049 下降
シトリをカードに戻すという作業があったものの、順調に模擬戦の準備は整っていった。
実は俺も、魔法カードには興味がある。
『下降』の能力『敵の攻撃力・行動力が戦闘が終了するまで下がる』が曖昧だからだ。
下がると言われてもどの程度なのか。
動けなくなる程なのか、ほんのちょっぴりなのか。
これを知る事で『上昇』の能力も、どれくらいのものなのか判るんじゃないかな?
俺が持たされた旗は長さ50cmくらい。
何だろう、子供が横断歩道を渡る時に持つ黄色い旗みたいで、ちょっと恥ずかしい。
俺から離れる事2m先に、アイザックさんが居る。
それから15mくらい先に模擬戦の相手の近衛兵3人。
両者とも武器は剣。
刃が潰してある、練習用の剣なんだってさ。
そして、俺の後ろにアンドロマリウス。
俺にカードを使うタイミングを言う為に居るんだよね?
相手を威圧する為に居るんじゃないよね?
「双方、準備は良いか?」
宰相さんが、審判をするみたいだね。
「それでは、始め!」
始まった。
早速近衛兵達がこちらに向かって走ってくる。
「主殿、早速お使いください」
「わ、判った」
俺はカードを指輪に触れたまま、使用する事を考える。
これで良いのかな? 一応、判りやすくする為に、声も出しておくか。
「下降!」
使った途端、3人の近衛兵の速度が鈍った。
先程までの速度は無く、歩いているような感じ。
それを見て、アイザックさんが動いた。
3人の内の、真ん中の人に切りかかっていく。
近衛兵は受けようと剣を動かすが、重たい剣に見えるくらいのスローな動きで防ごうとしている。
結局スロー過ぎるので、斬る場所を変更されてしまい、敢え無く攻撃された。
返す刀で隣の近衛兵も斬る。
そして残った1人も斬撃に沈んだ。
圧勝でしたね。
「それまで!」
勝負ありと判定された。
アイザックさんの勝利。
終了の合図と共に、魔法の効果も切れたようだ。
近衛兵3人とも立ち上がって、王様の元へ行き跪いた。
「ご苦労であった。して、どうだった?」
「はっ、聖人様の声が聞こえると、体が重くなりました。
突然重たい荷物を持たされたようでした。手にしていた剣も重くなり、いつものように使う事が出来ませんでした」
へ~。そんな感じになるんだ。
なら『上昇』の場合は、体が軽く感じるのかな?
武器も重さを感じなるくなるとか?
俺的な考えだと、筋力が低下したんじゃないかと思うな。
全身の筋力が低下すれば、移動が遅くなるのも武器が重く感じるのも理解出来る。
同じ10kgの物を剣を持っても、筋力がある人の方が扱いが上手いだろう。
魔法の仕組み?
そんなんは知らん。
神様のした事だ、理解出来ないだろ。
そもそも、この世界の魔法をよく知らないのに。
折角魔法が得意って言う姫様が同行するんだから、今度詳しく聞いてみようとは思っている。
これを利用して筋力アップは出来ないと思う。
普通は負荷掛けた状態で運動すれば、筋力アップになるんだけどねぇ。
ほら、低酸素運動とか聞くじゃない? あんな感じには使えないだろうなって事。
「“聖人様”の一言だけで、複数人の行動力が低下するとは……。
これがもし戦争なら、これだけで勝てるな」
「確かに仰る通りです」
王様と宰相さんが話し合ってる。
実力を見せるって話だったんだけど、違う方向に話が進んでる気がする。
「……ふう。本来ならここまでの能力を持った者を、自由にさせるべきでは無いだろうが。
だが、我が国は“聖人様”の自由を保証する!
しかしながら、お願いが2つ程あるのだが、宜しいか?」
「あ、はい。どうぞ」
「一つは、我が国に何か有った場合、力を貸して欲しい」
「それは勿論ですよ。お世話になってますし」
ここまで関わった人達を見捨てるような事は無いよ。
俺の力、いや、悪魔の力でどうにかなる事なら、いくらでも協力しますって。
「もう一つは、戦争の事だ。
万が一、他国と戦争になった場合、いかなる理由があろうとも我が国を攻めないで欲しい」
「攻めないですよ! って、いかなる理由って何です?」
「例えば、我が国のバカが“聖人様”の知り合いに粗相をしたとか。
我が国以上に他国に優遇され、その国に我が国を攻めるようにお願いされたとか」
前者は中央から離れるほどあり得そうな話だ。
いや、中央でもあるかな? 「平民が王族と馴れ馴れしいとは! 金や身分目当てか!」とか言われたり。
だからと言って国を攻め滅ぼそうとは考えないけどさ。
そんな時は、王様に直接伝えてそのバカを処罰してもらうさ。
後者はラノベの主人公ならやりそう。
特に召喚されてハニートラップに引っかかる高校生男子。
「そもそもですね、戦争とか嫌いですから。
どこも攻めませんし、滅ぼしませんよ。何かあれば相談しますって」
「助かる。帯同する息子に何でも相談してくれ。
娘には……あまり相談しなくても良いからな? ん? サイファ、どうした?」
「ななななななななな、何でもありません!!」
「そ、そうか……?」
姫様はまだ怯えてた。
シトリ、何を話したんだよ? 腐った話じゃなかったのか?!