白夜との出会い
「1人。」
__バゴッと何かが殴られた音がする。
「2人。」
__バキッと骨が折られたような音がする。
「3人。」
__ボキッと関節が外された音がする。
私は今、夜の路地裏にいる。
----------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
8時。
起きて学校に行く時間。気だるい。私、暁月奏は、重い体を起こしてベッドから出た。めんどくさいし、今日も学校はサボるか。いつものことのはずなのに、何だか無性に胸がムズムズした。
〜〜〜♪〜〜♪〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪
携帯が鳴っている。女の子らしくない、元から携帯に設定されてた着信音。私は何も考えず、液晶も見ず、電話に出た。
「もしもし、暁月。」
「もしもし。爽。今からこっち来れる?」
電話の相手は爽。私の男友達だ。毎日のように電話をかけて、外出に誘ってくる。正直にいうと。めんどくさい。そして爽は……暴走族"白夜"の幹部だ。
「今?夜じゃだめ?」
「夜はどうせまた路地裏に行くんだろ。いつまでそんな生活してんだよ。俺んとこに来て……」
私はうざったくなって電話を切る。誰がチャラ男率いる暴走族に入るもんか。自分の身くらい自分で守れる。それくらいの力量は私にだってある。でも、途中で切ってしまったのは悪かったかもしれない。
「しかたないな。行ってやるか。」
重い体を持ち上げ、脱ぎ捨てられてるTシャツとパーカーとジーンズを履いた。いつもの私だ。次に放ってあったスマホと携帯をポケットに入れ、ヘッドホンをつなぎ、首にかけた。耳に当てるのはめんどくさいし、耳に当てなくても聞こえることには聞こえる。ベッドの下に隠してあるスニーカーを履き、ベッドの上に放置してある黒マスクを取り窓から私は
__飛び降りた。
ストンッという軽々しい音とともに地面に着地した私は何もなかったかのように歩く。まあ何もなかったんだけど。目的地は倉庫。歩いて約10分。……ボカロ曲2、3回分。
トントンッ
ボカロ曲2、3回分の時間なんて一瞬で終わる。気がついたら目の前には大きな大きな豆腐ハウスがある。ここが爽の暴走族のアジト。いつも通りのバイクにいつも通りのメンツ。ドアの前には2匹の粋がった不良。
「爽から呼ばれたんだけど。」
いつものように一言言う。もう顔を知ってるせいか何も言わずにドアを開けてくれる。不良のくせして超丁寧に。いつ見てもその様子は笑えてしまう。
「爽、来てやったよ。」
バカでかいこの建物に響き渡るように声を張って喋った。下っ端たちも私のことは知っているようで、何も言ってこない。私が通る時に感じる目線は、尊敬の目線ばかりだ。
5分経ったら大体爽が出てくる。幹部部屋から。堂々とした威厳を放ってくる。めんどくせーな。
「おっせーぞ。何やってたんだ。今まで。」
2階から階段を降りてやってくるときに、踊り場で仁王立ちをして言った。粋ってるなー……。
「黙れ不良。」
「お前に聞くぞ。お前は何者だ。」
「私?私は暁月奏。それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「暁月奏。本当にそれだけか?」
「それだけよ。」
「なら、今俺が族に誘っても、いいんだよな?」
きたよやっぱりこの質問。私は今までずっと無視し続けていた、族に入るか入らないかの質問。私には……答えは出せない。
「そろそろ回答願おうか。」
「変わらない。私は族になんて入らない。」
「てめーも頑ななやつだな〜ここはな……「黙れ」はい。」
私は爽の言ってることがうざくなって途中でぶったぎった。
「帰る。」
私は踵を返して爽に背を向けた。
どうしてかな。涙が止まらないや。
----------------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------
