009 審査
練習場へ到着すると、オッサンが1人と先程の受付をした女性が立っていた。
見学者とか練習場を使用している人は居ない。
「兄ちゃんが審査を受けるのか?」
「え~と、はい、そうです」
「そうか。で、後ろの御仁は?」
「私は主殿の執事で御座います。私は登録をしないので、審査は必要ありません」
「そうか。じゃあまず自己紹介だな。
俺の名はジョイ。ここの試験官と教官をやっている」
「自分は、えっとリョウスケです」
フルネームを言う所だった。
多分だけど、名字は言わない方が良さそう。
ラノベでは名字は貴族が持つ物的な事になってるからね。
ま、聞かれたら言うとしよう。
「リョウスケね。年は?」
「29歳です」
「ふ~ん。若く見えるな。ラビューの見立ては間違ってなかったって事か」
「当然です」
女性はラビューさんね。
「年齢に何か関係が?」
「いや、15歳から登録出来るんだが、年齢によって審査の内容が変わるんだよ」
「そうなんですか? それは何故か聞いても?」
「おう。理由は簡単。年行ってから登録するヤツは弱い理由が無いからな」
どういう事?
あっ、判った。ある程度の年齢になって登録するのは、他の仕事をしてたからって感じか?
他の仕事をしてて、その後ここに登録するなら基礎くらいは出来てるだろって事ね。
で、それくらい出来るのかを調べるって事か。
「若いと審査は簡単なんですか?」
「いや、簡単って訳じゃないぞ。若くても魔法の才能があれば活躍出来るからな。
ただ若いと審査が長いだけだ。色々調べたいからな」
魔法職か剣士か、そういうのを調べるって事ね。
若ければ、色々と技術を覚えている人は少ないだろうし。
「それでお前さんは魔法使いだよな?」
「あっ、はい。そうですね」
「なるほど。じゃあまずはあそこにある石で出来た人形を攻撃してもらおうか。
攻撃くらい出来るよな? 回復系じゃないよな?」
「はい、大丈夫です」
そうか。魔法使いでも回復系と戦闘系に分かれるもんだ。
回復系の人が単独で登録には来にくいだろう。
って、俺は単独じゃないけど。
「じゃあいつでも良いぞ。好きな時にやってくれ。
ただしあまり時間を掛けるようだと減点対象になるからな」
「了解です」
教官とラビューさんは離れた場所に移動した。
では早速やってみようか。
俺は手持ちのカードからグラシアを呼び出す。
グラシアの能力はこれ。
姿:グラシア→翼の生えたマルチーズ。
能力:グラシア→暗殺術の使い手、自身を不可視にする。
マルチーズならそこまで驚かれないだろう?
能力はちょっとヤバめだけどさ。
「あるじー! 召喚されましたー!」
「来てくれてありがとう。早速だけど、あの石人形を攻撃してくれないかな?
あっ、ほどほどにね? ほどほどだよ?」
「りょーかいですー!」
マルチーズ、いや、グラシアは空中を走っていった……って空中?!
普通に走れよ! ほら、教官の顎が外れそうなくらい驚いてるだろ?
到達した瞬間、石人形の首がゴロンと落ちた……。
はい、やりすぎーっ!
だが、嬉しそうに戻ってきたグラシアは、褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾を振っている。
くっ! 可愛いじゃないか!
「よ、よくやったな~」
「でしょー! でしょー!」
頭を撫ぜ回す。
良い毛並みじゃないか。モフモフです。
「でもな、ちょーとやりすぎかなーって思うんだけど?」
「そうー? 本来なら手足を切り落としてから頭だから、抑えた方なんだけどー?」
残虐です。さすが悪魔。凶悪です。
動けなくしてから殺すって、暗殺術ってのは伊達じゃないね。
「そ、そうなのか……」
「うん! そうだよ!」
ま、まぁ、良しとしよう!
うん、火の玉を魔法でぶつけるのだって、ヒドい事だもんね!
「ジョイ教官、終わりましたけど?」
「お、お、おま、おま、お前、今のは何だ?!」
「え~と、魔法です」
「物理じゃねぇか!!」
「魔法で呼び出した生物なので、魔法です」
「魔法で呼び出した?! って事はお前は召喚士か?!」
「あっ、そういうのもあるんですね。じゃあ、それです」
「マジか?! ほとんど居ない職だぞ?!」
「そうなんですか?」
「そうだ。なんせ召喚したい魔物を瀕死まで追い込んで、更にそこから契約させなきゃいけないだろうが!
それが出来る者が少なくて、今ではかなり数が減っている」
へ~、この世界の召喚士ってそうやって契約するんだね。
いや、他の世界の召喚士も知らないけどさ。
ラノベじゃあ結構簡単に契約してたと思う。飯で釣ったりさ。
「……そうなると、お前自身も相当な使い手だな」
「え~~~~と、そういう事になりますか?」
「当たり前だろ。次はじゃあ俺が相手する。ちーと本気だすからな。
おっと、その従魔は使うなよ?」
「は、はい。本気ですか? そう言いつつも手加減してくれますよね?」
「する訳ないだろ! その従魔に勝てる気がしないのに、それを従えたヤツに手加減して戦える訳がねぇ!」
「え~~~……」
やっぱりグラシアにはもっと手加減させるべきだった。