142 勇者の姿
勇者との遭遇を警戒しつつ移動する。
だが、一度も会う事も無く、王都の前まで帰ってきてしまった。
会わない方が良いのだが、こうも会わないと逆に不安になる。
そんな事を思いながら王都に入ると……そこには勇者が居た。
気配も感じさせず、近衛騎士にも見つからずに、そこに居た。
勇者が居た場所。
それは…………アイドルの劇場の前!
姿は勇者らしく腰に剣!ではなく、腰にはサイリウム!
体には強固な鎧!ではなく、ハッピ姿!
頭には兜!ではなく、ハチマキ!
そう! 完全にアイドルのファン!
そして気配を消していたのは、出待ちの為!
お前はアホか!
何をアイドルにハマってるんだよ! 仕事しろ!
いや、仕事をされても困るんだが。
周囲の人間が俺達に気づく。
そして俺の姿を発見するなり、大歓声を上げる。
その声は「名プロデューサーキター!」「うぉぉぉぉぉぉ!」「私もアイドルになりたーい!」って感じ。
どうやら歓迎されているらしい……のかな?
勇者はその声に振り向き、俺と目が合うと硬直した。
そのまま数秒。勇者は泣き出した。
俺に集まる非難の目。
……俺、何もやってないよ?!
慌てていると、俺に向かって勇者が走り寄ってきた!
近衛騎士が、すぐに対処し、接近を防ぐ。
「リョーさ~~~~ん!! 助けて!! 話を、話を聞いてくれ~~~~~~~!!」
……どうやら、俺に何かをするという感じでは無さそうだ。
「どうされます?」
近衛騎士の隊長さんに意見を求められた。
「う~ん、誰か、内容を聞いてもらえる? 話してくれないならこのまま城に戻ろう」
「了解しました」
何も話さないなら、近づく為の虚言の可能性もあるからね。
話したなら内容次第では話を聞いてあげようと思う。
でも「実は秘密の話が……」とか「判明した事があって……」みたいな、聞かないと損するよ的な話なら聞かないつもりだ。
ラノベの主人公とかは、こういうのに引っかかるんだよね。
で、面倒事に巻き込まれるか、自分から首を突っ込む。
俺は違う。「あっ、そういう話は間に合ってますんで」って言って断ってやる!
話を聞きに行っていた近衛騎士の一人が帰ってきた。
その顔には困惑が浮かんでいる。
何を聞いてきたんだろう?
「聞いてまいりました」
「ありがとう。何だって?」
「アイドルの事で頼みがある! お願いだ! 俺を助けてくれ! との事です……」
ファ?!
アイドルの事?!
勇者の事や世界の事、隠されてるモノの事や悪魔の事じゃなく?!
「実は秘密の話が……」とか「判明した事があって……」ってのは?!
う~ん、内容がぶっ飛んでた。
どうしよう?
見ればまだ泣いている。
……そうか、泣くほどか。
「……話を聞く事にしようか。一緒に城まで乗せていこう。道中に話を聞く事にするよ」
「よろしいのですか?」
隊長さんは王太子に確認を取っている。
「武装解除に応じるなら許可しようか。……まぁ、武装しているようには見えないけどね」
「判りました。身体検査を致しましょう」
「頼む」
俺の予想だと、身体検査してもアイドルグッズしか出てこないと思うよ?
それくらいガチな格好してるし。