第83話 狸、争いを仲裁する
「それでは稲荷神さまでもお諏訪様でも構いませんから、私の要望を実行して頂けますか?」
儒教的な序列だったら日本より上に来るらしい半島出身のこのキリスト教徒は、胸を張り八百万の神々を見下さんばかりの態度で要求する。いやこれは強制するつもり満々だな。
その言葉に呼応して顕在化する八百万の神々(の代表みたいな感じのウーちゃん、お諏訪様、八幡様)。例によってヤンキー座りで下からねめあげる不良モードだ。
【【【あ゛ぁ゛ぁ゛?】】】
神としての品性を問われる威圧✕3に流石にたじろぐ半島人。とは言え、すかさず体勢を立て直して見下し直すところなんて中々の根性者じゃないか。・・・お近づきにはなりたくもないが。
草一本生えてないシリウスまでの道すがらいきなりのバトルに発展した事に、本来主役の筈の宇宙人は目を白黒させながらもボーっとしている。そんなんだから嫁に逃げられるんだよ・・・嫁どころか葛葉嬢たちからも逃げ回っている甲斐性無しの僕にとっては特大のブーメランだったな。
・・・オッサンハ100ポイントノダメージヲウケテシマッタ
【ウラァ、なめとんのか、ワレェ】
何メンチ切ってるんですか、ウーちゃん。久しぶりに見えたけど成長してねぇなぁ。
【供物も捧げない方に手を貸す必要性などありませんが?】
怒ってるんだろうけど揚げ足を取られそうな言動は慎んでね、お諏訪様。
【兄貴の許しも無しに封印なんざ絶対解かねぇぞ!】
何でそこで僕を引き合いに出すの、八幡様。小物臭がプンプンするんですけ怒!ドンと構えてくださいよドンと。
「兄貴って誰なんですか?辺境の神の家系図には私疎いんですけど」
【そんなな決まってるじゃねぇか!そこに【ダァフォ!何余所者の誘導尋問に引っ掛かっとんねん!ホンマ、最近アホがひどくなったんちゃうか?】
・・・ウーちゃん様、それはあんまりっス】
八幡様、今のはウーちゃんの方に軍配は上がるかと。最近小物感がマシマシになってるから信徒が減ってるかも知れませんよ?いい加減に脊髄反射で物を言うのは止めないといけませんよ。
何かが刺さったらしく、肩を落とし八幡様がすごすごと退場する。・・・脊髄反射がとどめだったのかな?
「それでは供物とやらを用意すれば私に掛かった呪いは解除されるのですね?」
ほぅら、案の定お諏訪様の失言に付け込んできたじゃない。お諏訪様に返事をさせちゃいけない!
「それは・・信仰を・捨てる・という・意味・・ですよね?」
「番頭さん、私は辺境の有象無象の亜神どもと交渉をしているんです。貴方の出る幕ではありません!」
そこまで言うか。とてもものを頼む態度じゃないだろう。
「僕は・あくまでも・信仰は・捨てずに・・『呪い』だけを・解除して・貰おうとか・・甘い事を・・考えているのかと・・聞いているんですよ。
貴女だって・聖職者の・はしくれ・なんでしょ?・・貴女の・信じている・神様は・・救って・くれなかったんですか?」
千里眼は口を一文字に結んで僕を睨みつける。だから僕は葛葉嬢に鍛えられてるから何も感じないんだって。
「・・・私は聖職者ではない」
「“世界救世教会”・所属の・“千里眼”の・異名を・持つ・・貴女が・聖職者・・じゃない?
エクソシストって・そんなに・・軽いもの・・なんですか?」
「私は神に祈って能力を授かっただけの一般人でしかありません。その力を神の為に使っていただけです」
綺麗事で纏めてくれちゃって笑わせてくれますね。仕事を取るためにどれだけあくどい事しているか知らないとでも思っているですかね。今それを言い出せばキリが無いか。
「その・力を・くれた・・神に・・復活を・願わなかった・・んですか?」
「・・・奇跡は一度しかないから・・・奇跡・・・なのです」
願いはかなえられなかったって事か・・・
「だから・八幡様や・お諏訪様に・・責任を・取れろ?」
「今も霊障に苦しむ人たちがいるのです。それを救う事が出来ない今の私には、それを求める権利があります」
その能力使って今まで人を貶める事しかしてこなかったのにかい?知らないとでも思ってるのかい?盗人猛々しいとはこの事かね。
「なぜ・そういう事に・なったのかは・・考えないん・ですか?」
「さっきも言ったように私は貴方たち“同盟”に嵌められたのです。私は無実です!」
顕現する八百万三人衆の圧が強くなる(八幡様何もなかったかの如く復活)。これだけ責任転嫁と自己肯定をされると堪忍袋の緒が切れるとか言わないでね。
【あの時、その場に気配がしてへんかったから己らと“光の会”やらあのけったくそ悪い政治屋やらが密談しよった内容をワテらが把握してへんかったとか思うてへんやろうな。
己もその場に居よったはな】
・・・既にウーちゃんキレてます。脇の助さん格さん引き連れて水戸黄門の世直しでもおっぱじまりそうな気配さえするんだけど。そうなるとさしずめ僕はうっかり八兵衛ってトコか。弥七をやるにはウエストが・・・
「何を証拠にそんな虚言を弄するんですか?だったらその証拠を見せて頂きませんと私も承服できません。
その時は提訴いたしますが覚悟はおありなんですね」
返す千里眼はもろ悪代官。これもまぁ面白い見世物ちゃあ見世物だから放っておきたいけど、そろそろ話し纏めないとウーちゃんたちの時間切れになっちまう。何もないトコで顕現すると時間制限が厳しいからな。
「あくまでも・嵌めたと・言うんなら・・僕も・貴女を・名誉棄損で・提訴・しなければ・・なりませんね。貴方たちの・せいで・生命の危機に・・瀕した訳・ですから・その権利は・あるでしょう。
それより・不毛な会話は・・この辺りで・終わりに・・しませんか。
自分の・信じている・神様が・・救って・くれないから・・と言って、自分たちの・不実から・目を・背けて・罰を・下してくれた・他所の・神様に・原状復帰を・強要する・・なんて・ふざけた話は・正気の沙汰・じゃ・ありませんよ。
取りあえず・・僕が・間に立ちます。
勝手に・直に・・答えを・返させると・取り返しの・つかない事に・・なりそう・ですからね」
ぶっちゃけ助ける気はないけどね。お諏訪様へ無礼が無い様に間に入っただけだからね。頭の回転がいい彼女なら言外の意味を感知できるはずだ。エクソシストとして『呪い』とまで言った事が異教の神との交渉で良手と言えたのかどうか。
正直頭ごなしに要求した事は悪手としか思えない。ただ彼女の“教会”での立場を考えれば神道系に下手に出たなどという事は許されはしないだろう。・・・となると教会から出されたってぇのはウソか?
「マナミたんを隠しちゃったのはどの神様なんすか?」
流れをぶった切る宇宙人にとっては根本的かつ本質的な質問がこのタイミングで出る・・・出すのかお前は!
次回より月水金のAM10時更新にさせて頂きます
拙い文章ですが皆さんの暇つぶしにでもなれば幸いです




