006 アンドロマリウス
キッチンでは人目につく可能性があるので、鍋を持って最初の部屋に戻った。
「あっ、そうだ。呼ぶ前に聞いておくけど、サイズってどうなの?」
ザガンは翼を持った牛って書いてあるし、ベリトは赤い馬に乗る赤い鎧を着た兵士だ。
この3畳ほどの部屋で呼び出せるのか?
「確かに双方とも大きいナ。この部屋で呼べばギュウギュウになるだろウ。牛だけニ」
「シャレは言わなくて良い!」
やっぱデカいのか。どうしようかな……。一人づつ呼べば良いかな?
それでも窮屈か。
馬に乗って出てきたら、天井に頭を打ちそうだ。
「それなら、部分召喚をすればいイ」
「部分召喚?」
「体の一部だけを召喚するのダ。勿論これも召喚扱いになるので、使用扱いになるがナ」
「それは大丈夫。ポンポンと呼ぶ事は無い……と思うから」
「ならば部分召喚が良いだろウ」
「どうやってするの?」
「やってもらいたい事を考えると同時に部分召喚と考えればOKダ」
ふむふむなるほど。
では早速。
部分召喚ってこんな感じなのか……。
カードが形を変えるのではなく、カードから人間の腕や牛の足が出てくるとは。
ベリトのカードから出てきた腕から光が放たれると、鍋はドロドロに溶けて金の板に変化した。
その後、牛の足から光が放たれ金貨に変化。
数えると32枚。めちゃ金持ちです。
金貨をインベントリに入れて、準備完了。
身分証を作りに行きましょうか!
「我はどうすル?」
「連れて出たいけど……そんな格好のモンスターっていうか動物って居る?」
「居ないナ」
「じゃあ連れて出たら……」
「大騒ぎだろうナ」
「マジか……この先も助言がもらいたかったんだが。
後、知らない土地だから、護衛も頼みたかったんだが」
「もうすぐ3時間になるから、自動的に送還されるゾ。
しかし、ふム……ならば侯爵・伯爵・騎士から誰かを呼べば良いだろウ。
侯爵なら12時間、伯爵や騎士なら24時間は一緒に居る事が出来るからナ」
「なるほど! オススメは?」
「そうだナ……サクスかアンドロマリウスが良いだろウ」
サクスね……あったあった。
姿は鳩か。これなら肩に乗せていても問題無さそうだ。
能力は、って、げっ……「視覚・聴覚・嗅覚等の五感を奪う」?! 怖い!!
保留保留。
アンドロマリウスは、と。
能力はバッチリだね。「盗人と盗品を奪い返す、裏取引や企みを看破」だから初めての交渉にはもってこいだ。
ただしな~、姿がな~。「大蛇を纏った人間(男)」って何?
服の代わりに大蛇を纏ってるのか?
う~ん、悩んだけどまずはアンドロマリウスを呼んでみよう。
で、大蛇がどうにか出来るんだったらそのままで。
どうにもならないのなら、送還してサクスを呼ぼう。
ちょっと無駄遣いみたいになるけど、しょうがない。
では、アンドロマリウス召喚!
「お呼び頂き、ありがとうございます、主殿」
「おおっ! ちゃんと服を着ている!」
「は? それは当たり前だと思いますが?」
「いや、説明に大蛇を纏ってるって書いてあったから、裸に大蛇なのかと思ってね。
で、大蛇ってそれ?」
「はい。その通りでございます」
大蛇。確かにデカい。何故かアンドロマリウスの後ろに隠れて、こちらをチラチラと見てるけど。
長さはそんなになく、3mくらいかな? だが太い。電柱並か?
「なんで隠れてるのかな?」
「恥ずかしいそうでございます」
「恥ずかしい?! 何で?!」
「シャイなものですから」
「シャイ! 大蛇がシャイ!!」
「はっ、すみません……」
「いや、謝らなくても良いんだよ。
ところで、これから街中に行く予定なんだけど……その大蛇さんはどうにかならないかな?
ほら、連れてると絶対に騒ぎになると思うんだ。
ああっ! 別に大蛇さんが悪いんじゃないんだよ?!」
大蛇が分かるくらいに落ち込んだ。
めちゃくちゃシュンとしている。俺が悪いんじゃないけど、凄い罪悪感だ。
どうしよう?
「大丈夫でございます。大蛇は小さくなる事も可能でございます」
そう言って手を振った瞬間、大蛇はヒモみたいになりアンドロマリウスのポケットに入っていった。
そして、首だけ出してこっちを見ている。
こうなると、ちょっと可愛いな。
「じゃあ同伴をお願いするね。……質問良いかな?」
「はい、何なりと」
「何で燕尾服っぽい格好なの?」
「これは執事でございます」
「執事……何故?」
「主殿にお会いするのに失礼な姿ではいけませんゆえ」
「そ、そうなんだ」
アンドロマリウスの考える失礼な姿じゃない格好って執事なんだ。
まぁビシっとしてるし、髪型もオールバック。角のメガネかモノクルがあれば完璧だけど、似合ってるわ。
「じゃあよろしく」
「畏まりました」
「では我は戻るゾ」
「おっとそうだった。ありがとうなイポス」
イポスはカードに戻った。
これで準備は万端! いざ最初の街へゴー!