王都グライデン
「さーて、つきましたよ! ここがグラ──」
「うわああああああ………!!!!」
シャーロットは感嘆の声を上げた。高い高い門の向こうに、緑と白を基調とした街が見えていたからだ。
王都、グライデン。国王が住まうフリジア城がそびえる城下町であり、プレジール王国で最も栄えている。商業が盛んであり、人間を初めとした幾つかの種族が共生する世界でも珍しい都市だ。
「すごい! ここすごい!! 建物おっきい! なんかいい香りがする!!」
「お嬢さんお嬢さん、忘れ物ですよ! 荷物荷物!」
「ああっそうだった」
興奮のあまり自分の身一つで荷台から飛び出したシャーロットは、馬車の運転手に荷物を渡された。通貨、衣服、必要なものが全て入っているその鞄は、シャーロットの母が作った大切なもの。忘れる訳にはいかない。
「お嬢さん、頑張ってな。俺たち、応援してますから!」
「気をつけてねー!」
「ユタさん、チャーリー、ありがとー!」
意気揚々と、グライデンに続く門へと歩き出す。これから始まる魔術師としての生活、美味しい食べ物、新しい出会い、美味しい食べ物……期待に胸を膨らませるシャーロットは、今門を越え──
「すいません、許可証を提示していただけますか?」
肩を掴まれ振り向くと、警備官である2人の男女がシャーロットを見下げていた。「許可証……?」と、ぽかんとした顔でシャーロットが言う。入国警備官達はため息をつく。
「またか……今月5回目だぞ」
「許可証が無ければ、この都市に入ることは出来ないんです。もしくは、魔術師ギルド所属証があれば……」
知らない言葉を次々と繰り出され、シャーロットは困惑した。許可証? 所属証? 独り立ちするにあたっての父親のアドバイスを思い出してみるも、そのような言葉に聞き覚えはなかった。ギルドにいたっては、これから入る所だ。持っているはずがない。
「ま、まだ所属していなくて……」
「そうかそうか。お嬢さん、ここから東に行ってクラシィ草原を出たら、グライデンに入ることを許可してくれる紙を発行してくれる街があるから、まずはそこに行きなさい」
「往復で8日ほどの距離です。許可証を発行していただきましたら、またお越しください」
「え、えぇ!?」
ここまで送ってくれた馬車は、次の仕事があるためいなくなっていた。家に帰ろうにも許可証を発行しに行こうにも徒歩で行けるような距離ではなく、食料はあと1回分しかない。つまり八方塞がり。シャーロットは警備官にすがる。
「そんな……馬車が無いんですけどどうすればいいですか?」
「私共に聞かれましても。そういうルールですので……」
「うえぇ……」
まさかグライデンに入る前にこんな難題にぶち当たるとは思ってもみなかった。こんな時にも腹はすくようで、邪魔にならないよう門から離れた外壁にもたれかかり最後のパンを食べた。これでいよいよ食料も無くなってしまった。
「ど、どうしよう……ホントにどうしよう!! お金で……は犯罪だし、外壁を登……は無理だし、許可証……は遠すぎるし!!」
「大丈夫かい? シャーロットちゃん」
「目の前の人は知らない人……だし……え?」
眼鏡をかけた男が立っていた。