おれの母ちゃん53歳 その2
歳を取っていても、こんなお母さん、好きです。(個人的意見)
次の日、学校から帰って、おれはゆううつな気持ちで玄関を出た。
母ちゃんが、くつをはきながら、しんみり言った。
「かつじ。お母さん、かつじの気持ち、すごくわかるよ。お母さんもおばあちゃんが遅く産んだ子だったでしょう。若いお母さんにあこがれていたもの」
おれは、泣きそうになって、それを隠すように笑って言った。
「さぁ、どの家から回るの?」
「まずは、隣町からだよ」
『隣町か……』
隣町に住んでいるひとしや、学級委員の宮西さゆりの顔が浮かんだ。
ばちっ。
おれは、顔を両手でたたいて二人の顔を無理やり打ち消した。
母ちゃんは、隣町につくと、まず花たちがきれいに咲いている家を訪問した。
「こんにちは~!!山野辺しんぶんで~す!!」
人のよさそうな、小太りの八十歳くらいのおばあちゃんが出てきて、言った。
「あら、川野さん。待っていたのよ。はい、お金。お茶、飲んでいってよ」
「嬉しいです。でも、今日はちょっと連れがいるもので」
「え?連れ?」
おれは、仕方なしに玄関のドアから見えるところに立って、
「こんにちは」とあいさつした。
「おまごさん?」と言われるのではないかと、びくびくした。
が、予想に反して
「まぁ、さすが川野さんの息子さんだわ!あいさつがきちんとできるのね。感心だわ。川野さんから、ときどき話を聞いていたのよ」
という答えが返ってきた。
そのおばあちゃんは、おれに無理やり缶ジュースを握らせて、笑った。
「お母さんには、本当にお世話になったの。私が急に胸が苦しくなって具合が悪くなった時、病院まで連れていってくれたのよ」
次の家の人には、お饅頭をもらって、こう言われた。
「お母さんって親切な方なのよ。私、コンタクトを玄関で落としちゃったのね。それを一緒に探してくれたの」
次の家の人には、アイスをもらって、こう言われた。
「お母さんって優しい方なのよ。側溝に落ちた我が家のワンちゃんを助けてくれたんだから!」
本当にたくさんの人が母ちゃんにお世話になったと話してくれた。
そうでない人からは、「お母さんの笑顔が良い」だの「お金を出すのがおくれても、嫌な顔をせず、何度もたずねてくれる」だの色々褒められた。
そして、息子のおれにもすごく優しい。
「母ちゃん、この町の人全員に何かしてあげるいきおいだな」
おれはそんな冗談を言えるほど、何だか嬉しくなっていた。
母ちゃんは、「大したことはしていないんだけどね」と笑った。
そうだ。
おれの母ちゃんは、面倒見がよくて、親切で、誰に対しても優しいんだ。
それなのに……
「母ちゃん、ごめ……」
「かっちゃん!」
おれは、その声に一瞬心臓が凍った。
おそるおそる振り向くと、そこにひとしがいた。
さっきまでの嬉しかった気持ちが急にしぼんだ。