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Let’s play a game  作者: 悠也
3/3

飛鳥vsクマ吉 ①

◯渋谷・超高層ビルの屋上


スカートのポケットの中から、飛鳥は小さなスナイパーライフルを取り出す。

すると次の瞬間、そのスナイパーライフルが元のサイズに戻り、飛鳥の両手にずしりとした重みが伝わる。


飛鳥「うっ」


飛鳥の身長と同じくらいの長さ──1.5mにもなるスナイパーライフルである。


弾道不動(だんどうふどう)スナイパーライフル』

この銃から撃ち出される弾丸は、重力、気温、気圧、湿度、風向きや風速などの影響をまったく受けることがない。対象へと、ただ真っ直ぐに飛んでいく。Bランク。


飛鳥「よいっ、しょ」


屋上のふちに立ち、飛鳥が『弾道不動スナイパーライフル』を構える。備えつけられている光学スコープを覗きこみ、周囲をざっと見渡していく。


飛鳥「んー……」


とはいえ、特に誰も見当たることはなく……。

この辺りで一番背の高いビルの屋上を陣取りはしたものの、ここは渋谷の街の中。建物が多すぎて、例え高層ビルの屋上だとしても、見晴らしがいいとはあまり言えないようである。


残念ながら、せっかく取り出した『弾道不動スナイパーライフ』だが、今この場所このタイミングでは、役に立ちそうにはない。


と、飛鳥がスコープから目を離す。


──その矢先のことだった。


飛鳥「あ」


飛鳥がいる高層ビルの前方、3車線の道路を挟んだ向こう側にあるコンビニの中から、ちょうど2人のプレイヤーが姿を現す。

すぐさま飛鳥はスコープを覗きこみ直す。


2人とも、女性である。歳はおそらく飛鳥の少し下、中学生くらい。

紫と緑という奇抜な髪色に、少し変わった服装──ロリータファッションと呼ばれるものだろうか。レースやリボン、フリルなどといった装飾が施された、全く同じデザインのドレスを少女たちは着用していた。


