040 褒美
アンドロマリウスが素早く書いた紙と共に、犯人らしい2人は連れて行かれた。
他にも仲介した者とか共犯者が居るっぽいけど、それらは呼ばなくて良いらしい。
どうも尋問して真偽を調べ、供述を元に逮捕するみたいだ。
とりあえず主犯格が逮捕出来れば良いんだろう。
ところでアンドロマリウス、どこから紙とペンを取り出した?
まぁ、いくら目の前で悪魔の力を見たからって、簡単には信用出来ないだろうね。
悪魔が近くに居る事で安心した俺は、改めて周囲を見回して見る。
スーツっぽい格好の人達は、顔色の悪い人が多い。
やはり悪魔が怖いのだろう。
って、思ってたら王様からの一言で違うという事に気づいた。
「他にも顔色の悪い者が居るが……まあ良い。あえて罪を追求はせずにおいてやろう」
顔色の悪い人達は、アンドロマリウスに悪巧みや過去の罪を暴かれるのを恐れてるみたいだ。
おいおい、半分くらい居るぞ? この国大丈夫か?
まぁ、中には本当に悪魔が怖いだけの人も居るかもしれないけど。
あっ、でも、過去の全ての罪をバラされるって事なら、俺もビビるかもしれない。
だってさ、誰も生まれてから今までで何の罪も無い人なんか居ないでしょ。
例えば、立ちションしたとか、親にウソ言って遊びに行ったとか。
もう時効でしょって事まで詳細にバラされるとなれば、嫌だ。恥ずかしい。
しかもそれが、放課後に好きな女の子の笛を咥えたとか、その手の罪だったら死にたくなるだろう。
「“聖人様”の力と、呼び出した悪魔の力は見させてもらった。
過去を見通す力、短距離及び長距離の転移、どれも驚愕の力だ。
この場に居る者で“聖人様”を疑う者はまだ居るか?」
誰もが下を向いている。
そりゃそうだろうね。
これで「自分はまだ信用していません」なんて言えば、アンドロマリウスの能力が自分に飛んでくるのは予想出来る。
その場合、過去に行った軽犯罪がバレてしまう。
ある意味脅しですよ、王様。
「……ふむ。皆納得したようだ。
では改めて。我が国を救っていただき、ありがとうございます“聖人様”」
「い、いえいえ! 偶然ですので!!」
「そこで何か褒美を与えようと思うのだが、どうかね?」
俺が断ろうとしたら、王太子が挙手した。
「それは自分が事前に聞いています。
まず、国内の自由行動の許可。次に我が国民となるが国外にも自由に出国出来る許可。
それから他の国に“聖人様”を広める事。最後に王族を護衛に付かせる事です」
そんな話をしたっけ?
まぁ自由に移動出来るようにしてくれるのはありがたい。
他国にも入れるように王様が保証してくれるのは、大金貰うよりも助かる。
最後の王族が同行だけが理解出来ない。
王太子、付いて来る気マンマンだね。
王族じゃなくても良いんですよ?
ここに口を挟んでも俺では勝てないので黙ってたけど、アンドロマリウスが発言し始めた。
「私からも意見があります。
まず、主殿に報酬を。これは街の被害を抑えた事、そしてここで犯罪者を白日の下に晒した事への報酬です」
「勿論だ。それは払わせて頂きたい」
「それと……シトリがこれから言う事を実行させて頂きたい」
シトリが言う事を実行?!
おいおい、この中に相思相愛の人でも居るのか?
この国の法律とか宗教観には詳しくないけど、もしかしたら同性婚は禁止だから密かに会ってるとでも?
で、それを認めさせるつもりなのか?
さすがにそれは大事過ぎるんじゃない?
俺が止めようと動いたけど、アンドロマリウスに静止させられた。
そしてゆっくりと頭を左右に降る。
どうやら俺が思っているような事では無いようだ。
ま、この悪魔達が、俺が困るような事をするはずが無いか。多分。きっと。そうだと良いな。
「シトリ」
「はい~。この城の宝物庫に眠っている、ある物を頂きたいですわ~」
「……ある物とは?」
「判ってるくせに~。まぁ良いです~。王太子~、こちらに~」
何を欲して居るのだろう?
シトリの元に来た王太子は耳打ちされ、それを王様に耳打ちした。
王様は「何故知っている?!」と言わんばかりの顔になった。
それを見て王太子もビックリしている。知らない話だったんだろう。
皆の視線が俺とシトリに集まっている。
俺は何も知りませんよ。見られても何も出ません。出せません。出るのは冷や汗くらいです。
「……了解した。
宝物庫には限られた者しか入る事が出来ん。
別室で対応しよう。息子よ、案内を命ずる」
「はい、判りました」
「これでこの場は解散とする! 皆の者、“聖人様”の要求通りになるように動け!」
「「「はっ!!」」」
俺は何一つ要求してないんですけどー。
もし俺が要求するとしたら、何か食材を買いに行きたいな~くらいですけどー。
って言うか、自由にさせてください、ってのが本音ですけど!!