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ネズミの野望とその顛末



「はっはっは、元救世軍とはいえ案山子相手には荷が重かったですか」


その光景を遠くから見る者がいた。

ネズミ面のその男はその光景を楽しげに見ていた。

予想通りの結末。しかし、成果は予想していたより大きい。


案山子。

黒い三角帽にボロボロの外套、不気味な笑顔を象った仮面を被った男。

その素性はねずみでさえ知らず、おそらくねずみの上司も知らないだろう。

だが、その知名度は抜群だ。

その出で立ちから、救世軍から案山子と呼ばれ恐れられていたその人物。

運営を中心とする救世軍を打ち破る大きなきっかけの一つとされている。


当時、神奈川全域を支配し、更には他県にもその手を伸ばし始めていた救世軍が敗北したのは2つの要因があるとされている。


一つ目は、静岡で力をつけた円卓の騎士率いる朝倉涼葉あさくら すずはが神奈川に進軍し、神奈川をまとめ上げたこと。

二つ目は、東京で反乱を起こした水城光輝が救世軍を打ち破ったこと。


その反乱軍を作り上げたのが『案山子』とされ、水城がその後を継ぐまで東京各地で暴れまわっていたとされている。


この大きな戦果を挙げた朝倉と水城は、神奈川、東京の王となり、最後の案山子は本名さえ歴史に残すことなく消えていった。

ゆえに、『案山子』の正体は、神奈川、東京で活躍した『緑の騎士』と同じくらい謎に包まれている。


しかし、今回の騒動で謎の一端を掴むことが出来た。

その事実に、ネズミは興奮を隠せずにいる。


元々、今回のスパイ活動は、案山子に関するものではなかった。

仲間のスパイが厚木で消息を絶ったので調査に来ただけのことだ。


色々と調査している中で朽野に興味を引かれ、調べているうちに『緑の騎士』の名前が上がったのだ。

ダメ元で『ジャイアントキリング』をぶつけて見たところで、まさかの『案山子』の登場。


もしかしたら、彼を追っていけば『緑の騎士』の情報も出るかもしれない。


この二つの情報を母国に持って帰れば、間違いなくの大手柄。

出世の一つや二つは軽く見込める。


「さあ、明日から忙しくなりますよ」


男は、期待を胸に明日からの調略を考え始めるのであった。



◆◇◆◇


そして、更に数ヶ月が経過した。


ネズミは祖国である千葉に戻ることとなった。


「よくやった。君の調査のお陰で案山子と緑の騎士、双方の身柄を確認することが出来たよ」


ネズミの寄越した情報は、母国に大きな衝撃をもたらした。

その情報を元に、案山子、緑の騎士に接触。二名を千葉へと引き抜くことに成功。

ネズミの功績は大きく評価され、情報局内で不動の地位を築くことに成功した。



「だけど、私の野望はこんなものじゃない」


ホテルの屋上。

美女を侍らせながら、ネズミはにやり、と笑みを浮かべる。


眼下にはどこまでも広がる千葉の町並み。その先に、大統領府がそびえ立っている。


「いつか、あそこを、いや日本を俺のものにしてみせる!」


ねずみの高笑いが木霊する。


こうして、彼は一歩を踏み出した。

千葉を、そして日本を制覇する彼の覇道は今始まったばかりなのだ。







◇◆◇◆



「だけど、私の野望はこんなものじゃない」


ネズミ面の男が、白目を剥きながらにやり、と笑みを浮かべている。

その口からはヨダレがダラダラと、正直見れたものじゃない。


「ねぇ、百合っち。いつまでこいつこのままにしておくの?しょーじき、不気味なんだけど?」

「月歌ちゃん、いいじゃない放っておけば、害はないんだし」

「いやー、確かに害はないけど精神衛生上よろしくないというか」

「変態のくせに細かいこと気にするのねぇ」

「んー、変態だからこそ細かいことを気にするんだよ」


そこは、とある一室。

『ジャイアントキリング』のメンバーが狙った百合の部屋である。

そこにいるのは、三人。


一人は、百合と呼ばれた女性。

朽野がはまっているとされるその女は金髪碧眼の日本人離れした容姿をしている。

全体的に色っぽい雰囲気を纏っており、顔には柔らかな笑みを浮かべている。

男であれば一発で恋に落ちそうな魅力的な笑みだ。


もう一人は、月歌と呼ばれた女。

まだ女の子という言葉がよく似合う子だ。

ジーパンにTシャツ、革ジャンという組み合わせ。髪はショートカットというまさに健康的な姿をしている。


「い、いつかぁ、あそこを、い、いや、に、日本を俺のものにしてみせるぅぅぅ」


そして、最後の一人は、ネズミ面の男だ。

目が虚ろで、すでに正気を失っているのがよく解る。


この男は、朽野の周りを探っていた密偵だ。

朽野と『ジャイアントキリング』の戦いの最中、遠くから見ていたのを、百合の情報網に引っかかり、月歌が捕らえたという流れだ。


「さすが、神奈川の諜報部、本当にすごい情報網だねー」

