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始まりの日、残り三日。




「お願いします異世界の勇者様! どうかこの世界を救ってくださいませ!」


 曇り空から差し込む僅かな光を反射してキラキラと輝く金髪に、エメラルド色の瞳をもつ女性――スグホローブ王国の王女、ウリューリュ=スグホローブが涙を零しながらそう言った。


「たのむ……国民も守れぬ不甲斐ないこの王に代わって、魔王を……倒してくれ…………!」


 同じく鮮やかに光を纏う金髪とエメラルド色の眼を持つ男、現スグホローブ王国国王、ラーバラー=スグホローブが傷だらけの手で金色の剣を差し出す。


「は、はぁ……?」


 念の為後ろを振り返っても、後ろにはでかい広間があるだけで人は誰もいない。二人の視線の先にいるのは俺一人で勘違いのしようもないし、巻き込まれたと言うわけでもないらしい。

 つまり、ヨレヨレになった制服を着て標準サイズの通学カバンを脇に抱える俺は、勇者様らしいのだ。





 異世界。


 召喚やら転生やらでよくよく見かける物語のテンプレート背景としては夏場の蝉のごとく当たり前となりつつあるが、まさか自分が異世界に行くとは思わなかった。


「勇者様、キュイラスの前後が逆でございます」

「えっ、あぁホントだ。道理で首が締まるはずだ」


 特にいじめられてたとか特殊な家系とかは全然無く、普通の学校生活を送っていた高校生こと俺、雪州(ゆきす) 創和(そうわ)は二時間ほど前にこの異世界「バレガーン」へと召喚された。

 始まりはこれもベッタベタな「学校帰りに急に足元に魔法陣が~」と言うやつなので、詳細は割愛する。なにせ時間がないのだ。


「勇者様、グリーブの紐を掛け違えておりますぞ」

「……うん。考え事してたからかな」


 突然のことに魔法陣の上でボケーとする俺に、おそらく召喚を行ったのだろう王女様からその理由が説明されたのがおよそ30分前。

 どうやらダメ元での召喚であり、まさか成功するとは思ってなかったらしい王女様の動揺で主語や述語がバラバラの説明を整理すると、


 一年前に突然封印されていたはずの魔王が表れ、人類と敵対。平和にゆるゆると暮らしていた人々は対抗策もなくどんどん襲われ、捕虜にされており、もうこの世界には今いる王国「スグホローブ」にしか人類の生活圏がない。

 現在、魔王は王国の外壁近くに陣取っており、明らかに王手をかけられている状態だが、ここで何故か魔王が舐めプを始め、攻撃が一旦ストップする。

 同時に魔王から「5日だけ待ってやる。最後の人類としてなにか足掻いてみせろ」という煽り100%の書状が届く。

 王国が大急ぎで対抗策を探したところ、玉座のある謁見の広間という場所から地下につながる通路を発見。その奥には巨大な宝物庫があり、魔力を自動検知して吸い取る掃除機「ルババン」や水中から望みのものを釣り上げる釣り竿「正直者の金銀竿」などのマジックアイテムがわんさか見つけられたらしい。

