〜第4話〜侵攻のはじまり
レオンは「すごく気合いの入った人だなあ」と思った。
宰相のアグバさんに声を掛けたら、玉座の間中に響きそうな激しい声で応答してくれた。
逆に自分の気合いの無さを恥じ、彼のようにもっと一生懸命やっていくことを心に決めた。
それにしても自分の横に立っているオーティズさんといい、この国は有能な方ばかりだなあとレオンは頼もしく思った。
「あのおすみません。僕が魔王になって最初にするべき仕事を考えました。この国の西の国ってなんて言いましたっけ?」
「インボイですか……?」
魔族のひとりが答えた。
「そうです。そのインボイです。まず最初にそのインボイにご挨拶にうかがおうと思っています」
玉座の間の空気が凍った。
インボイは、ゾゾリマの隣国であり、獰猛な魔獣系魔族を中心とする国である。
そして数百年にも及び、ゾゾリマと戦争状態にある国であった。
「えっと、僕何かおかしなこと言ってますか。是非インボイにはご挨拶をしなければいけないと思うんですけど」
魔族たちの間でひそひそと声があがる。
「……新魔王様、いきなりインボイとやりあうって正気か?」
「インボイはあのレロン様でも殲滅できずに、何度も手負いを負った国なんだぞ」
「……でも新魔王様いいこと言ってると思うぜ。俺もインボイには是非ともご挨拶したいと思っていたところだ」
魔族の一人が腕の傷を見せて言う。
「そうだ、インボイは邪魔だ。あんなクソ国早く滅ぼした方がいい」
そのような声はどんどん集まり、大きくなっていった。
「皆さん。インボイにご挨拶にうかがってよろしいですかー?」
レオンが問いかけたとき、玉座の間中の魔族が「「おーーーーっ!!!!」」と大声をあげた。
「いやあ、いい返事だなあ。そしてアグバさん」
レオンは声を掛けた。
「えっ、何でしょうか?」
「一緒にご挨拶に来てもらえますか?」
「……あの、え?……その?」
「外交が得意なんですよね。お願いします。是非一緒に来てもらえないでしょうか?」
「え……は……」
アグバは顔が真っ青になった。アグバが内通していた国、まさにそれがインボイなのである。
ずっと黙って立っていたオーティズが、はじめて口を開いた。
「レオン様、お言葉ですが時期尚早ではないでしょうか?レオン様がそう決めたのならばわたくしも尽力を尽くしますが、インボイの魔族どもは全身を厚い毛で覆われていて、刃も魔法も通りにくいやっかいな相手です」
「……??オーティズさんごめんなさい。言っていることよく分からないんですけど、お隣さんにはやはり初めましての挨拶をしておかないとまずいですからね」
そう言って、レオンは他の魔族に、ゾゾリマの名産を聞きはじめた。
ここでオーティズは、まさかと思った。
もしかして、レオン様はインボイと戦争状態にあることを知らず、本当に文字通り『ご挨拶』にうかがおうとしているのではないかと。