カメラを、紫髪(むらさきがみ)の少女に向ける。何の変哲もない、どこにでもあるようなクマのぬいぐるみが、その手には大事そうに抱きかかえられている。


日頃から、アイテムの情報収集には抜かりのない飛鳥だが、彼女の知識の中に、あんなクマのぬいぐるみは存在しなかった。


飛鳥「んー……あれはどっちだろう」


何かしらのアイテムなのか、それともただ単にああいうのが好きなだけなのか……。

どちらの可能性も十分にあって、結論づけることはできない。


飛鳥「まぁ、別にどっちでもいいか」


ならば考えるだけ無駄だ。と、飛鳥はとりあえず、撃ってみることに決める。


それに、仮にあのぬいぐるみがアイテムの類だったとしても、そこまで警戒する必要はないように思える。使わせる暇もなく仕留めてしまえばいいだけの話。

飛鳥の持っている『弾道不動スナイパーライフル』なら、容易にそれができる。


カメラをスコープ越しの視点に。スコープのレンズに表示されている十字線が、紫髪の少女の頭にぴたりと重ねられる。


2人とも、飛鳥の存在には気がついていない。楽しそうに手を繋いで、呑気に談笑しながら歩道を歩いている姿が見える。


距離はおよそ、200mと少し。角度はほぼ真下。動いてはいるが、ゆったりと歩いているだけ。それほど難しい条件ではない。


特に躊躇うことなく、飛鳥はあっさりと引き金を引く。静まりかえっている渋谷の街に、けたたましい銃声が鳴り響く。


が、しかし。


飛鳥「うっそ……」


残念ながら、発射された弾丸は、少女の頭を撃ち抜かない。


飛鳥「マジか……」


例の、抱きかかえられていたクマのぬいぐるみだ。突如としてあのぬいぐるみが3mほどにまで巨大化し、壁となり、弾丸から少女を守ったのである。


しかもどういうわけか、弾丸はぬいぐるみを貫通することができなかった。まるで鉄か何かにぶつかったかのような甲高い音が鳴って、弾かれてしまった。


飛鳥「いや、何でできてんの」


飛鳥にカメラを向ける。慣れた手つきで取っ手をがちゃがちゃと動かし、空の薬莢(やっきょう)を排出。

次いで、スカートのポケットの中から新たな弾丸を取り出し、再装填。

そしてすぐさま彼女はスコープを覗きこむ。


ところがすでに、2人の少女の姿は見えなくなっている。おそらく、大きくなったクマのぬいぐるみの背後に隠れたのだろう。これでは射線が通らず、狙えない。


飛鳥「駄目か」


高層ビルの屋上に、飛鳥の舌打ちがこぼれ落ちる。



◯渋谷・コンビニのすぐ近く


──紫髪の少女の名を、佳奈(かな)

──緑髪(みどりがみ)の少女の名を、恵里(えり)という。


尻もちをついている佳奈に、恵里が慌てて歩み寄る。


恵里「か、佳奈ちゃんっ、大丈夫!?」

佳奈「う、うん。大丈夫……」


恵里の手を借りて、佳奈は立ち上がる。


佳奈「びっくりした……。気づかなかった。狙われてたんだね」

恵里「ク、クマ吉が守ってくれなかったら、きっとやられちゃってたよ……」


カメラを、大きなクマのぬいぐるみに寄せる。2人をかばうようにして、クマのぬいぐるみは少女たちに背を向け、自立している。


その頼もしい背中の陰に佳奈と恵里は身を隠し、間違っても姿を見られるなんてことがないように、彼女たちはお互いの体をできるだけくっつけ合う。


姿を見せなければ射線は通らず、撃たれることはない。ひとまずこれで狙撃の心配はなくなった。


カメラを再びクマのぬいぐるみに。少女たちを自身の背後に控えさせつつ、その目は超高層ビルの屋上に向けられている。


200mも距離は離れているが、ぬいぐるみのつぶらなビーズの瞳にはしっかりと映っている。──屋上のふちに立ち、スナイパーライフルを構え、こちらを真っ直ぐ見下ろしている1人の少女の姿が。


