計画の修正
そこは森の最深部。
ダラスと國武は、邪樹の種の麓で状況を確認する。
「それでダラス殿、部隊はどれだけ残っておりますかな」
國武は、ダラスに問いかける。
このバグ発生で、部下との連絡は完全に途絶えている。
邪樹の種を守っていたメインの部隊はダラスと國武を残し壊滅までは把握してはいるが、それ以外の情報は全く不明。
この状況下、部隊の状況を確認出来るのは、邪樹の種と視界を共有出来るダラスのみだ。
「ちっ、この邪樹の種を守っている部隊はこいつの暴走で壊滅。部隊が集まっているベースキャンプは穴に飲まれてた。隊長が残っているが、頭がイかれている。残っているのは森の探索部隊。デスキンキーに1チームやられたが、残り2チームはバグに巻き込まれずに済んでいる」
となると、8割以上の兵士達が、この僅かな間で失ったということだ。
残りは、自分を含めると10名しか残っていない計算になる。
「ほほう、かなり厳しい状況ですなぁ。ここで厚木の部隊を寄越されたら、確実に詰みですな」
冒険者の質は、その地のモンスターの質に影響される。
なので、厚木の地には中堅どころの冒険者しかいない。しかし、軍は別だ。内陸地なので、規模は小さいが正規軍が配備されている。
厚木の戦力不足をカバーするように配備されている軍は、間違いなく冒険者達より強く、そして数も多い。
「ここでバグが発生していると気づけば、おいそれと軍を動かせないはずだ。数が多ければ多い程、バグに巻き込まれた時の損害はでかい」
「ふむ、そう考えると我々にもまだ、時間的猶予はある、ということですな」
「計画は中途半端ではあるが、やつらがくる前に邪樹の種を発芽させるしかあるまい」
「・・・・・・致し方ありませんな。厚木の町を壊滅させることは出来ませんが少なくとも厚木の町に被害を与えることは出来る」
本厚木の町は、神奈川において知名度のある町であり、重要な拠点である。
ダンジョンが多く存在し、強いモンスターの素材の取れる西部と、町が多く存在し多くの人が住む東部の中間地点に存在し、東と西の橋渡しを担う町であり、そしてスタンピートなどで魔物が東側へ押し寄せる際、壁の役割を担っている。
スタンピート。
西部のモンスターが暴走し、東部へ押し寄せる現象だ。
ゲーム時代からのイベントであり、その機能はゲームと融合した今でも続いている。
なお、ゲームの頃には、東部と西部を分断する川が流れており、基本この川をモンスターは越えることが基本出来ないとされている。
川の沿線上には幾つかの町があり、その町にある神殿が結界となり、川を越えさせないようにしているのだ。
ゲームが現実となったこの世界。東部と西部を貫く川の役割は相模川が担うこととなり、結界の起点となる町の一つが本厚木の町なのだ。
つまり、本厚木が潰れれば、ここが潰れれば、間違いなくモンスターの素材の加工と交易に特化した海老名は確実に壊滅するだろうし、また、その近辺の町にも大きな傷跡を残すことになるだろう。
邪樹の種の根は、今は『帰らずの森』の中にしか根を伸ばしていないが、このまま厚木の町に根を延ばす予定だったのだ。
邪樹の種の力の一つが根を張ったエリアにバグを発生させるというものだ。
厚木の町にバグを発生させ、壊滅させる計画はほぼ頓挫したと言える。
しかし、厚木と海老名の中間地点にあるこの帰らずの森に邪樹の種が発芽すれば大きなダメージを負わせることが出来る。
元来の目的が達成出来なくなった以上、彼らの出来る選択肢はそれしか残されていなかった。
「さて、発芽させるとして問題となるのが、元・深緑の騎士団のメンバーですか。そんなに厄介ですかの?」
「ふん、國武は、元々、他県に居たんだったな。ならば、知らなくて当たり前だ。神奈川の特殊部隊だから、その存在は隠されてきたからな。だが、精鋭揃いの厄介な奴らだ。私は元々、神奈川の救世軍に身を置いていたが、何度計画の邪魔をされたか」
きりっ、とダラスは奥歯をかみしめる。
「まぁ、深緑の騎士団は知りませんが緑の騎士は知っていますな。といっても都市伝説のような話のみですが、どこからともなく現れ、救世軍を駆逐する騎士。不死身で、救世軍を倒し終えると何処かへ消えていく。あの二人のうち片方が緑の騎士なのですかな?」
「知るか。俺は緑の騎士の発生条件を知らない」
「発生条件?」
ダラスの言葉に、國武は首を傾げる。
そんな、國武の不思議そうな顔を見て、ダラスは小さく舌打ちする。
「國武。君の知るべきことではない」
「ほっほっほ、余計なことを知って短い余命を更に縮めたいとは思いませんな。私はなにも聞いていませんし、知りたいとは思いません」
「ふん、まあいい。時間がない邪樹の種を調整する。貴様は周囲を見張っておけ」
「ほほほ、了解」
國武は笑顔で、引き受けながら心の中で思案する。
ダラスの反応からして、緑の騎士に関することは機密事項であることは確実だ。
國武は、今は軍人だ。軍の中には知ってはいけないことが山ほどあることを知っている。知りたがりは命を縮めるのが東京軍という場所だ。
國武とて、無駄死にをしたいわけではないが、しかし・・・・・・
(戦いの果てで死ぬのなら本望。さてはて、緑の騎士とやらはどれだけ強いのでしょうなぁ)
周囲を警戒しながら、國武は、普段浮かべている作られた笑みではなく、見るものをぞっとさせる獰猛な笑みを浮かべるのであった。
今回は短いので明日、もう一話投稿予定。




