阿玉岡 椎子
目が覚めると、そこは森の中だった。
おかしい。俺は自分の部屋の布団で寝ていたはずだ。
まわりをみると、俺と同じように寝ている人間が4人、起きておろおろしているのが1人いた。
「異世界転移ってやつか」
俺は、寝起きであまりまわっていない頭で、ぼんやりとそう思った。
※※※
全員が起きたので、自己紹介と今後について話し合うことになった。
「とりあえず、食料を調達せねばならんな」
学者っぽいおっさんが言った。104号室のおっさんだ。
どうも転移してきたのは、みんな同じアパートの住人だったらしく、知ってる顔も多い。
「林間学校みたいですね。しー子、わくわくします!」
201号室の女の子が、緊張感のないことを言う。
たしか、名前は 阿玉岡 椎子だったっけ。
「のんきなことを……」
「猛獣がいるかもしれないんだぞ」
103号室と203号室がしー子に説教を始めた。
「まあ、それくらいにして、まずは食料をさがそう。念のため、2人か3人で行動するように」
学者がリーダーシップを発揮している。
204号室のお姉さんはそんなおっさんにうっとりしているようだ。
ちっ、早くも2人組成立かよ。
※※※
1日中さがしまわった結果、湧き水は見つかったが、このあたりには果実はなく、動物もいないようだった。ただ、紫色のキノコだけは、あちこちにはびこっていた。
「おなかすいたよ。これ、食べちゃダメなの?」
しー子が、キノコをじっと見ながら言った。
「いや、こんな毒々しい色のキノコ、食べる気がしないだろ」
俺が答えると
「おいしそうだよ。紫いもみたい。みんな食べないなら、私もらうね」
パクッ
阿玉岡 椎子が死んだ。




