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キノコの森  作者: テツ
1/6

阿玉岡 椎子

 目が覚めると、そこは森の中だった。


 おかしい。俺は自分の部屋の布団で寝ていたはずだ。

 まわりをみると、俺と同じように寝ている人間が4人、起きておろおろしているのが1人いた。


「異世界転移ってやつか」

 俺は、寝起きであまりまわっていない頭で、ぼんやりとそう思った。


  ※※※


 全員が起きたので、自己紹介と今後について話し合うことになった。


「とりあえず、食料を調達せねばならんな」

 学者っぽいおっさんが言った。104号室のおっさんだ。


 どうも転移してきたのは、みんな同じアパートの住人だったらしく、知ってる顔も多い。


「林間学校みたいですね。しー子、わくわくします!」

 201号室の女の子が、緊張感のないことを言う。

 たしか、名前は 阿玉岡 椎子だったっけ。


「のんきなことを……」

「猛獣がいるかもしれないんだぞ」

 103号室と203号室がしー子に説教を始めた。


「まあ、それくらいにして、まずは食料をさがそう。念のため、2人か3人で行動するように」

 学者がリーダーシップを発揮している。

 204号室のお姉さんはそんなおっさんにうっとりしているようだ。

 ちっ、早くも2人組成立かよ。


  ※※※


 1日中さがしまわった結果、湧き水は見つかったが、このあたりには果実はなく、動物もいないようだった。ただ、紫色のキノコだけは、あちこちにはびこっていた。


「おなかすいたよ。これ、食べちゃダメなの?」

 しー子が、キノコをじっと見ながら言った。


「いや、こんな毒々しい色のキノコ、食べる気がしないだろ」

 俺が答えると


「おいしそうだよ。紫いもみたい。みんな食べないなら、私もらうね」


 パクッ





 阿玉岡 椎子が死んだ。

 

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