの奪還をしたかったのか・・・周りを吹き抜ける秋風に答えを聞いても誰も答えてはくれない。僕には無駄にウーちゃんを怒らせて痛い目に会いたいんだろうなという事しかわからない。
「マナミたんは、マナミたんはどこに行ったんですかね?」
泣きそうな顔の宇宙人の焦点の定まらない目が僕の方に向く。(僕の方を見るだとピントが合って無いから違うだろう)
「もしやったのが稲荷神さまたちだったとしたら多分、地球上にはいると思いますよ。別の世界に飛ばされたとかそういう事は八百万の神々には無理なんじゃないかな?役割分担が細分化してたりダブりまくってたりして指揮系統も有るのか無いのか判らない神様たちだからそんな大事業はきっと無理だと思うんだ。
と言うより、もしかしたら八百万の神々ってのはこの件に関しては知っていたけど当事者じゃなかったんじゃないのかい?」
「元稲荷神の使徒はこの期に及んでも亜神共の肩を持つと言うのですね?ではもし亜神どもの陰謀が明らかになった際はそうですね・・・チームシリウスは世界救世教会の配下になるという事でどうでしょう?」
「まるで・・僕たちを・罠にでも・嵌めたみたいな・・言い方・じゃないか・・千里眼さん。
って事は・・裏で・“教会”が・糸を・・引いてる・って事・なんだな。
大方、・・最近・宇宙人の・成績が・・思わしく・無くて・シリウスの・・力が・欲しくなった・ってところ・かな?」
「さぁ、それはどうかしら?我が教会は正々堂々と力を得る、という事だけは確かでしょうけど?」
この女・・・実はバカなんじゃないのか?
「別に・勝負を・受けると・・言った・つもりも・・無いんです・けどね。・・勝手に・罰ゲームを・決めないで・・欲しいんです・けど」
「あら?勝手に亜神冤罪説をぶち上げておいて逃げるつもり?
そんな事をしたらこの業界で仕事が出来なくなるわよ?」
「久しぶりに癇に障るやな声が聞こえると思ったらソウル大卒整形不美人じゃない。能力が無くなってあのヒキガエルから追い出されておじさまにお情けを貰いにでも来たのかしら?」
ここで千里眼の天敵、ちんちくりん登場。陰謀と謀略の権化、非合法を合法に偽装する天才。
千里眼が男だったら僕だけで一蹴できたと思うけど残念ながらあれは女。餅は餅屋に任せて高みの見物としゃれこもうか。