 そんな中、宝物庫の隅っこから「禁忌ゆえに最大の緊急事態以外での封印解除を禁ずる」と書かれた異世界召喚の魔法陣が複数発見された。

 人類が滅びかけているのでまさに緊急事態だろう、禁忌など知ったことかと国王はすぐに魔法陣を起動することにした。

 が、

 召喚は無残にも次々と失敗し、その間になんと2日が経過。

 国民の願いも虚しくラストの一つとなってしまった魔法陣をどうせダメだろうと半ば投げやりに発動したところ、俺が呼び出されたのだそうだ。

 召喚の魔法陣には様々な魔法が付与されていて、双方の言語の理解を可能にするのはもちろん、召喚された者の能力を全体的に上昇させる力まであった。

 そして、そんな俺はこれから魔王と戦う事になるのだ。



 要約すると、


 残り3日で魔王を倒して下さい


 と言うことらしい。



 はっきり言おう。

 無理だ。

 理由としては、時間が短すぎるとか、俺自身まだ混乱が抑え切れていないのにすでに鎧を着せられているからとかもあるが、なんと言っても召喚の魔法陣からの支援の無さ。

 簡単に言うと、お約束的なチート付与の無さだ。


 いろいろな魔法が付与されているという話だったが、ゲーム的に言うと無制限の言語理解、身体能力の微上昇、病原菌へのある程度の耐性のみ。

 普通にこの世界で生活するならこれだけでも十分なんだろうが、あいにく今は普通とは程遠い。

 これがもし、能力奪うとかいっそのこと無敵とかのチートな力なら3日でも魔王を倒すことは可能かもしれないが、現状は50メートル走のタイムが6.5秒から5秒になるぐらいの強化。壁を殴ったところで壁面が壊れることもなく、ただ硬いレンガを殴った俺の手が痛くなるだけ。地味。そもそも強化元が運動もそんなにしているわけでもない帰宅部の男子高校生なのだ。何故トップアスリートを召喚しなかったのか甚だ疑問な所。


「これ兜を被れば準備完了ですわ。ガントレットを左右逆につけられた時は焦りました、注意してくださいまし」

「ありがとうございます。…………あと、大変ご迷惑をお掛けしました。以後気をつけます」


 と、そんな事を考えている間に鎧を装着され終えてしまった。

 手伝ってくれたのはここの執事さんとメイドさん、あとは王女様だ。

 用語で言われても鎧の着方とか知らないのでどこがどれか分からず完全に戦力外だった。

 あとメッチャクチャ暑い。


 最後に左腰に固定したのは王様から直々に手渡された宝剣「レオグルス」だ。

 唯一の武器だが腰にある時点でなかなかの重さで、うまいことバランスが取れずに俺の体がちょっと斜めになっている。しっかり持てるのかも怪しい長剣だが、他にどうしようもない。


 レオグルスは宝物庫からつい先ほど発見された武器で、伝説で代々語り継がれてきた、敵対するものを一振りで地平線の彼方まで吹き飛ばしたという逸話のある宝剣だ。が、言い換えるとしまわれて以来整備も一切されておらず切れ味不明、頼もしげな逸話も俺の腕力の関係で不安になる金ピカの剣である。


 初期装備がひのきの棒でないことを喜ぶべきか、自分の筋力のなさを嘆くべきかはわからないが、とりあえず逸話の通りなら強力なノックバック効果付きのこの剣があれば多少なりとも時間稼ぎが出来るだろうというのが今の希望なのだ。

 もちろんこれで倒せるならそれに越したことはない。


 RPG的なアレコレを考えると魔王は封印を解かないとダメージが入らないとか魔王特攻付きの武器なんかがなければ勝てないのがお約束なのだが、あいにく魔王に挑んだものは誰も帰って来ておらず、魔王の持つ力が何一つわかっていない。

 仮に挑んで俺が普通に死んだとしても「おおゆうしゃよ……」な展開でリスポーンできるならいいのだが、それが可能かわからない状態で試しに死んで見るほど俺は馬鹿じゃない。


「それじゃあ、行ってきます」

「ご武運をお祈りしていますわ。勇者様」


 王女様からの激励の言葉を受け取って城を出る。

 外壁の門までは大通りが一直線に貫いており、普通に進もうものなら街の人々の注目を引きたい放題だろう。

 だが、今始めて城の外を見渡す俺の目には、人など一人も見つけられない。

 それもそうだ。もう目の前まで魔王が迫っているというのに、当たり前の日常生活など続けられるわけがない。人々は窓を閉ざし、扉には厳重に板を打ち付けて、襲撃から一秒でも長く生き延びようとしている。たとえそれが気休めだとしてもだ。

 だからこそ、俺はこの人たちを守らなければならない。

 負ければ魔王は街に攻め込み、世界をその手に収めるのだから。

 魔王の統治下におかれた町では、人権といったものはなく、人は労働力としてではなく魔法研究の実験などのモルモット代わりとして使われているようだ。生死など考えるまでもないだろう。


 ちなみにこの異世界召喚はなにやら怪しげな制限とかはなく、こちらの自由で向こうに帰ることができるため、ここから逃げ出し手元の世界に帰るのも有りなのだ。その場合はこの世界の残り少ない人々を見捨てることになるが、ここにきてまだ2時間程しか立っていない。

