第80話 狸、鼬と美人に頼られる
「【教会】の・・イさん・じゃない・・・ですか。・・お久しぶり・・・ですね」
そう話しかけられると宇宙人に譲られた椅子に座り作り物めいた美貌を歪めて、イが頭を下げてくる。
彼女は、ちんちくりんからは“ソウル大卒整形不美人”と罵られているけど業界では“教会の千里眼”の二つ名を轟かす女性だ。ちなみに二つ名で言うなら僕は“シリウスの番頭”“神転がしの達人”“猛獣使い”、葛葉嬢は“圧壊の魔王”“アウトレンジの舞姫”“真の陰陽師(仮)”、カオルン少年は“蹂躙する拳王”“ソッコーの美少女”“シリウスの特攻隊長”、ちんちくりんは“同盟の裏番”改め“シリウスの裏番”“ロリ悪魔”“舌先の魔女”(二つ名なのに本名の他に其々三つもあるのはどういう意味なんだ?ちなみに有名な順です)という事でチームシリウスは少人数ながら二つ名持ちがずらりと並んだ武闘派と評判だったりする。まぁ、僕の場合はアンジェとピュアとディーテと言う眷属たちに助けられて何とか名前負けしないように頑張っているだけだけどね。
それはそうと、教会の“宇宙人”に“千里眼”がくっついてきてシリウスの“番頭”に会いに来るとか『マナミたん』が絡んでなかったら傍から見たらきな臭いもんだろうな。
「伊達くんの奥さん、伊達マナミさんは2週間ほど前に正確に言うなら15日前に置き手紙を残して失踪しています」
15日前なら半月前でも意味変わらないんじゃないのか?それに置手紙があって失踪なら神隠しとは言わんでしょ?
「もしかして・・その・置手紙・・が・怪しい・・・とか?」
「それは何とも・・・なんせ私は八幡神の怒りを買って能力を封じられた女ですし、伊達くん以上の術師がいない今の【教会】で彼の言葉を裏付けられる人間は皆無なので彼の言葉は鵜呑みするしかないのです」
千里眼が能力を失った原因には宇宙人も僕も係わりがあったんだけど、それは別として千里眼自身は宇宙人の主張を鵜呑みにしてる訳じゃないんだな。
「それじゃあ・・僕に・それを・・・鑑定・・でもしろと?」
「もちろんタダでとは申しません。私の全財産でよければすぐにでもご用意できますが」
「なぜ・・千里眼さんが?」
「無能力者として【教会】を放逐されてしまいました身ではありますが、私なりに古巣にはそれなりの思い入れや愛着と言う物があります。
伊達くんがマナミさんの事で動けなくなったとしたらあそこはすぐにでも活動停止に追い込まれる事でしょう。
伊達くんが動かなくなってかれこれ既に2週間ほど、それでなくてもここ2月程の伊達くんの霊能貢献率はその前からすると半減しているらしいのです。そろそろ依頼主たちも痺れを切らし始める頃でしょう。限界が来る前に彼に本気を出して貰う為にもご協力お願いできませんでしょうか」
「動機・としては・・何か・釈然と・・しないものが・あります・・が・それは、置いておくとして伊達くん、シリウスで君に一番近かったのは宇佐木くんじゃないかい?そっちに話を持っていく方が筋じゃないのかい?」
そう、宇宙人とちんちくりんは実は解散した【大日本調伏同盟】(通称:同盟)で同僚だった。その最後の仕事【クトゥルフの猫】(通称:猫)討伐にちょっかいを出して同盟と猫との闘いの見届けをしてくれる予定だった八幡様の祟りを受けて組織の幹部連中の能力を丸ごと封印されたのが【世界救世教会】(通称:教会)でそこのナンバー2だったのが千里眼のイだったと言う話になるんだけどこの人クビになってたんだ・・・それで手首の傷が腑に落ちたよ。えっ?神道の神にキリスト教徒を祟れるのかだって?ことこの国においてだったら神道の神の力がキリスト教徒に及ぼしてもおかしくないさ。結婚式とクリスマス以外で何か教会に縁があるかい?神社の方が教会よりはるかに多いんだし初詣から厄入り厄払い神式の結婚式やらなんやかやとこの国の中でだったら接する機会が多い即ちそれが力の差につながるんだ。明治時代に分けられるまで神仏は融合していたんだから浸透の度合いにキリスト教が勝てる訳も無い。
「だって裏番って僕の顔を見るたびに怒るんですよね。今度だってマナミたんがいなくなったからって仕事をさぼる言い訳にすんなって怒られたし」
なんだ、ちんちくりんに断られたから僕に縋りに来たのか・・・って事はシリウスじゃ請けちゃいけない案件って事なのか、これは。いやそうとは限らんだろう、確認がてらちょっと様子見するか。
「除霊ってのはメンタルが多大な影響を及ぼす行為だから宇佐木くんの意見は随分と横暴だな・・・もしその話が本当ならね。あんまりにもやる気が無いから発破を掛けようとか思ったんじゃないのかな?
それにもう一つ言っておきたい事がある・・・今の僕は無能力者みたいなものなんだよ」
切れ長の千里眼の眼と焦点のあっていない宇宙人の眼が同時に見開かれる。
「それはどういう意味なんですか?」
最低限の礼儀を纏ってはいるものの千里眼の眼には焦りと恐怖が溢れているな。
「僕は・・元々・稲荷神の・・使徒・・・だった。それが・・・ある事件の・さなかに・・免ぜられた・・ってだけの・事ですよ」
ただ元々霊感がある方だったから霊がいるかいないかとかぐらいなら今でも判別できるけどね。それにアンジェの捜査網やピュアの探知能力があれば大抵なものは把握できるからな。
「でももう番頭さん以外に伝手はもう無いんですが」
作り物の美貌で悲嘆に暮れられてもいまいちピンときませんね。要領が悪い宇宙人との会話だと全然前に進まないから間に入ってくれるのは助かるんだけど、この人が入って来ると僕と教会の間に密約でもあるのかとか疑われちゃうでしょ?とにかく、ここは取りあえず外に出た方がいいかな。
だって周りの眼が物凄く冷たいんだもん。美人を泣かせるきったねぇちびデブ禿が絶対悪者なんだよね。陰謀好きの禿が他所のおねぇちゃんを泣かせているとか思ってるでしょ?ほんとに葛葉嬢と人化したアンジェに両腕を抱えられて宙ぶらりんのまま街中でWデートをやらされた時以上の痛さだよ、全く。
「伊達くん、取りあえず・・外に・出ましょうか」
ここから歩いて10分の喫茶シリウスへ河岸を替える事にしてお隣さんの喫茶店を出る事にする。ここから暫く草木も生えない荒れ地を通って行くんだけど宇宙人は体力大丈夫かな?・・・あれっなんで千里眼が付いてくるんだろ?