「1発。」
__こめかみに思いっきり飛び蹴りを食らわせる。
「2発。」
__みぞおちに拳を打ち込む。
「終わっちゃった……か。はは……。弱い。弱すぎる……。」
はは。ははははははは。もう訳わかんない。喧嘩し続けてたらいつの間にかこんなにも強くなってしまって。
「私は何者……か……。自分でも分かんないよ。自分でも、どこが私の居場所なのか。どこで生きるのが妥当なのか。どこで生きれば周りに迷惑をかけないのか。分かんないよ。」
__私は今、静かな夜の裏路地で涙を流していた。
----------------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------
翌日は、久しぶりに学校に行く気になった。まだ新しい制服を着て、パーカーを羽織り、いつものようにフードを深く被って、マスクで顔を隠して手ぶらで家を出た。もちろん携帯、スマホ、イヤホンは必須だが。人の目をできるだけ避けるようにして歩く。
ついた先には、大きな大きな中学校校舎。たくさんの生徒で溢れかえる前庭。中央には大きな噴水。入り口にはいつものようにハゲの校長が立っている。めんどくさい。挨拶なんて、したくもないしする意味もない。
「おはよう、暁月くん。君はどうしてそんなに悪なんだい?いい子になれば、いい成績がもらえて、いい高校に行けるんだよ?そしたらだね「黙れ。」校長に対して黙れとはどう言うことなのだね!君は!ええい君はもう……」
「ちょっといいですか。先生。彼女にはきっと何か、事情があるのですよ。そう。例えば、裏の人間だ。とかね。裏の人間相手に、いちいち怒ってたりしたら、体持ちませんよ〜先生。そろそろ年なんですから。昔とは違うんですから。多少は考えないと……ね。」
いきなり現れて、いきなり変なことを校長にぶちかまして、いきなり消えた。ネクタイの色から、3年生ということはわかった。……世に言うイケメン。だった。
「かーなでっ!おっはよ〜!ひっさしぶりだねえ……また何かやってたの?男のお相手?それとも喧嘩?まさかまさかの「死ね。」かなでちゃんひっどーい!久しぶりだから「うせろ。」はーい。」
私に妙にハイテンションに関わってきたのは美和子。めっちゃ仲よさそうに見せてはいるが、そこまで仲良くはない。そうだな。どっちかと言うと私はこの子に"ストレス発散のための道具"として扱われている。
「かなでぇ。てめえうぜえんだよなぁ。1発いいよなぁ。てめえ俺に対して口答えしたんだもんな?あ"?」
はいきたこのパターン。こうなると美和子はめんどくさい。どれだけ殴られても倒れないし、どれだけ殴っても気が済まない。美和子はこう言う時に、自分を保てなくなる。私はいつも、そこそこ殴って退散するのだが、私が学校に来ない間にかなりのストレスが溜まってたようで、逃げることを許してはくれなさそうだ。めんどくさいめんどくさいめんどくさい。
「めんどくさい。」
ぽつりと呟いた私は、少し、本気と殺気を出してしまったようだ。
バタッ
美和子の倒れた音を聞き、私は殺気を抑え込んだ。そりゃもう必死で。だが、周りの女子たちは見ていた。
「人殺し!」
「サボり野郎!」
「人類のクズ!」
「同じ人類として恥ずかしい!」
「死ね!」
「消えろ!」
「人間の恥!」
「学校の恥!」
ああめんどくさい。どこもかしこも暴言吐かないと人間は生きていけねえのかよ。私だって。
__なりたくてこんな人間になったんじゃねーよ。
「少し、うるさいのだが。何か問題でもあったのかい?」
声が聞こえた。男性の。珍しく、私を弁護しているかのような(全くもってそんなことはないんだけど)そしてその人は、さっきの三年生だった。
「君たちの言葉も、彼女の心を殺しているよね。僕も君たちと同じ人類で恥ずかしいよ。学校の恥?それは君たちが寄ってたかって1人をいじめていることじゃないのかい?」
