048 教育
バリアを披露する為に、全員でゾロゾロと移動中。
それを護衛する近衛兵も付いて来てる為、大名行列にたいになってる。
長い道中を進んで到着した場所は、城の端の辺りで土が露出している所。
周りには兵士が居るので、多分だけど練兵場じゃないかな?
俺はこっそりとアンドロマリウスに聞く。
「カードの説明にさ、『敵の攻撃を1度だけどんな攻撃でも跳ね返す』と書いてあるけど、俺限定なの?」
「指定が無いので、誰に使っても大丈夫かと。
軍団を『主殿の軍団』と認識すれば、軍団にでも作用すると思われます」
つまりラノベとかである、メテオフォール(隕石を落とすアレ)のような大多数を同時に殺す魔法を軍団が食らっても無事と。
そりゃ有能だ。
問題点もあるけどね。
そういう魔法を想定してバリアを張っても、魔法を食らう前に投石でもされたら、それを防いで終了になってしまう。
詳しく説明しない方が良さそうだね。俺の安全の為に。
って考えてたら、バリアの説明を求める声が上がった。
声の主は姫様か。でも全員が聞きたいみたいだ。
う~ん、どういう風に説明するのが一番かなぁ?
……俺の頭じゃ解決出来ない問題だな。うん、素直にアンドロマリウスに説明をお願いしよう。
「アンドロマリウス、説明してあげて(俺の不利になるから詳しく言わないように)」
「(お任せください)」
こそっと言ったが、すぐに理解してくれた。
悪魔、マジ優秀。
「バリアはどんな攻撃でも跳ね返す能力があります。
範囲は個人、もしくは主殿の配下、おっと失礼しました、下僕…………仲間にまで波及します」
どんな言い間違いだよ!
しかも訂正した後の方が酷くなってるぞ!
俺が睨んで、やっと『仲間』と言い直したけど。
しかし、そんな事は誰も気にならないようだ。
それよりも効果に興味持っちゃってるみたい。
どんな攻撃でも跳ね返すとなれば、無敵だからね。1回だけだけど。
ん? 待てよ? 跳ね返す? 防ぐじゃなくて?
剣で切られた時は弾いただけだったけど、魔法ならどうなる?
その魔法が発動した者に向かっていくのか?
えっ? 実験するの、ヤバくない?!
「ちょ、ちょっと良いかな?!」
「どうしました、主殿?」
「跳ね返すって、魔法なら打った本人に跳ね返るのか?!」
「はい、そうなりますね」
「だそうですよ! ヤバいと思います! 止めましょう!」
ヤバさに全員が気づいたようだ。
唸っている。だって、誰も反撃は喰らいたくないもんね。
そして、それを判っているから王様達も命令出来ない。
「むむむ……他のカードを使ってもらうのはどうだろうか?
やはり“聖人様”の魔法は知っておきたいのだが……どうだろう?」
う~む。安全そうなのが良いけど。
そもそも、安全な魔法ってなんだよ。
いわゆる生活魔法か? でもそんなカード無いんだよなぁ。
だって、バトルするカードゲームなんだもん。
そんなカードの中に「食事を美味しくする」なんて能力が有っても意味無い。
「じゃあ『上昇』か『下降』を使いましょう。
これなら味方や敵の能力を変える物なので、比較的安全かと」
「詳しく聞いても良いかな?」
「はい。えっと『上昇』は『呼び出している悪魔と、自分に触れている味方全員の攻撃力が戦闘が終了するまで上がる』です。
『下降』は『敵の攻撃力・行動力が戦闘が終了するまで下がる』です。
これらなら訓練でも大丈夫じゃないですか?」
「ふむ、確かに」
「じゃあ~、私やアンドロマリウスが戦闘するのね~」
いやいや、何言ってんだ。
確かに悪魔の攻撃力が上がるってなってるけどさ。
お前達、元々強いじゃないか。ん? 強いのか?
