1/3
プロローグ
あの日は夜とは思えないぐらいの
明るさだった
街灯は一つもなく
音も無く人も…いなかった
あるのは月と銀色に光っていた二人と
銀色の船のような車だった
空に半分より少し膨らみかけた月がかかっていた
暗がりの中夏に咲く夾竹桃の赤い花が
美しく浮かび上がる中
二人は寄り添うように
銀色に光る車に乗り込んでいた
それは雨に濡れた路をすべるようにして
闇のほうへととけていった
まるで月夜に海を行く
美しい硝子の船のように
静かに音を立てずに
消えていった
もう帰ってこないような気がした
二度と私に逢いに来てくれないような
最後に
私の心の中に
永遠に結ばれることは無いかのような
哀しい初めての恋心だけを残して……