なんなんだこいつは。いきなり出て来やがったと思ったら。いきなり正論ぶちかましやがって。アホじゃないの。面倒ごとの自分から入っていくとか。まあ救ってもらったのは事実だしね。
「ありがとーございました。それでは失礼します。」
ペコリと頭を下げて足早にその場を離れる。
----------------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------
「1人。」
「2人。」
「3人。」
__こうやって、いつまで私は人を殴ればいいのだろうか。私はいつ、解放されるのだろうか。
「ごめんなさい。」
私は首元にあるペンダントに話しかけた。月の光を反射して月の部分がキラリと光った。胸が痛む。
__いつになったら、解放されますか。
----------------------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------
やっぱり学校にはいかないことにした。昨日のでもう、十分。誰があんな学校に行くか!そしてまた、今日も電話が鳴る。
「もしもし、奏。」
「もしもし、爽。お前さあ、俺らの総長に何やったわけ?」
え?私は爽の暴走族とは関係がない。私はただ、爽に誘われて断りに行くために倉庫に行ってただけだ、どうしていきなりそんなことを……。
「いや昨日ね、まあいつものように倉庫に集まった訳ですよ。そしたらいきなり総長が、『明日から俺らの姫は暁月奏だ』って言っていきなり総長室に閉じこもっちゃって……。暁月奏ってお前だろ?だから電話してみたんだけど……おまえ、何やりやがった?」
私は何もやってない。姫になるつもりもない。あんな世界に関わるつもりはない。仲間なんて作らない。
「そう。まあ私には関係ないからいいや。総長さんに言っといて。私は姫になるつもりはない。あなたたちなんかと仲間になるつもりはない。」
一方的に言って切った。やっぱり、悪いことしちゃったかなぁ。思った途端にまた可愛げのない着メロが鳴った。
「もしm「てめえ何勝手に切りやがってんだよあ"?いい加減にしろよおい。」んだよ。爽。要件を言え。」
また爽からだ。何回も何回もなんだよ。
「とりあえずこい、今すぐにだ。走れば3分で着くだろう?そっからここまで来るのに。身支度とかもあると思うから5分だけ待ってやる。5分経ったら……分かるな?」
爽が怒ってる。珍しく、私に対して。それでも5分待ってくれるっていう優しさを持ってる爽はやっぱり苦手だ。いつもの姿をして、昨日のマスクを捨てて、新しいマスクを出そうとした。しかしこれから行くところを考えて、ガスマスクをしていくことにした。道中がとても目立ってしまうが、どうせ人気の少ない路地裏を進むんだ。気にしないでもいいだろう。そしていつも通り窓から飛び降りた。さてと。久しぶりに走りますかねえ。
数少ない特技と言ってもいい中距離走に私は快感を感じていた時、目の前がひらけて大きな大きな倉庫を見つけた。
「奏。」
前にいる不良を睨んで一言言ったら毎度のこと、丁寧にドアを開けてくれた。ほんとにいい不良たちだ。蹴っ飛ばしたくなる。
「爽、来てやったぞ。出てこいよ。人をせかしておいて出てこねーのはねーんじゃねーか。」
__ガチャ。上の方でドアの開く音がした。私は軽く身構えた。ただならぬ殺気を感じたから。でも私は殺気だけでぶっ倒れるような美和子とは違う。私は威圧感を全力で受け止めながら上の幹部室のあたりを思いっきり睨んだ。照明のせいであまり見えないが……。
「ふ、ふはは……君はやっぱり面白い。さあ、幹部室に来てもらおうか。」
めんどくさいめんどくさい。究極にめんどくさいぞ。それに声的に考えて……
__校長から助けてくれたあのイケメン3年生だ……。
あれを貸しにされて今日ここに入れって言われるんだろうか。嫌なんだけどなぁ。究極にめんどくさいし嫌だ。それに、過去が怖くて一歩を踏み出せない。私には族に入る資格はない。仲間を作る、資格なんてない。私は……
