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第四章 タンペイと琥珀

 タンペイ宅は、この街の中心に有ることは行ってみれば良く判った。誰もが羨むような豪邸。そして、強欲を尽くしているだけある、門構え。俺は得意げに鼻の頭を指で擦った。

さてと。

「頼もう!」

大きな声で、門の戸を叩く。中は、行方知れずとなった、リンネンの捜索でバタバタと忙しそうにしていた。そして、戸が開いた瞬間、いつもの調子で、俺は後先考えずに、

「おっと、失礼!」

 出てきた男に対して回し蹴りを食らわせた。マントが翻る中、バインが飛び出してくる。

「何者?曲者だ!であえ〜!!」

 中の従者共が、一斉に俺に向かってくる。こんなのは朝飯前だ!

「バイン!」

 俺は、炎が巻き上がる刀に変身したバインの柄を取り上げると、一気に住居内に進入したのである。

 俺の信条その壱!


『盗みはやるが、人殺しはしない!』


 立ち回りは豪快に且つ慎重に!この炎は業火。自らの身を守る物。決して自らを焼き尽くす事はない。それが俺の宿命。

「近寄ると燃えるぞ!それでも良いってんなら俺は遣り合っても良いんだぜ?」

 下段に構えた剣をジリジリと番人たちの前に突き出す。逃げていく者もいれば立ち向かって来る豪傑もいる中、俺は先を急ぐ。俺の持つ炎は一気にこの豪邸を焼き払う様に振りかざしていた。だってこうすれば、諸悪の根源の親玉、タンペイを燻りだすことが出来るからだ。

 それを悟った者の一人が、屋敷に入っていくのが見えた。俺はそいつの後ろを追うように駆け出したのである。


「ご報告いたします!ただいま賊の一人が入ってまいりました!不思議な力を秘めた者です!今すぐ此処を離れてください!」

 一気にまくし立てた男はその場に力尽きるように倒れた。その様子を女をはべらせた狸親父のようなタンペイが、悠長に寝そべっている。

「ふん!時空管理からの要請が来ている賞金首のあの者だろうな。琥珀!お前の出番だ!」

 襖の奥に控えていた着流しの浪人風の男はその言葉を聞き入れて立ち上がった。そして、

「御意!」

 その場を下がったのである。


「アンニャロ!何処行きやがったんだ〜!」

 俺は、追い掛けたのは良いが、立ち塞がる敵と、襖を開けるたびに出くわし、足止めを食らっていた。屋敷の五分の一は火が回っただろう。煙と炎でうざったい。そんな中、今倒した敵を押し退け次の襖を開けた。すると、そこで今かと待ち望んでいた者であろう?ヒョロリと痩せた着流しの男が剣を携え立っていたのだった。

