二日目
「いってきまーす!」
元気よく家を飛び出したはいいものの、いつもうちの家まで来て一緒に学校に行くはずの友人の姿は、もちろんなし。ふわあ~ん、さすがに悲しい……。ぐすぐす。
半べそをかきながら学校に到着。ねえねえ、マジで、私何かしました? 無視しないでーっ!
昨日は突然のことに驚きつつもまあさっぱりすっきり終わらせた。けど、これが何日も続くと、私のメンタルとかなんとかもゆっくりと確実に抉られていくわけであってうんたらかんたら。……よし、気合入れていこう。
「おはよっ!」
教室のドアを開けて、そう言う。もちろん、教室の中から返事はない。しかも、さっきまで楽しそうにおしゃべりをしていた人たちがみんな、しーん。何事もなかったかのように無視してくれればいいのに、変に反応してくるからうっとうしい。しーん。
みんなはこっちに視線を向けてくる。しかも、この時間がまた長い。しばらくそれに耐えていると、やっとみんなが私の方から視線を逸らして、おしゃべりを再開した。もう、なんなんだ……。
授業中は特に何もなかったから割愛するとして、問題は昼休みの出来事だった。引きずり込まれるようにしてトイレに連れられた私は、ぽかーんとしていた。
「あの、なんか用?」
「なんか用? じゃないわよ! ほんとこいつうっとうしい。マジで死ね」
いきなり死ね!? なんか用って言っただけで死ねとか言われなくちゃいけない感じなの!? えー。なんだそれ。てか、うっとうしいのはそっちなんですけど……。
私は呆れてものが言えなかった。なんてバカバカしい。まあ、いじめなんてそんなものか。理由もなくいじめて楽しんで、飽きたら捨てる。きっと、いじめる側からしたら、使い捨ての拾ったおもちゃみたいなものなんだよね。
「まあまあ落ち着きなよ」
私に対して死ねとか言ってきた女の子をなだめたのは徂徠さん。なんということでしょう……この偽善者っぷりはもうすばらしいです。尊敬です。
「ねえ、片原さん?」
「は、はい?」
なんでか笑顔で私の顔を覗き込む徂徠さん。笑顔すぎて逆に怖い。ねえ、本当に何? 何も用がないなら、私、図書室に行って本を返しに行きたいんだけど。てか、ほんと女子ってトイレに集まるの好きだよね。なんでトイレを選ぶのか、もうその神経が理解できないよ。なぜにトイレ?
「あたしたちさ、片原さんのことが嫌いだったんだよ。かなり前からね」
「あ、ハイそうですか」
「ちっ死ね」
そこーっ!! なんで私に死ね死ね言うかなあ! 名前知らないけど、そこの女子っ!!
本当に、理解が出来ない。いや、いじめられっ子がいじめっ子の気持ちを理解できたらもうそれは既にいじめられっ子といじめっ子の関係ではなくなっているな。
「だからさ、消えてくれない?」
徂徠さんは、私への暴言をまるっきり無視して続ける。ん? 今、なんて言いました?
「どうやって?」
方法は? 手段は? 作戦は? ……ん、あれ、なんかおかしい。
「どうやってって……死んでくれたらいいんじゃん」
「おお」
最近の女子中学生はすごいなって思う。人に簡単に死ねって言えるだけじゃなくて、本気で死んでほしいと願ってるよ……。いやー、本当に分からないね。どうしてそんなに軽々しくそんなことがいえるんだろう。私、鋼のメンタルを持つ女の子で本当によかった。