ツボの欠片(改稿中
「お前……誰なんだよ? このガキの知り合いか?」
「い、いいえ!」
「」
半べそかきながらシャーロットは割れたツボの欠片を拾い集める。
比較的大きな欠片を数枚拾ったところで立ち上がり、男達の目の前に突きつけた。何の変哲もないただの赤褐色の欠片。
「こもっているマナが、違うんです!!」
「こもっているマナァ?」
「ちゃんと見てください!! 貴方は炎を宿した人なのに、このツボにこもっているマナは、光のマナ……こめられるわけがないんです…」
「なんで俺の魔法の属性を……てか、そんなもん見え……」
男がそう言った途端、ツボの欠片から光が溢れ出した。
清らかであたたかな光。それは、広場全体を白く染め上げるような圧倒的な光量を有しているのにも関わらず、光源のツボの欠片を視認することが出来た。
「なんだこりゃあ!?眩しいのに…眩しくねぇ!」
「光魔法特有の輝きです。これを作った方は、自分のマナがこんなにツボに練り込まれるくらいに……一生懸命ツボを作ったんです!! それなのに……こんなことに使われて!!作った方が可哀想です!!」
「……し、知るかよ…マナなんてこんなにハッキリ見たことねぇし…」
「だから……貴方たちにはお金は払えません。ぶつかった事は…ごめんなさい。でも……」
「うぎゃああぁ!?」
悲鳴が聞こえ、シャーロットはハッと顔を上げた。男達がガタガタと震えながら、自分の後ろを見ている。
振り返ると、自分より2回り程度小さな少女が立っていた。全身を黒色の、フリルやレースがあしらわれた華やかな服で包み、色白の肌と相まってその姿は人形のように見える。そのまた後ろには数名の男女。
「久しぶりね。オーケ、ヨッヘム」
「バババババ…バルシュミーデさん………おおおお久しぶりですね………………」
「げ…元気そうでなにより!!! アハ……」
「なんだか外が騒がしかったから、ギルドのみんなで来てみたのだけれど。あなた達だったなんて。会えて嬉しいわ」
【混沌の定理】のギルドマスター『イルムヒルデ・B・S・E・バリュシュミーデ』は微笑んだ。
お淑やかな彼女の顔は普通の女の子の表情とは思えず、少女の体のなにかであるような気がした。
「お、おれたちも……嬉しいデス………」
「アニキ!!ヤバイ、ギルドマスター全員が揃っ…揃っ…」
「でもおかしいわね。以前あなた達、言わなかったかしら。もう悪事からは足を洗うって」
「う……えっと……」
「覚えているわ。昨日のようにしっかりと」
「ンンーー………」
大量の汗をかく男達の足元には水たまりが出来ていた。シャーロットはイルムヒルデが何者なのかまだ知らなかったが、イルムヒルデの中に途方もない量のマナが秘められているのを感じとっていた。
「あぁ、わかったわ。前の時のあれがとても気に入ってくれたのね。だからもう1度あれをやりたいのね」
「!!!!!」
「嫌ーーーッ!!!お願いしますあれだけは!!!」
「そんなに喜ばないで。今してあげるから」
「に…………逃げろヨッヘム!!」
「ヒイィッ!!!」
もつれる足で反対方向へと駆け出していく。途端、男達の足元に完全な円形の大きな穴が生まれた。
その穴はどこまでも深く暗く、何も見えないが奥底で何かが蠢いているのが視えた。
「ヒィ…ヒィッ……うわあああ──────……………」
情けない悲鳴を上げながら男達が落ちた。反響して幾重にも折り重なった悲鳴は、穴が閉じると同時にぴたりと止んだ。