 人間性的にどうよ? ということさえ置いておけばいきなり見ず知らずの人に無理難題を押し付けられただけなのだから、逃げてもかまわないのだ、が……


 ついに外壁の門までたどり着き、もうこの扉を開ければ戦いの場に出るという今になっても、何故か逃げることは一切考えていない。

 俺は振れるかも分からない剣を持って、着たこともない分厚い鎧を着て、戦おうとしている。

 死ぬかもしれないのに。

 死んだら向こうへは帰れないかもしれないのに。

 これは夢でも新作のゲームでもなく、現実なのに。


「勇者様、ね……俺ってそんなガラじゃないんだけど」


 腰につった宝剣は予想より重くて、相変わらずバランスが取れないけど。

 戦うか、帰るか。(逃げるか)

 きっと、このまま進めば俺は戻れない。負ければ死んでここに骨を残すことになるだろう。勝てば勇者としてこの国の人々と繋がりができるのだろう。


 死ぬのは怖くて、戦いなんてしたくなくて。

 でも、逃げたくもないのだ。


 突然こんな非日常に放り込まれて、物語の主人公みたいなポジションに立って、詰みゲー同然でも挑んでみたい。

 これを逃したらもう二度とこんな非日常は来ないだろうから、経験してみたい。


 簡単に言うと、テンションが上がっている。


 妄想の中にしか無かった非日常を手にいれて、主人公にならないなんてもったいなさすぎる。

 その思いが俺の足を進ませる。城を出て、街の外壁を越えて、魔王の元へ。


 この世界を救うために!







 魔王は、なんというかイメージ通りだった。

 ねじれた角に、紫に近い黒の皮膚。俺より二回りほど大きな体には時折紅い光が走る。血のような赤い眼は油断なくこちらを見つめている。


 魔王が予想よりも遥かに外壁近い位置に居た、というか入り口の門のすぐ後ろに居た為、開門したと同時にダッシュしようとしていた俺は度肝を抜かれた。

 一応ここでドンパチを始めると確実に街に被害が出るという冷静な判断から、決戦は少し離れた草原で行うことにした。王なので統治後のことも考えなくてはならないのだろう。


 人類の敵である魔王と、それを倒す希望としてこの世界に呼ばれた俺が揃ってテクテク草原を目指して歩く姿はなかなかシュールなものだ。そして当事者である俺はだんだんと冷静になってきて死に対する恐怖が生まれてきた。


「ところで勇者よ、何故ニンゲン達の味方をするのか、その理由を、覚悟を聞いておこう。もしや単純に、召喚されたのがヒト側だったから、などということは無いだろう?」


「っ……アンタの統治が人にとって悲しみしか生まないから……それだけだよ。それを止められるならなら死ぬのも怖くないさ」


 嘘だ。

 死にたくないけどもう後には引けない。さっき通った城門があんなにも遠い。


「ありきたりなセリフだな。せっかくの異界の勇者と期待したが我の見当違いか。それとも単純に、我が期待を持ちすぎただけか」


「俺が勇者にふさわしいかどうかは俺が一番疑問に思ってるんだけどな。でもこういうのはいいところまで行って、勇者が勝つのがお約束っていうものだからな。ところで、なんで俺が勇者だって分かったんだ? 俺が呼び出されたことが伝わるにしても早すぎる」