「まぁ、トップがあれだからね。それにしても、今度の伸也が受ける依頼の相棒ってあなただったのねぇ」

「やっぱ、そんな情報も掴んでいるんだ」

「当然、だって諜報部だもの」

神奈川の諜報部。

その名の通り神奈川が抱える諜報機関だ。


国内・国外の情報を集め、場合によっては暗殺や破壊活動を行っている。

彼らは一般市民に紛れ活動をしている。


目の前の女、百合もそうだ。

表向きはキャバクラで働く水商売の女で、戦闘向きではないと本人は言っているが、下手に戦闘能力を持っている者より厄介な存在だ。


虚ろな顔でヘラヘラしているネズミ男を見る。

未だ、彼は夢の中、余程良い夢を見ているのだろう。

一人で腰をカクカク動かしているその男。


彼も、千葉の諜報部員だったはずだ。

それが意図もたやすく手玉に取られ、冷めない夢の中で微睡んでいる。


ゲームのスキルでこういった効果のものはない。

システムに干渉しここに存在しないものを見せることは出来るが、本人の意識を奪い判断力を無くすようなものは存在しない。


恐らく、百合本人のスペシャルスキルだ。


たまにいるのだ。

様々な分野のスペシャリスト達が、自身の技を極限まで鍛え抜いた時、その技がシステムに取り込まれ、その人独自のスキルを作り出すことが


百合は自身を催眠術のエキスパートだったと言っているが

(ううん、スペシャルスキルにしても、これは異常過ぎる。もしかしたら、『もっと上の』)


「おーい、月歌~。お姉さんほったらかさないでよ~。さみしいよ~」


ふざけた感じで甘えてくる百合。その姿に、月歌は、はぁとため息をつく。

「あいかわらずだね。百合っち。だけど、こんな場所で百合っちと会うなんて予想してなかったよ。君、諜報部のエースでしょ。こんな場所にいていいの?」

正直、厚木は神奈川全体にとって重要地点ではあるが諜報部のエースを滞在させる程の場所ではない。

別に情勢的に不安定という訳ではないし、どこかの国に面している訳ではない。政治的な情報が集まる訳ではないこの場所に敵の諜報部員が本格的に進入してくることもない。

つまり、いろんな意味で安定しているのだ。


「そりゃ~、私、伸也君のお気に入りだしぃ。彼ほどの上客、どこまでもついていくわよ~」

「はぁ、やっぱ先輩が原因かぁ」


真面目に答える気は無いらしいが、しかし彼女の言葉で検討がついた。

彼女がここにいる理由。それはそこに朽野がいるからだ。


「あはは、やっぱ気づくわよね。このネズミ、彼が案山子だって気づいたみたいだけど、そんなの彼を表す一面にしか過ぎないのはあなたも知っているでしょう?」


そう、彼には様々な面がある。

その情報一つで、周辺諸国を震撼させるに十分な秘密が彼の中に幾つも隠れている。

「彼というびっくり箱をあけようとする人をちょーっと懲らしめるのが私の役目。まぁ、彼が目立とうって気が無いのが助かるけどねぇ。折角、彼に『ジャイアントキリング』の情報渡したのに彼らを倒さず、間抜けに逃げることを選んだんだもの」


彼の家のポストに手紙を投げ込んだのも百合だ。

そこにはジャイアントキリングが彼を狙っていること。そして彼らの正体も書き込んでおいた。

最初、『ジャイアントキリング』に襲われた時、朽野は彼らを返り討ちにすることも出来た。


だが、彼はそれをしなかった。彼らを倒せば、ジャイアントキリングの精鋭を倒したことで名を上げてしまう。

だから、間抜けに逃げ、衛兵に通報することで実力を晒さず彼らをこの町から追い払おうとしたのだ。


しかし、門の入り口を見張られてしまい無理に突破しようとすれば町中で彼は実力を示すことになってしまう。


最終的には百合が狙われたことでそうも言ってられなくなったようだが、案山子の格好をしてくれたお陰で百合のほうで上手く情報操作が出来そうだ。


「さて、後はこのネズミを引き取りに来る人達を待つだけだし。月歌ちゃん、一杯どう?」

「いいね、百合っち、朝まで飲み明かそう!」

「いいけど、月歌ちゃん、明日仕事じゃなかったっけ?」

「関係ない、関係なーい!」


百合とそんなことを話ながら、月歌は考える。

朽野は、目立ちたくないから一度は『ジャイアントキリング』を見逃した。

そう百合は言っているが、本当にそうなのだろうか?

もし、そうなら最初の段階で皆殺しにして、知らないふりをして町に戻ってくればいいだけの話だ。

残りの面々に関しては百合を使って衛兵達を動かせば良いだけの話だ。

だが、彼はそんなことをしなかった。それは恐らく彼らに生き残るチャンスを与えたのではないだろうか?


彼がそんなことをする理由それは、もしかしたら・・・・・・


「先輩、もしかして救世軍に負い目を感じている?」


彼女の問いに答える者はいない。

ただ、窓の外に浮かぶ大きな月が彼女を照らし続けていた。







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