第82話 武神、狐の神様に恫喝される
「千里眼さん・・お引き取りを」
千里眼が、まるで驚いたかのように切れ長の目をくわっと開いて僕を睨みつける。おーっ血走ってるねぇ。そんな顔したって怖か無いよ、葛葉嬢で毎日鍛えられてんだよこっちは。
「えっ、なぜ?」
どうせ碌な事考えてないんだろうから速攻お帰りコースにしちゃいましょう。
「今・ここに・・八幡様や・お諏訪様が・いらっしゃってて・コイツは・・反省する・どころか・・自分たちを・悪者にして・・吹聴している・って・・カンカン・・なんだけど・なんか・・言い訳・します?」
多少膨らましてますがこのくらい我慢してくださいね、お諏訪様。
【いえいえ、我らの代弁をして貰えて助かりますよ。
流石は稲荷神さま以下我ら八百万の神々は言うに及ばず、果ては玉藻の前さんまでも手のひらで転がす“神転がしの達人”、痒いところまで手が届く的確な表現で何も言う事はありませんよ】
・・・お諏訪様・・・いくら持ち上げても夕飯のメニューは変わりませんからね?
【えっ、せめて、せめて納豆だけでも足しては戴けないだろうか。アレを食さぬと力が漲らないのだが・・・】
僕が嫌いだから却下します。
がっくりと両手をついて項垂れるお諏訪様を見ながら、八幡様が顔を引き攣らせてるね。そんなに怯える事でも無いでしょ?食べたかったら自分の神域に戻ればいくらでも食べられるでしょうに。あっ今度お参りに行った時にもし納豆臭かったら、そのまま帰りますんで悪しからず。
お二方とも、そんなに涙を迸らせながら大仰に首を振って許しを請うような小芝居はしないでください。それじゃまるで僕が悪者みたいじゃないですか。
「・・・オホン」
あっ千里眼の事を忘れてたよ。
「そこに何かがいるんですか?」
「だから・さっき・言っていた・・八幡様と・お諏訪様が・道端で・・こっちの・出方を・窺って・いらっしゃるん・・ですよ」
千里眼は、さっきまで好き放題言っていた口を窄めて黙り込む。もう遅いっちゅーに。
「私を試しているんですか?」
「僕が・ウソを・・言っている・とでも?」
「い、いえそんな事は。ただまだ店には届いていないもので」
「僕には・八幡様と・お諏訪様しか・・見えませんけど・もしかしたら・お稲荷様も・その辺に・・いるかも・・知れませんよ」
【お稲荷様もいらっしゃるとなんで言えんのや!】
あっやっぱりいたか、元あるじめ。
「だって見えもしないのにいるって断定するのはおかしいでしょ?使徒じゃもう無いんだから見えなくても変じゃないし」
っつうか使徒から脱したおかげで一番縁が遠い存在になってる筈なんですけど?と思っていたら八百万三人衆顕現でーす。
白狐の上に胡坐をかき上から千里眼を見下ろすウーちゃんと先程から僕に見えていたままの姿で現れる八幡様とお諏訪様。
【くっ相変わらず口の減らん奴っちゃ。
そんなんやあらへんかったわ、おい“千里眼”よ。己はどの面下げてワテらのトコに来たんや?
返答次第によっちゃ無事ではすまさんかも知れへんで】
どこの反社かよ、庶民派の神様はホントガラが悪いねぇ。それにウーちゃんのトコに来たとは限んないだろ?
【おい、タマちゃんの旦那さん。使徒から外れてワテが心を読めへんようになったから言うて舐めたらあかへんで。自分の心の色ぐらいならまだワテにも分かるんや。
今、悪口腹ん中で言いよったやろ。図星やろ?】
誰かこの考えなしに何でも垂れ流すおばはんを止めてくれませんかね。話が進まないじゃないの。
【うっウーちゃん様、ここは静かになされてはいかがでしょうか】
【タケ坊、己はワテになんぞ意見するとでも言うんか?】
うっわぁ、もの凄い圧でウーちゃんがお諏訪様を威圧してるのがよく解るよ。ほら神道に全然関係の無い千里眼までがプルプルしてる。・・・僕自身は葛葉嬢で慣れてるせいか普通に自然体だけど。
「ウーちゃん、こんなトコでお諏訪様に八つ当たりしたって品位を落とすだけですよ。
大体お諏訪様がおっしゃりたかったのは、先輩は高い所から睨みを利かせて若手のする事を見守って欲しいって事でしょ?
ここは度量を見せるいいチャンスじゃないですか」
【ちっ、しゃあないなぁ。ここはタマちゃんの旦那さんの言う事も一理あるか。
ほな、任せたる】
【【さっ流石は先生(兄貴)!見えなくてもアレを抑え込んだよ】】
なんで千5百年から2千年の長きにわたって日本を守ってきた神様たちから尊敬の眼で見られなきゃならないんだ、勘弁してくれよ。
【アレって何やねん!オドレら一遍シバいたろか?】
八幡様はともかく、お諏訪様はもう少し自重して貰えませんかね?ウーちゃんがめんどくさくて前に進まないんですけど。
【我ら色々と口が過ぎました。稲荷神さま、度々話の腰を折って誠にすいませんでした。
後で改めて謝罪はさせていただきます。取りあえずここは我らにお任せあれ】
【さよけ、んならここはタケ坊に任せたる。絶ッ対後でシメたるさかい覚えときぃや】
あーあ、改めてとか言うから言質取られちゃったじゃない、その辺りお諏訪様も世渡りが・・・ねぇ。誠実さが裏目に出てると言うか融通の利かなさで自分の首を絞めてると言うか・・・ブラック企業には絶対来ちゃいけないタイプの神様だよね。
それと比べて八幡様なんて見てよ、御指名が来なかった事を良い事にお気楽に両手を頭の後ろで組んで口笛とか吹いちゃってるし。貴方はお諏訪様のフォローをしなきゃならないでしょ?
【オレが下手に口を挟もうもんならこの辺の地形が変わる様な惨事になるのが解ってんのに手ェなんか出す訳無いじゃないすか。
オレは身の程を知る男なんすから】
・・・ある種、適材適所か・・・
「それでは稲荷神さまでもお諏訪様でも構いませんから、私の要望を実行して頂けますか?」
おい、それが神頼みをする態度か、千里眼よ。
この話はフィクションでーす
宗教関係の方は片目を閉じ残りの目を半眼にしてナナメにお読みください
バチに当たりたくないのでどうかよろしくお願いします