「それこそ単純に、あれだけ強力な魔力と召喚術特有の光と空間の歪み。見逃すはずがなかろうて。」


「あー、確かに召喚された時にすげぇ光に包まれてたな。あれってそんなに見えるもんなのか」


「ふむ。それは単純に、我の視力がいいからであるな。並の魔族と同じにしてくれるな。我は全ての魔を統べる者、魔王であるからな」


 ねじ曲がり、針のように尖った角を撫でながら魔王が続ける。


「もう十分であろう。いざ、戦を始めようぞ」


 気がつくとすでに随分と街から離れている。

 魔王はどこからともなく銀色のグローブを取り出してファイティングポーズをとった。分厚い雲で辺りは薄暗いというのに僅かに発光するグローブ。恐らくマジックアイテムだ。


 こちらも宝剣を抜く。

 ノックバック効果を期待しているので受けに回るつもりは一切ない。

 不格好でもいいから、剣を振って相手に当てる。

 距離を開けられれば良し。ダメならそのままDEAD ENDだ。


 ぽつ、とついに空から落ちた雨粒を合図に、草原に金と銀が閃いた。





 まあ、この世界にきて初日で魔王討伐とかやっぱ無理だよなぁ……と草原に転がる俺は思うのだ。


 斬りかかった直後にいきなり魔王の姿が消え、気がつくと宝剣を吹き飛ばされた上、腹部に衝撃。

 地平線の彼方までとは行かないがそれなりにふっ飛ばされた俺はしばらく気絶していたらしい。


 降りはじめた雨は笑うようにざあざあと音をたてて俺を濡らしていく。

 兜の隙間から入ってきた雨粒がうっとうしいがそれにかまう気力もない。


 魔王は何故かとどめを刺すわけでもなくこちらを見下ろしながら横に立っている。

 かと思えば、あの宝剣「レオグルス」を脇に放り投げ、言葉を紡ぐ。


「それにしても、そのような剣で我に歯向かおうとは舐められたものだな」


「えっ? どういうことだ?」


「その剣では我はおろか、大根にすら傷はつかんと言っているのだ。これから戦に向かう者にそのような剣を渡すとは、冗談のつもりか、武王ラーバラーよ」


「いやさすがに大根は切れるだろうけど、傷つかないってもしかしてバリアーとかあるのか?」


「単純に、我には破魔の力を持った刃しか通らぬということだ。我は純粋な魔力だけで構成された存在であるからな。魔法も、打撃も、斬撃も、刺突も、破魔の力がなければ傷になることはないというだけだ。まあ、破魔の力を持った武器など我は伝説に残る聖剣しか知らぬがな」


 案の定。

 つまり魔王には特攻攻撃以外は無効で、俺にはその特攻攻撃が使えるのか不明。

 というかすでに敗北してるんで、今更武器を伝説の宝剣から伝説の聖剣にチェンジすることもできないだろう。


 もう首をはねられて終わりの未来しか見えない。


「何なら今から聖剣を探しにゆくか? だが、どこにあるかすら分からぬ剣だ。貴様が戻ってくる頃にはあの国はもう無いだろうがな。単純に、時間不足という事だ」


「ぐっ……」


「時には、諦めも必要ということだ。若い英雄願望に動かされたとはいえ、我に挑もうとするその姿勢は確かに勇者である。しかし蛮勇。単純に、我が格上ゆえの敗北」


「返す言葉もないとはこの事だな。王様の連絡ミスもあるけど、それだけじゃない。あまりにも策がなさすぎたよ」


 正直、ノックバックでどうにかしようとか頭がおかしいとしか思えないね。誰だよこんな作戦考えたの。


「ふん。武王の罪としてではなく単純に、己の無策を嘆くか。これではつまらぬ。我はヒトの足掻きが見たいと言ったぞ、異界の勇者」


「そんなこと言われてもなぁ、武器を取りに戻れるわけでもないだろ」


「構わぬ。単純に、時間にはまだ猶予がある故な」


「へ?」


「構わぬと言ったのだ。我は足掻きが見たいと言っているだろう。今の戦況では単純に、そこらの虫を潰すのと変わらん。我は貴様らニンゲンが必死に足掻いて身につけた技、武器、戦略を正面から立ち向かい、破ってみせよう。かつての三王との死合のように全力の戦がしたいのだ。幾度も挑み、敗れ、策を練り、立ち向かうが良い。そのための5日間なのだからな」


「えぇー……」


 つまり、残りの時間はトライアンドエラーを繰り返して魔王に挑戦できるということか。

 それならまだ希望があるか? 破魔の力を持つ魔法使いを探せばなんとかなるかもしれない。


「我を楽しませよ。ニンゲン。あとその剣がどんな骨董品かは知らぬが、戦の前に自らの武器ぐらいは確認することだな勇者よ」


 そう言って魔王は街へ向かって歩きはじめた。

 恐らくは自らの陣地へ帰るのだろう。敗者である俺はまだしばらく動けそうにない。というか元の世界では体験したことない吹っ飛び方したけどよく無事だったな俺。ていうかなんで生きているんだ。

 よく見ると魔王が放り投げて脇に転がっている宝剣は、刃が鋳潰されていた。


「そりゃあ大根も切れないわ」


 しばらくして体のしびれが取れた俺は、街に帰ったらとりあえず包丁でも手に入れようと、剣を引きずり帰路についたのだった。


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