013 狩り
「さて、身分証も手に入ったし、これからどうしたら良いと思う?」
通りにあった串焼きを購入して、噴水のある広場で食べながら作戦会議だ。
アンドロマリウスもグラシアも美味しそうに食べているから、悪魔も俺と変わらない食事でOKっぽい。
「そうですね。指輪に反応も無いようですし、他の街へ向かうのはどうでしょうか?」
「もうこの街には用事が無い?」
「はい。身分証さえ入手出来れば、移動しても良いかと」
「そうか。いや待って。あの家はどうする?」
「主殿が最初に着いた家ですか?」
「そう。帰るのに必要な場所だったら、確保しとかないとマズいよね?」
「我々を呼んでいただければ、何者が居ようとも占拠出来ますが?」
「いやいやいや! それは無し!」
一般人だったらどうすんだよ!
あの部屋が子供部屋になってたら? 可哀相じゃないか!
「では売家ですし、購入されてはいかがですか?」
「そうだな。そうしようか。金は無いけど……」
「また金属から金貨にしますか?」
「うぉい! そんな事を公共の場で言うなよ! 偽造してるみたいだろ!
う~ん、働こうか」
「幸い全てのギルドに加入されていますから、どこでも働けますね」
「そうだけど、まぁ、ここはやっぱり冒険者ギルドでしょ!」
「左様でございますか」
異世界に行ったら、お金儲けと言えば冒険者ギルド! これ決まりだから!
で、加入したばかりの新人が大物を狩ってきて、ビックリ!大変!大騒ぎ!ってね。
「では依頼を受けられますか?」
「いや、常設依頼で良いんじゃないか? 外に行って狩りまくろうぜ!
俺はやらない、いや、やれないけどさ!」
「狩るよー!」
「おお、グラシア! 頼んだぞ!」
「うん!」
「私も微力ながらお手伝い致します」
「よろしく!」
微力とは。
乏しく弱い力の事である。
決して地面に大穴を掘るような力の事ではない。
ついでに言えば「グギャ!」「グギョー!」「ジュベ!」とか悲惨な鳴き声を上げさせながら狩りまくる事ではない。
決して無い!!
近くの森に行った瞬間、アンドロマリウスが「ここの地下に洞窟がありますね」とか言い出したんだよ。
そしたら「じゃあ掘るー!」って言ってグラシアが犬堀りし始めてさ。気づいたら直径2mくらいの大穴よ。
洞窟に貫通したら戻ってきたけど「魔物が沢山居るー!」って言うんだ。
そこに今度はアンドロマリウスのポケットに入ってた大蛇が元の大きさに戻り、そのまま穴の中へ。
それを追ってグラシアも再度穴に。
んで、現状です。
俺は外で切り株に座り、現実逃避中です。
今日も空は青いなぁ……。
「主殿。殲滅が終了致しました」
「そうですか……。どれくらい居た?」
「500匹くらいでしょうか? どうやら穴を掘って街へ近づいていたようです。
それを先導した魔物がおりました」
「へ、へぇ……。で、それは?」
「一緒に狩ってしまいました。ただいま判別中です」
そうか……。区別付かないくらい瞬殺だったのか……。
その魔物の口上くらい聞いてあげたら良かったのにね。
きっと「何故判った?!」とか「よくぞ我が策を見破った」とか言ってくれたはずだ。
「魔物は何だった?」
「ゴブリンでした」
「へ~、ゴブリンか。
……ちょっと疑問に思ったんだけど、悪魔の軍団を呼べるとか言ってたじゃん。
その中にゴブリンって居るの?」
「下等過ぎておりません」
「そう言うって事は存在自体はあるんだ」
「はい」
「じゃあさ、仲間殺しみたいにならないの?」
「なりませんね。軍団にも入れない雑魚の上、それよりも知性の低い超雑魚ですので」
「そ、そうなのか」
「はい。それに悪魔は弱肉強食です。弱い者は殺されてもしょうがないのですよ」
大変な所ですね、魔界?って。
「あっ! 今思ったんだけど、狩った魔物ってどうしたら良いんだ?
持って帰るのか?」
インベントリに入れろと言われたら断固拒否する!
「討伐証明部位を持っていけば大丈夫でございます」
「討伐証明部位?」
「ゴブリンの場合、角ですね。只今外しております」
良かった。姿を見ずにすみそうだ。
見たら間違いなく吐くね。自信がある!
少し待っていると、大蛇が麻袋を咥えて戻ってきた。
その後からグラシアも戻ってきた。こちらも咥えている。
「その麻袋は?」
「角が入っております」
「いや、そうじゃなくて。いつの間に入手したの?」
「主殿が現実逃避をされている間に買ってまいりました」
気づかなかったわ……。
「角は結局何本あったの?」
「853本です」
「多いな!!」
袋はアンドロマリウスに持たせ、街へ戻った。
穴? 勿論埋めたよ。グラシアがね。