恵里「どうするの? 佳奈ちゃん」

佳奈「んー、このまま隠れ続けてても仕方ないから、とりあえず建物の中かどこかに移動したいけど……」


カメラは、少し離れたところから少女たちを映す。2人のすぐ後ろの建物はシャッターが閉まっていて、避難場所には選べそうにない。

それ以外で、一番近くにあって、入ることができそうな建物は、先ほど彼女たちが出たばかりのコンビニでだった。


佳奈がそちらに目を向ける。距離にして約15メートルほど戻ったところ、そこに入口が見える。


佳奈「よし。じゃあ、あそこに戻ろう」


コンビニの方を指さして、佳奈が小声で言う。


恵里「う、うん、わかった……」


恵里は少し緊張した表情で、佳奈の言葉に頷く。



◯渋谷・超高層ビルの屋上


スコープ越しに見える大きなクマのぬいぐるみが、不意に1歩、横に動き出す。


瞬時に飛鳥はその行動の意図を理解し、次の手に打って出る。


飛鳥「なるほどね」


『弾道不動スナイパーライフル』を脇に起き、飛鳥は腰につけているウエストポーチの中から、手のひらサイズの赤い球体を取り出す。


『プロミネンスボム』

時限式の爆弾である。燃え盛る太陽の炎──そのほんのごくわずかな一部が、球体の中には圧縮されて閉じこめられている。Aランク。


カメラを飛鳥の手元に寄せる。間髪入れずに飛鳥は『プロミネンスボム』のスイッチを押し、ピッという音とともに、タイマーが作動する。


起爆までにかかる時間はきっかり10秒。だが爆弾にモニターなどはついておらず、減っていく秒数を確認する術はない。


感覚を頼りに、飛鳥はカウントダウンを口にする。


飛鳥「9、8、7、6──」


そして、残り5秒に差しかかったところで、彼女は振りかぶり、『プロミネンスボム』を放り投げた。

それは緩やかな弧を描き、クマのぬいぐるみのもとへと落下していく。


カメラをクマのぬいぐるみの視点に。並外れた視力を持っている彼には、こちらに向かって落ちてくる『プロミネンスボム』の存在が、鮮明に見えている。



◯渋谷・コンビニのすぐ近く


屋上の少女によって投擲された、その赤くて丸い小さな物体を見て、クマのぬいぐるみは予想する。

──おそらくあれは、爆発物の類だろう、と……。


次の瞬間、クマのぬいぐるみが迎撃行動に転じる。口が大きく開かれ、白い綿を覗かせるその口内に、ドス黒い高密度のエネルギーの玉が生成されていく。


恵理「え、ちょっとっ、なにっ!?」


ぬいぐるみの背中の陰に隠れているせいで、佳奈と恵理は状況がつかめていない。屋上の少女が何かを投擲したことにも気がづいていない。


佳奈と比べて、やや胆力というものに欠ける恵理が、クマのぬいぐるみのその突然の行動に慌てふためく。


とはいえ、クマのぬいぐるみはそんなこといちいち気にもとめない。

──開かれた口の中から、高密度のエネルギーの光線が放たれる。


角度はほぼ真上。『プロミネンスボム』がそのエネルギー砲の餌食となり、粉砕。タイマーの残り時間が0秒になるのを待たず、衝撃で爆発を起こす。


高さで言うと、高層ビルのちょうど中腹あたり。直視できないほどの光とともに、プロミネンスの名に相応しい灼熱の炎が、空中に撒き散らかされる。


範囲はおよそ半径25m、そこまで規模は大きくない。飛鳥にも、クマのぬいぐるみにも、佳奈と恵理にも、燃え盛る炎が届くことはない。


が、爆風は別である。


凄まじいほどの高熱を孕んだ爆風が、3人の少女のもとへと吹き荒れる。


飛鳥「──っ」


咄嗟に飛鳥は手のひらで口元を覆い、息を止め、さらに後ろに数歩下がることによって、その強風を凌ぐ。迅速な判断、飛鳥は被害を受けずに済む。


一方の佳奈と恵理──クマのぬいぐるみの背中に隠れているせいで、彼女たちは『プロミネンスボム』による爆発を視認することもできていない。


とてつもない爆音と、ぬいぐるみの陰から漏れる眩い光。2人が把握できたのは、それくらいのものだった。

故に、飛鳥のように、適切な対処行動を取れるはずもない。


佳奈と恵理は、熱風をもろに吸いこんでしまい、喉の内側に酷い火傷を負う。

尋常ではないほど痛みが彼女たちを襲い、立っていられなくなった恵理が、思わずその場に蹲る。


佳奈「え──」


自分のことは棚上げにして、すぐさま佳奈は隣にいる恵理を心配し、名前を呼ぼうとする。が、上手くいかない。

激しく咳きこんでしまう佳奈。いっそう強烈な痛みが喉元を突き抜け、彼女も地面に膝をつく。


当たり前だ。喉を焼かれているのだ。声を出すことなどまず不可能。ましてや、他の誰かを気にかけている余裕など、あるはずもない。


だが。


佳奈「え、りっ、ちゃん……」


驚くべきことに、それでも佳奈は、名前を呼ぶ。顔を歪めながら手を伸ばし、少しでもその苦痛を和らげてあげたいと、恵理の頬に優しく触れる。


突然の爆音、押し寄せた熱風、焼かれた喉、体の内部に生じる激痛──わけがわからず、パニックに陥っていた恵理が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

頬に添えられている佳奈の手を、包みこむように恵理は握り返す。


痛みがほんの少しだけ、和らいだ気がした。


カメラを佳奈に。


佳奈「わだ、しっ、だちのこと、は、いいからっ」


──あいつを殺して。


痛みと熱さで額に大量の汗を浮かべる佳奈が、怒りを露わにし、潰れた声を絞り出す。


それは、クマのぬいぐるみに向けられた言葉だった。


『暴虐のクマ吉』

それがひとたび暴れ出せば、被害は街の1つや2つじゃ済まされない。綿でできたその体の中には、溢れんばかりの暴虐性が秘められている。Sランク。


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