「いつまでその威力が続く事かな?」

「ふーん。こりゃまた自信ありげなことで?」

 俺は炎が上がる剣を下段に構える。すると、浪人風の男の後ろから『スルリ』と大蛇が現れ、男の右腕に這い上がってくる。

「ブッキミ〜」

 男はそのまま右腕を上げると、蛇はグルグルと巻き上がり、その掌の先まで来ると、蛇の目がピカッと光り大剣に変わる。

「キュルル−ン!」

 突然、バインの剣が同調するように鳴き始めた。

 浪人風の男が一振りすると、金色の鱗粉が辺りに舞う。その鱗粉が俺の方に流れてきた為に、俺は剣を大きく振る。『ブオッ』と炎が燃え上がると、鱗粉を燃え上がらせた。

『パラパラ』とその燃えカスが足元に落ちた。しかし、それ以外の畳や障子が、見る見る間に砂に変わっていた。

「あぶねー!」

俺は、浪人風の男を睨み付けた。

「テメー!何者だよっ!」

 すると、浪人風の男が、額に巻きつけている布をスルスルと取り去る。そこには、飴色の黄金色をした石が埋め込まれていた。

「我が名は琥珀。もう忘れたか?ルマインよ」

 ルマインのことを知っている?と言う事は、こいつは時空管理の……それを見たとき、俺の右目をズキリと鈍く痛み、眼帯から赤色の血が滴り落ちてきた。

「へ〜直々のお出ましかい?大げさなこって!さてどうするよ?バイン?」

「キュピッピッピー!」

「そうかよ!なら任せたぜ!」

 俺は、バインの言葉を受けて琥珀に飛び掛って行く。額を狙うかのようにして、剣が振りかぶられる。が、それを受け止める琥珀。

「ルマイン?お前自身で戦う気はないのか?」

 不敵な笑いの琥珀。

「キュロッピー!ピッピー!!」

「ふん!テメーごときに出てくるつもりはねぇ〜とよ!」

 横に振り切られる剣。炎が『ブワッ』と広がる。

「好戦家のお前がか?ならそのまま戦うがいい!一体何時まで保つかな?」

 琥珀の持つ力の一部なのであろう。かなりの飛躍で俺の頭上を越え、背後に回り、剣を槍に変化させて突く。俺は間一髪で避けるが、マントの右袖部分がサラサラと砂になり落ちた。そのことに気がつき、俺はマントを脱ぎ捨てる。現代風のタートルネックにジーパンの真っ黒な身を『ピタリ』と包む服が露になった。

「やろー!なめやがってー!」

 俺の剣も変化し、ヌンチャク状態になる。『ヒュン』と琥珀めがけて放たれるが、槍で振り落とされる。上手く的に当たらない。

「何とかなんねーのかよ!」

 苛立ち始める俺。実、短気であった。

「ピッピッピーーーー!!!」

『ボッ』と炎が大きくなる。その炎が俺の手を覆うように発せられたので、

「アチ―!っておいっ、怒んな!」

 俺は思わずヌンチャクを落としそうになっちまった。

「バカ同士だな……」

 クククと嫌味な笑いがこぼれている。

「バカはその分しつけーの!さっさとくたばりやがれっ!」

 琥珀の挑戦に乗って、俺は、炎の舞い上がるヌンチャクを頭上で振り回す。

「バカの一つ覚えか……くだらん」

 琥珀は、再び宙に舞う。しかし、その宙に舞った瞬間を俺は見逃さなかった。待ってましたとばかりに、ヌンチャクを矢尻に変化させる。そして、飛び上がり炎を影に炎が消える瞬間を見計らうと、宝石の有る額を目掛けて振り下ろす。

「何!不覚……」

『パリーン』と琥珀が割れる。俺は着地して、

「ざまーねぇや。へへん!さあて余興はここまで!と次急ぐか!」

 しかし、その浪人が、サラサラと砂になって崩れ去るのを見て一瞬緊張が走る。自らの最期は?でも、その様子を一瞥すると、再び自らの使命を果たそうと、再奥へと走り出した。来た道の柱が炎で崩れ落ちていった。

 辺りの部屋が炎に包まれているところに、一箇所だけこの部屋はまだ安全であった。『バンッ』と俺は勢い良く襖を開ける。

「テメーがここの地主って奴かよ?奇妙な配下差し向けやがって!」

 その言葉を聞いてひれ伏すかのように土下座をするタンペイ。ある意味気持ちが良い。

「済まない!許してクレ〜何でも言うことを聞こう!時空管理鉱物取り締まり研究所にも黙っていてやる。だからこれ以上……」

 余りにもへつらうタンペイに拍子抜け。しかも、逃げもせずこの場所に留まっている以上、剣を向けることも莫迦らしく思った俺は、

「ふん!なら、お前が持っている全ての金と、明日ある結婚式ってやらをチャラにするってのなら考えんでもないね?」

 バインは元の姿に戻り、俺の肩にちょこんと乗っかっている。タンペイは顔を上げ、

「おおっ、ありがたや〜それで許してもらえると言うのであれば、いくらでも持っていってくれ!金は、裏の蔵に有るぞ!鍵は此処だ!」

 まるで、用意でもしてあったかのように、鍵はタンペイの正面の畳の上に置かれた。そして、それを取ろうとした俺はかがみこんだ。

「ヘッヘッ!察しが良いじゃない!」

 それを見て、ニヤリとタンペイが口の端を歪ませた時、

「覚悟!」

 安心させての非常極まりない行為。背後で、配下が俺の背中を狙って刀を振り下ろしていた。しかし、肩に止まっていたバインが真剣白羽取りで防ぐ。

「キュルッピー!」

 何処にそんな力があるのか?バインは刀と部下ごと吹き飛ばしていた。

「どーもバイン!やっぱり許さない!」

 手の指を『パキン』と鳴らすと、バインは炎の剣に早代わりして、立ち上がった俺の右手に収まる。そして、タンペイを見下ろし、剣を振りかぶった。

 炎上するタンペイ宅のその中で、

「ぎゃーーーーーーーーーっっっ」声は響き渡ったのである。

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