118 お悩み相談、その1
とうとう、その日がやってきてしまった。
抽選で選ばれたのは6名。
午前中に3人、午後に3人って事だって。
そんな少人数で良いのかと疑問に思ったんだけど、
「大勢の相手をさせて、聖人様を疲れさせるのか?」
と言ったら、皆納得したそうな。
この世界の人達は優しいなぁ……。
領主の館の庭に特設されたテントみたいな中に移動する。
テントじゃないな、陣幕?っていうの?
なんかそんな感じ。結構広い。
中の四隅には高さ1mくらいの氷が置いてあり、結構涼しい。
配慮ありがとうございます。
陣幕?の中央に1つ、入り口から一番遠い所に3つ、入り口に1つ、合計5つの椅子が用意されている。
中央の椅子にだけ背もたれがと肘掛けが付いている。
これに俺が座るのか?と思ったけど違った。
この椅子は相談に来た者が座るらしい。
「理由? 簡単だ。すぐに立ち上がったり武器を出せないようにする為だ。
俺達の椅子は何も無いだろ? これはいざという時にすぐに動けるようにだ。
この様に腰に帯剣してても座れるだろ?」
そう言いながらただの椅子に座って見せてくれる王太子。
そして次は相談者用の椅子に座ってくれる。
うん、確かに剣が邪魔だ。
剣を外して座ると、少し狭そう。これが行動を阻害するのか。納得。
「あれ? でも王様とか、こういう椅子に座ってるよね?」
「王が剣を持って戦う事は無い。必ず護衛が守るという信頼の証でもある。
それに王がただの椅子に座ってたら威厳が無いだろ?」
確かに。
国会の椅子が全部パイプ椅子だったら、笑えるし。
ま、中にはパイプ椅子がお似合いの議員も居るけどさ。
「もう良いだろう? 始めようじゃないか」
「……判ったよ。覚悟を決めるよ」
「気楽にな、気楽に」
そう言われてもなぁ。
どういう形式で始めるのかと思ったら、入り口から一人の男性が入ってきた。
この人が相談者かと思ったら違うようだ。
俺の前まで来て手にしてた書類を開き、話し始めた。
「これから来るのは、ハックル・ネダム、男性、31歳、独身です。
出身地・所在地共にこの街で、縫製業を営んでおります」
それだけ言うと、俺にその書類を渡して入り口の所の椅子に座った。
どうやら案内役というか、説明してくれる役のようだ。
護衛でもあるのだろう。よく見たら腰に短い剣を帯剣している。
「入りなさい」
その人の声で、誰かが入ってきた。
この人がハックルさんか。
「その椅子に座りなさい」
「は、はい……。しかし私のような者が、このような席に座って良いのですか?」
俺と同じ疑問を感じているようだ。
そうだよな! 庶民の考えだとそうなるよね!
「大丈夫です。それは聖人様が望まれているのです」
「そ、そうですか。で、では、失礼します」
……俺のせいにされた。
別に望んでなどいなかったのだけども。
口を挟んでも良い事は無いので、沈黙しておこう。
「では始めます。
貴方の悩みを打ち明けなさい」
うやうやしく始まった。始まってしまった。
しょうがない! 真摯に答えようじゃないか!!