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お義母さん

「うん、帰ってたけど。あ、おかえり」


 私はそう言って愛想笑いする。お母さん、とはなるべく言いたくない。だけど、この『お母さん』がうちに来たのは最近の事じゃないから、そう言わなきゃ心配かけちゃう。


「ただいま。――――萩香、純香は?」


 お母さんは険しい顔で私に尋ねる。ねえ、純香の名前を出すときに眉間にしわ寄せないでくれない? なんか怖いんですけど。


「えっと、部屋」


 私が答えると、今度はちょっと嫌味になってくる。


「そう。あの子ったら、いっつも部屋に引きこもって何してるのかしらね」


「勉強だよ。宿題、してんの」


「そう。勉強ばっかりしてるなんて、可愛げがないわね」


 お母さんは、多分、純香のことを可愛げのないひねくれた子供だと思ってるんだよね。だから、純香とは正反対の単純でおバカな私はお母さんから好かれている。こういうの、なんか悲しい。私も、こんなのは嫌なんだ。


「可愛げがないなんて、本人の前では言わないであげてよ」


 ふくれっ面で不機嫌な雰囲気を出しながら言うと、お義母さんは「そんなの決まってるじゃない」と平気で答えてくる。うーん、分かってないんだよなあ。

 その時、ぴょこっと純香が階段を降りてきて顔を出した。すごく、普通の顔。口を開きかけて、お母さんがいることに気付くとその口を閉じて睨みつける。わわわ、それがダメなんだってば!


「こそこそ、よく言うよね」


 私の方は一切見ないで、純香は淡々とした口調でそう言った。こそこそ……って!!


「まさか純香、さっきからそこに――――」


「なんだ。純香、あなた盗み聞きしてたの」


 私の声を遮ったのはお母さん。盗み聞きなんて、人聞きの悪い言い方をしてる。なんであんな嫌味なのかな? ってか、純香、階段で立ち聞きしてたの!? ということは、お母さんの悪口も聞いてたってこと。だから、こそこそ言うよね、とか言ってたんだ。ふわああ……。家族なのに、めっちゃくちゃ怖いよ。

 純香は腰のあたりまでのびている自分の黒い髪を、うっとうしそうに後ろに払いのける。まだ小学六年生で、背も小さめ。私よりも十センチくらい低いんじゃないかなってくらい。だけど、お母さんを見上げる目は、誰よりも強くてまっすぐだった。


「盗み聞き? こそこそ悪口言ってるような大人に言われたくないんだけど。こんなのが私たちの母親だから、私がひねくれたのかもね。お姉ちゃんが純粋だったぶん、さ。おかしいよね、笑っちゃう。私、純香って名前なのに、全然純粋じゃないもんね」


 純香は楽しそうに話す。そして私と目が合うと、にっこりと微笑んだ。こうやってキツイこと言ってるけど、ほんとは純香だって優しい心を持ってるんだけどな……。それに、純香は十分純粋なんだけど。人のこと信じられるし、鈍感だし。……う~ん、これは純粋とは言わないのかな?


「何をバカなこと言ってるの? そんなのだから友達が出来ないのよ」


 お母さんの一言に、純香の顔色が変わった。彼女には、友達と言っていいような女の子がいない。一人いるとすれば、学校の違う希望ちゃん。だけど、そのことはほとんど会わない。まあ、はっきり言って友達は学校にいない。でも、それが義理の母親の言う言葉? やっぱり、お義母さんって分からない。


「あんたみたいなのに心配されても何の役にも立たないよ? そんなこと言ってる暇あったら、さっさと晩ご飯作ってよ。主婦の務めでしょ?」


 純香は、絶対にこの人のことを『お母さん』とは呼ばない。きっと、今まで一度もお母さんと呼んだことはないだろう。私が六歳の時、この人は家に来た。

 二つ下の純香は四歳。分かっていたのかいなかったのか、純香はいつも「この人はお母さんじゃない」と泣きわめいていた。そんなあの子がこんなに立派になって、反抗中。うーん、立派だ。

 これじゃ、私がいじめられてるなんて言えそうにないね。まあ、いじめと言ってもそんなたいしたものじゃないでしょう! ってか、私が何をしたんだっけ?

 まあいいや。とりあえず、部屋に戻って今日の授業の復習でもしておこう!

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