「二人共、強さってどれくらいなの?」
「私は伯爵クラスですので、そこまで強くはありません。申し訳ございません」
「私は~、大公クラスなので~、結構強いですよ~」
「う~んと、基準が判らないんだけど。なんか判りやすく例えてくれないか?」
「私の強さでは、この城の者を殲滅するのに1分はかかってしまいます」
「私なら~、10秒くらいかな~」
アホか。最強かよ。
どちらにせよ、殲滅出来るんじゃないか。
見てみろよ周りの兵士や近衛兵を。ガクブルしてるじゃないか。
しかもその強さを上昇させる?
地獄絵図かな?
「……『下降』にしましょうか!」
「……そうだな。そうしてくれるとありがたい」
使うカードは『下降』に決定! 悪魔は参加不可!
戦闘するのはアイザックさんと決まった。
相手は同じ近衛兵。アイザックさんよりも強い人らしい人が3人。
俺は旗を持って、アイザックさんの後ろで座っている。
俺の旗を奪われれば、こちらの負け。アイザックさんが相手を全員倒せばこちらの勝ち。
俺は戦闘に参加しない。無理だし。
俺には攻撃はしてはダメって決まった。
その場合、悪魔が参戦してくるからだ。
蚊が刺す程の攻撃でも、許せないらしい。
俺に攻撃すれば、国が滅びる。
そんなの、訓練でもイヤだわ。俺が近衛兵なら絶対に参加したくない。
3名とも泣きそうな顔してる。うちの悪魔がスミマセン……。
「あの~。その前に良いですか~?」
「ん? どうしたシトリ」
「もうそろそろ時間なんですよ~」
「あっ、そうか」
シトリは大公クラス。召喚時間は3時間だ。
もうそんなに経ったか。
「戻る前に~、ちょっと用事があるんですよ~」
「用事?」
「ええ~。そこのお姫様に用事があるんです~」
「危害を加えるとかじゃないよな?」
「そんな事しませんよ~」
「……陛下、どうでしょうか? 許可もらえます?」
「うむ。許可しよう」
許可されたら、シトリは姫様を連れて練兵場の隅まで移動した。
どうやら内緒話らしい。
女同士の会話なのかな?
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シトリ「貴方、あるじさまを利用しようと考えてますね~」
サイファ「そんな事、考えて無いですよ?」
シトリ「悪魔を誤魔化せると思わない事ですね~。特にあるじさまに関係する事には敏感なんですよ~」
サイファ「……。もしそうだとして、どうするって? この国でも滅ぼすのかな?」
シトリ「そんな事したら、あるじさまに怒られます~。それに、そんな生ぬるい事はしませんよ~。
そうですね~、こうしましょう~。カードに封印されていても、ある程度は能力を使えるんですよ~。
能力で、毎日夢を見るようにしましょう~。悪魔の見せる夢ですから、悪夢ってやつですね~。
すぐに寝る事が怖くなるでしょうね~。そして夜が来る事に恐怖するようになる……。
寝る事が出来ない人間がどうなるか知っているか、愚かな女よ。
憔悴して、頬は痩け、髪も抜け落ち、物も食えなくなる。最後には死を乞うようになるだろう。
だが、誰もお前を殺さない。死にそうになれば回復させてやる。死んで楽になんかさせない。
生き地獄ってやつだ。
どんな夢が待っているのだろうな? 腹を動物に食い破られる夢かな? 高所から落ちる夢? 溺れる夢?
民衆全員から石を投げられる夢? 生き埋めになる夢? 生きたまま焼かれる夢?」
サイファ「…………?!」
シトリ「理解したか、愚かな女よ。
さっ、私の話はこれで終わり。じゃあ戻りましょうか~」
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「戻りました~」
「お前、何話した? 姫様がガクブルしてんだけど? 顔色も青白いぞ?」
「王太子とアイザック君、どっちが受けでどっちが攻めなのかって話を~」
「帰還しろ!」
速攻でカードに戻してやったわ。
なんちゅう話を聞かしてるんだ、腐った悪魔め!