〜第1話〜新魔王誕生
魔族の国の一つ、ゾゾリマの王が命を落とそうとしていた。
魔王レロンは部屋で横たわり、か細く息をしていた。
恐ろしく広い部屋だが彼の他にそこにいるのは、オーティズという名の魔族だけだった。
「オーティズよ。なぜここにお前だけしかいないかわかるか?」
オーティズは顔を伏せたまま答えようとしない。
「わしはもう間も無く命を落とす……。このことが他の者に知れては、これに乗じて裏切り、他国とともに攻めてくるかもわからんからなあ」
レロンは弱々しく笑った。
「オーティズ。もはや信用できるのはお前だけだ。お前にすべてをたくす」
「はっ、レロン様」
オーティズは顔色一つ変えずに答えた。
「わしが死んだら、あそこにあるスイッチを押せ。実はわしは自らの遺伝子から息子をつくり、あの【魔子宮】に入れておいた」
そこには真っ黒な水がつまった金魚鉢のようなものがあった。中には何者かがいる気配がする。
「魔子宮の中で息子は十分に育ったはずだ。そして、魔子宮の暗黒の水から、人間や他の魔族を八つ裂きにするイメージ映像を数億回と見せておいた。出てきてすぐにそれと同じことを実行できるようにな」
レロンはけらけらと笑ったが、やがて手で口をおおうと紫色の血が吐き出された。
オーティズは駆け寄り、白いハンカチでレロンの口もとをぬぐった。
「……どうやらここまでのようじゃ。オーティズ、息子の名はレオンという……」
レロンはオーティズの目を見つめた。
「……レオンにこの世界を手に入れさせてやってくれ」
レロンは目を閉じた。それが彼がこの世で最後に残した言葉となった。
オーティズはしばらく立ちつくした。
レロンは恐怖をもって国を支配する魔王であり、自らに逆らうものは親族であれ皆殺しにした。
腹心であれ誰も信用しようとしなかった。このオーティズを除いては。
比較的若い魔族であったオーティズをレロンは重用した。
それは一晩の間にドラゴン100頭の首を斬り落としたというオーティズの魔力と残虐性に魅せられたからかもしれない。
オーティズも自分を重用してくれたレロンに対してだけは心を開いた。だから、彼は本当ならば涙を流したかったが、死に対し涙を流す行為など、レロンが最も嫌う行為であるので、決してそれはしなかった。
ただ彼の遺言だけを遂行しようとした。
オーティズはスイッチを押す。
魔子宮は剥かれた蜜柑のように開き、黒い水が床に流れた。
そして、人影が現れた。
それはレロンが言っていた通り、十分に育っており、背丈はすでに180cmほどあった。
現れた人影はオーティズを見た。オーティズは人影の目が見開かれると同時に平伏した。
「魔王レオン様、わたくしが配下のオーティズでございます」
オーティズは自分の声が震えているのがわかった。この者はなんと禍々しい顔をしているのだろう。
「これからレオン様のために忠誠を尽くして参ります」
オーティズは期待と恐怖で胸が震えた。彼の顔を見た瞬間八つ裂きになり殺されるかと思った。
それほど、レオンの邪気は凄まじかった。
その人影はしばらくして言った。
「あの、顔上げて立ってください。床、濡れてるから冷たいですよ」
「……は!?」
オーティズは思わず見上げてしまった。
「それにレオン『様』って、オーティズさんの方が人生の先輩なんですから、『レオン』で呼び捨てでいいですよ」
そう、禍々しい顔が言った。
「あ、見苦しい姿ですみません。今、服着ますんで」
そう言って一度レオンは奥に引っ込んだ。
オーティズはぽかんと立ちつくした。