〜第7話〜獣人の国の魔王
国境沿いから中心地まで、誰もレオンたちを襲う者はなかった。
それどころか、誰一人として出会う者がいなかった。
フェルナンとの戦いではどこかに行っていたアグバがいつの間にか現れ、そしらぬ顔でついて来ていた。
「どうしたんでしょう、これは?」
レオンは誰にも会わないことに訳もわからず首をかしげる。
とうとう3人は、誰とも顔を合わせないまま、インボイの城にたどり着いてしまった。城も驚くほど静かである。
城の扉を開けるとひとりの獣人が立っていた。オーティズは剣を抜く。
「待て、王がお前たちと会いたいと言っている」
そう言って獣人は3人を城の地下に手招きした。
長い階段を降りると、そこには巨大な空間が広がっていた。
「……なんだここは?」
オーティズは呟いた。
そこは巨大なアリーナであった。
観客席には、街ではひとりも見ることがなかった獣人たちがぎゅうぎゅうに詰まって歓声を上げており、驚くほど賑やかだった。
「地下コロッセオだ」
アグバが苦々しく声を出した。
「インボイの民は戦い好きでな、何か決め事があったときに多数決や話し合いなんてことはしない。戦い、生き残ったほうの意見が通る。さしずめここはインボイの議事堂だ」
オーティズはコロッセオの中心を見た。
そこに黄金のたてがみを蓄えた獣人がいた。
「……やつが」
「そう、インボイの魔王オレステスだ」
オーティズのつぶやきにアグバが答えた。
オレステスは全身から黄金のオーラを出し、咆哮した。そして、その目をレオンたちに向けた。
「ゾゾリマの魔王よ、よく来たな」
コロッセオ中に響く声で言った。
「どうも、インボイ王様、こんな派手なお出迎えわざわざありがとうございます。いやあ、すごいですね」
レオンは人のよい明るい声で答える。
「フェルナンから話は聞いた。ゾゾリマの魔王よ」
「ああどうも。そういえばすみません。お土産、ダメにしてしまって……フェルナンさん怒っていなかったですか?」
「ゾゾリマの魔王、貴様、即位してすぐに我が国に挨拶に来たとか?」
「ええ、是非とも。できればここにいる皆さまに」
コロッセオ中の獣人たちが殺気立った。アグバの顔は蒼白になっていた。
「ゾゾリマの魔王よ。我が国では風習があってなあ……、我が国以外の民がこのコロッセオを訪れた場合、その者はここで誰かと1対1で戦わなくてはならない」
オレステスはにやりと牙を見せる。
「他でもないゾゾリマの新魔王だ。相手はこの私がつとめよう」
この声に獣人どもの雄叫びが呼応した。
オーティズは「どういうつもりだ」と剣に手をかける。
「オーティズさん。そういうわけなんで戦ってきます」
レオンは気楽そうに言った。
「レオン様!!」
「魔子宮の水が教えてくれたことのひとつですが、たぶん【親善試合】というものですよねこれ?しかし親善試合が王どうしの決闘ごっこなんて、なかなかインボイの皆さんはノリがいいですね」
レオンはそう言ってコロッセオに降りたった。