「悪いけど、私にはその幹部室に入る資格がない。本来ならば、この倉庫にすら入る資格はない。私はただ、爽に無理言われたから来ただけ。入っただけ。本来ならば入ることすらしなかった。幹部室には、行かない。行けない。それだけよ。」
どこにいるかもわからない、何をしているかもわからないその相手に対して、必死に私は訴えかけた。そして、拒否した。
「君には素質がある。さあ来なさい。なんなら力尽くでも連れて来させるよ?」
あいつは余裕だ。悔しいくらいに。あんな奴に、負けてたまるか。それに……
「へぇ……力尽く?へえ……できるんだ。そんなこと、私相手に?」
言っとくが私は並大抵の相手で勝てるような人ではない。だって私は……
「自然体の人間じゃない私に、あなたは何を求めているの?」
そう、私は……人間じゃない。実験材料。私を産むために使った"もの"は、人工精子と人工卵子。どちらも、人間が勝手に作ったもの。命なんてものは、ない。おかしいくらいに高められた身体能力は壊れることを知らない。私はその実験対象No.530。そして、初の成功体。私以外はみんな……死んだ。
「知ってるんじゃないの?私のこと。どうして私がいくら大きな怪我をしても、出血多量だったとしても、生きていれるこの身体を。私の実験のことも。ハッキングの天才だって、どうせそこにはいるんでしょう?」
私は言った。上から何かが落ちてくるようなそんな気配がした。やばい……。
__どさっ
私の上に男の人が落ちてきた。私は運良くキャッチできたけど、できなかったらどうしたんだろう……あ、落としといたほうがよかったのかもしれないな。
「そろそろ降ろしてもらえるかい?いつまでも女性のあなたに担いでもらっているのは少し面目ないというかw」
はははと乾いた笑いを浮かべて上目遣いにこちらに頼んでくる青年。なんだこいつ。とりあえず私はそろりと降ろしてやる。
「さあ、じゃあ来ようか。」
降ろした途端に手首を掴まれ、引っ張られた。やっぱり男の人なんだなぁって思った。力強えwwwでもまあ私には勝てないよ。今のところはね。私はまあ話を聞くだけだったらいいかなって思って、黙ってついていくことにした。
「顔が怖いよ?さあ、いくよ。」
総長室まではロープで行くようだ。なんともめんどくさい。私は腕力だけでとりあえずロープを登ると、上で待っていた爽にかかと落としを食らわせた。ふっ。ザマアミロ。
「さて、ここが総長室だ。」
倉庫の1番上の階についた時、青年はそう言って扉を開けた。そこは黒と白の簡素な部屋だった。うん。つまんない。一応二段ベッドはあるようだ。それに、そこまで狭くもなく、総長さんと爽、そして私、あと2人の幹部さんが入っても結構広々としている。そうこの中にはこんな部屋があるんだね。
「単刀直入に言うぞ。俺の姫になれ。」
真顔で言う先輩。でも私は依然として姫になるつもりはない。姫になると言うことはみんなに迷惑をかけると言うこと。裏の世界ではそれが常識だ。私は自分1人で生きて行く。
「嫌です。」
「では監禁させてもらおう。」
いきなり出てきた言葉に私は理解ができなかった。ん??監禁?いま、"監禁"って言った?監禁ってあの、私を部屋かどっかに閉じ込めてどーのこーのするやつでしょ?嘘やろ。
「それをして、あなたに何か利益があるのかしら。」
相変わらず無表情で言う。仮にも表情が出てしまっていたとしても、ガスマスクがあるから気づかれないだろう。
だけど
みた感じ私はあの人には勝てない。今はおとなしく従っておくか……。
「まあいいわ。その条件、飲んであげる。でも、私はここには干渉しない。これが条件よ。私が名義上の姫であっても、守る必要も、話す必要もないわ。その代わり私もここにはこないから。それだけ。」
お読みいただきありがとうございます!