謎の男、助け舟をだす
「やっぱり! シャーロットちゃんだよね? 久しぶりだなぁ。10年振りくらいかな?」
「あ……あの、誰…ですか…?」
にこやかに話しかけてきた薄汚れた学者風の男は、親しげにシャーロットの名前を呼んでいた。シャーロットは、見知らぬ男が自身の名前を知っていることに怯えていた。悪い人かもしれない!! 怖い!! 怯えつつも、魔法の発動準備を──
「ごめんね、急に話しかけて……覚えてなかったかな……そっか……お父さんの友達なんだ。私はジョフロワ・ギャンヌ。遺跡帰りだから服が汚いけどね」
ジョフロワ・ギャンヌ。聞き覚えある名前だった。確か、父親が遺跡を発掘しに行く時に同行していた人の名前だ。変わった名前だったからよく覚えている。
「髭は…?」
「剃ったんだ。そっか、君は私のことを髭で覚えていたのか……」
昔会った時にはたっぷりのあご髭を蓄えていたのだが、それはすっかり無くなってしまっていた。髭の名残はあるものの、よくよく見ないとわからない程度である。
「す、すいません!! 髭で覚えてしまっていて!!」
「髭のことは気にしてないよ! それよりも、どうして君はこんな所に……」
「うっ、実は……」
シャーロットは今までのことを全て説明した。ギャンヌは気づく。原因は父親の許可証についての言い忘れだと──
シャーロットの父親は考古学の権威だ。そうなるまでに長い時間をかけてはいたが、ここ数十年は毎回顔パスで街に入っていた。恐らく、許可証のことを忘れていたのだ。それにギャンヌは気づいたが、今回のところは黙っておくことにした。シャーロットの父親はそういう所がある。
「街に入りたいなら私と一緒に行くかい? 街に入ることならでき──」
「本当ですか!?」
食い気味にシャーロットは叫ぶ。安堵と驚愕と喜びが入り交じったその声に、幾人かの通行人がこちらを見た。
「うおーっとちょっと距離が近いかなぁ!? と、とりあえず警備官の所へ行ってくるね!!」
「は、はい!」
土を払い、ギャンヌが警備官のもとへ行きしばらくすると、警備官がシャーロットのもとへ足早に迫ってきた。2人がシャーロットの目の前で敬礼をする。
「先程は大変失礼致しました!!まさか、本当に魔術師様だったとは……」
「ギルドに所属していないそうですね。魔術師様のこれからのご活躍を、お祈りしております!」
「えへへ、いやいや……全然大丈夫ですよぅ。敬礼しなくてもぅ」
怖かった警備官2人が自分に対して敬礼している。少し気分を良くしたシャーロットはニマニマ笑っていた。
「助かりましたぁ!これで街の中に入れます!」
「いいんだよ。次からは自分で入れるよう、しっかりギルドに入ってね!」
「しっかりってどういうことですか?」
「えっと…しっかり頑張れ的な…ネ!」
「はい!」
門をくぐる。目の前に、美しいグライデンの街並みが広がっていた。