001 歩目
よろしくお願いします。
薄汚い路地裏を一人の青年がトボトボと歩いていた。
彼の名前は大人 弥五郎
16歳にして住所不定無職。
成人を遥か手前にして人生詰んでるヤンキーボーイだ。
つい数日前までは無職ではない、
未来輝く学生だったのだが、
その肩書も義務教育期間の終了とともに消えたなくなってしまった。
金がない。
仕事もない。
もっと言うなら家もない。
勉強をまともにせず、かといって何か趣味に没頭するわけでもない、
ダラダラとした学生生活を送っていた弥五郎に、彼の面倒をみていた親戚は無情だった。
そもそも義務と補助金によるギリギリの勘定で“保護者”をしていた関係もあり、
弥五郎は義務教育を卒業したその日に家を追い出され、
あっという間に立派なホームレスへとジョブチェンジした。
――これからどうすればいいのだろうか。
昨日は公園のベンチで寝た。
おかげで身体中が痛い。
さらに、目が覚めると財布と靴が片方無くなっていた。
誰かに盗まれたのだろう。
夜の公園の治安を甘く見ていた。
今日はせめて屋根のある寝床で寝たいが、
金は全て盗られてしまったのでネカフェにすら泊まれない。
若いのだから働いて金を稼げと言われるかもしれないが、
この不況のご時世だ。
コネも学歴もないヤンキー。
しかもなんの異能を持っていない弥五郎に、職が見つかるとは思えなかった。
「腹減ったなぁ……」
今朝から何も食べていない。
現在の全財産は42円。
おにぎりすら買えない現状が物悲しさを加速させる。
空を見上げると、タイミング良く頭上を飛竜が通り過ぎた。
翼に巻き上がられた風が、弥五郎を激しく叩く。
「……ッ。くっそ、あんな風に飛行系の“遺伝”でもあればいくらでも仕事あんだろうな」
風にグシャグシャにされた髪を掻き毟りながら、
八つ当たりに弥五郎は吐き捨てる。
空は竜種や有翼の天使が飛び交い、往路ではコンテナを積み木のように抱えた巨獣種が闊歩する。
かつて科学や機械で行っていた物事が、幻想の回帰と共に再び生き物の領分へと取り戻されていった。
幻想生物、エルフやホビット、天使に悪魔、妖怪、化物、果ては神まで…
時代とともに物語の世界に飲まれていった存在たちが、
人間の血に刻まれた、遥か昔の遺伝子という形で再びこの現世に姿を現した。
――ここは新生国家ファーストリターンかつては“日本”と呼ばれていた場所である。
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