155 運試し
「ほ、他には、そう! 他には何をやるんですか?!」
誰かが気を利かせて話題を変えてきた。
沈んだ心を奮い立たせて、回答する。
勇者? 横でorzの体勢のままだよ。
「……他かい? そうだね、運試しとか、かな?」
「運試しですか?」
答えてあげたいが、まだ心が地下15階くらいに居るんだ。
エレベーターは無く、階段で上がるので、もう少し待って欲しい。
そうだ、どうせなら本人達にやってもらおう。
「これは簡単に実践出来るから、自分達でやってもらおうか」
「は、はぁ……判りました」
俺は支配人に耳打ちをする。
俺の心が地下5階辺りまで上がってきた頃、支配人が戻ってきた。
手には布をかけたお盆を持っている。
「こちらに用意したのは、ここで売っているお土産の品です」
食べ物をお土産として売っているのか。
何でもアリだな。
まぁ、丸投げした俺が言う権利は無いけど。
「8個用意しました。その内、1個に辛いエキスを注入してあります」
8人の顔が曇る。
その気持ちは判る。
何で何もしてないのに罰ゲームをしなきゃいけないんだ、って顔でしょ?
悲しいけど、今のテレビ業界はそんなもんなんだよ。
俺は業界人じゃないけどさ。
本当は成功報酬の方が良いんだけど、番組的には面白くないみたいだよ。
「これを一人づつ食べて頂きます。
そうですよね、リョー様」
「その通りです。
全員が手に持って同時に食べても良いですけど、そうなると目線が散らばりますよね。
なので、一人が前に出て、順番に食べてもらう形の方が良いでしょうね」
テレビなら大人数が同時に食べても、沢山あるカメラが食べる瞬間を捉えてて、編集で良い具合にするんだろうけど。
舞台上じゃあ食べた瞬間が見えないよね。
「更に当たった人は、運が無いという事で、教会までダッシュしてお祈り&お布施をしてきてください。
その際、ちゃんと行った事を証明するものを持って帰ってください」
「それなら神父に言えば証明書をくれるぞ」
王太子から補足が出た。
聞けば、税金対策らしい。その証明書があれば、少し税金が安くなるそうだ。
政府と宗教の癒着か?! と思ったけど違うらしい。
教会が孤児院をやっていて、証明書を発行した時のお布施はそちらに使われるんだって。
国も孤児院をやってるけど、それは騎士や兵士の子供専用。ここで勉強し大人になったら兵士や文官になるそうな。
教会がやってるのは一般人向けで、冒険者や傭兵の子供とかが主に入るようだ。
ここは託児所のようなのも兼任していて、商人が商売に行く時や冒険者が仕事の時に預ける事も出来るんだって。
それを無料奉仕っていうんだから、凄いよね。
でもそれじゃあやっぱり無理があるから、国が間接的に支援しているんだとか。
「じゃあ、証明書を貰ってくる事。あぁ、お布施はこっちが用意するから。
後、道中は……ヒジリ君が護衛するから大丈夫だよ」
「……え? 俺?」
「そう、君。君なら絶対に安全でしょ?」
いつの間にか復活していた勇者。
復活の呪文でも唱えたか?
頭が回ってないようだけど大丈夫? 復活の呪文間違えてない? “ぬ”と“め”を間違えてない?
「あ、ああ。任せてくれ!」
アイドルを護衛するという事にやっと気づいたようだ。
すげー元気になった。
これなら無事に往復出来るだろう。
どっちと言えば、アイドルと気づいて近づいて来た人の方が心配だ。
過剰防衛しないように言っとかないとね。
「じゃあ、始めようか。
そのお菓子?を取る順番は……今回は挙手制にしよう。
最初にやりたい娘は居るかな? 最初なら1/8だから当たりにくいよ。
後の方だと、最初に当たりが出ればやらなくて済む。でもその場合は観客にアピールは出来ないね」
手を挙げたのはキャプテンのモサちゃんだった。